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番外編24 侍従オーディション3(ロジェ編⑩)




「さて、気を取り直して次の組の挑戦です!」



 こうなることを予期していたのか、清掃スタッフが手早く割れた食器や料理の残骸を片付けていく。


 彼らの中には昨年以前の侍従オーディションで運営者の目に止まり、フィオル公爵家の使用人になった者もいる。



「ふふん! こんな事もあろうかと、酒場のホールで修行をしておいて正解でした」


「こちとら、宿屋の息子でね。こんなものは朝飯前だ!」


「おっと、何やら余裕の笑みを浮かべている挑戦者が……?」



 一組目、二組目はスタートラインを跨ぐことなく全員脱落したが、三組目は様子が違った。


 五人中三人が例によって歩き出す前から脱落したものの、残りの二人の挑戦者が安定した足の運びで前に進み始めたのだ。



「三十二番と三十七番の挑戦者が中間地点を突破! このままゴールなるか?」



 最初の種目でまさかの全員が脱落では困る。そんな思いから期待のこもった眼差しで二人の挑戦者を見守るリベラだったが、ここで事件が起きた。



「はうっ!」


「ほぅ……」



 順調に足を進めていた二人が、急にバランスを崩して食器を取り落とす。



「あ〜っと、ここでまさかの二人同時に脱落! いったい何があったのでしょうか? おっとあれは! 我らがエカテリーナ様です!」



 ゴール正面の貴賓席。玉座に腰を掛けたエカテリーナが、退屈そうな表情を浮かべながらすらりと長い足を交差させて足を組んでいた。



「どうやら、脱落した二人はエカテリーナ様が足を組んだ瞬間を目にして、悩殺されてしまったようです。思わぬトラップですが、いつ如何なる時でもお嬢様の行動に惑わされず、スマートな対応をすることが侍従には求められます」



 その後も椅子の座り心地が良くないのか、退屈なのか、度々エカテリーナが足を組み替え、コースの中程や終盤まで進んでいた挑戦者たちがその餌食となった。


 慣れていない一般人にとって、エカテリーナの美貌はもはや凶器のようだ。


 見なければいいだけの話なのだが、ゴール正面に彼女の席がある為にどうしても目に入ってしまう。


 しかし侍従ともなれば見ずにお世話をするなど不可能のため、この程度で動揺したり悩殺されたりする人間は不要だ。



 実に八割もの挑戦者が皿や料理をダメにしていく中、ロジェの順番が回ってきた。



「さて、ここで皆さんお待ちかね! 現在エカテリーナ様の侍従を務めている前回王者にして最有力候補、ロジェ・メレディス・ブランドーの登場です!」


「きゃあ〜、ロジェ様〜」


「ステキ〜」



 リベラの説明と同時に、観客席から黄色い声があがる。


 普段の言動のせいで忘れがちだが、ロジェは黙っていれば美貌の貴公子に見えるのだ。そのため、女性人気も高い。



「さすがは現役と言うべきか! 流れるような足運びで、最速クリア……おっと!? ここでロジェに追いついて来たのは百三十一番! マッシヴ・ディケンズだ!」



 最終組はロジェの一人勝ちかと思われていたが、ここへ来て彼の背中に追いすがる者が現れた。


 マッシヴ・ディケンズ。彼は細身のロジェとは対照的に、筋骨隆々で逞しい体躯を誇っている。


 侍従というより、戦士と言われた方がしっくりくる体格だが、なかなかどうして精悍で整った顔つきをしていた。



「競り合いながらゴールした二人! 素晴らしい追い上げを見せるも、前回王者に僅かに届かなかったマッシヴ選手! しかし、良い戦いでした!」


「へえ、なかなか面白そうな奴がいるじゃねーか」



 解説するリベラの横で、グレイが目を細める。


 

 これまでのオーディションはいつもロジェの圧勝だったと聞いていたリベラは、ふと気になってロジェの様子を見ると、彼は肩で息をしていた。


 リベラは珍しいこともあるものだと思いつつも、次の瞬間にはオーディションの進行に意識を切り替える。



 その後も重量上げ、コーディネート対決、侍従の仕事に関するクイズ等が行なわれ、残すところ最後の種目のみとなった。


 残っているのはロジェと、最初の種目でロジェと競り合っていたマッシヴの二人のみだ。



「最後の種目は紅茶のサーブです。最終種目はエカテリーナ様直々に審査していただき、より彼女の好みのお茶を淹れた方が優勝となります!」



 リベラが説明をする間にテキパキと椅子とテーブルがセッティングされ、エカテリーナが競技場に姿を現す。



 ロジェとマッシヴ。二人は用意された茶葉を慎重に吟味している。


 茶の準備が整うまでの間、エカテリーナはテーブルに肘をついて両手を組み、その上に顎を乗せて何を見ているともつかない眼差しでぼんやりしていた。


 テーブルマナー的にはあまり宜しくないのだが、そんな仕草も実に彼女らしく、また観客の視線を欲しいままにしている。



「どうぞ」


「こちらも淹れ終わりました」



 同時にお茶を淹れ終えた二人が、エカテリーナにカップを差し出す。


 リベラは微かにだが、ロジェの手が震えて紅茶の水面が波打ったような気がした。



 エカテリーナのテイスティングを皆が固唾を呑んで見守る。



「こっちの方が好みね」



 一口ずつお茶を飲んだエカテリーナがあっさりと審査結果を口にする。彼女が選んだのはロジェの淹れたお茶だ。



「決まりました、優勝はロジェ・メレディス・ブランドーです!」



 リベラの高らかな宣言に続いて、拍手と歓声が巻き起こったが、優勝したはずのロジェはどこか浮かない表情をしたままだった。




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