番外編21 ユーリマンの収集癖
※ユーリマンが変態的なので閲覧注意です。
最初から彼はこういう設定の元で書いていますが、イメージが崩れるのを嫌われる方はブラウザバック推奨です。
変態ユーリマンもウェルカムという方のみどうぞ。
「ねえ、ちょっと聞いてくれないかしら」
「あら? どうしたの?」
その日の茶会は、席に着くなり息せき切ったようにヴィオレッタが話し始めた。
彼女は新婚で、言わば幸せ絶頂期のはずなのに彼女は顔を強ばらせて幸せとは程遠い表情を浮かべている。
そんなヴィオレッタに目を見張って軽く驚いたように対応したのはイザベラだ。
いったい何があったのだろうか?
そう思い、リベラはキャサリンのためのお茶を準備しながらユーリマンを横目で見たが、彼はヴィオレッタとは対照的にニコニコと微笑んでいつも通りの給仕を続けている。
慢性的な寝不足が解消された彼は、結婚前と比べて実に元気そうだ。
リベラもユーリマンもラザロスも、公女の夫となり身分的には手ずから公女の世話を焼く必要がないのだが、結婚した今も彼らはこれまでと変わらず公女に付き従っていた。
「ラッセルにいた時もそうだったんだけど、家に一室だけ開かずの間があるの」
「まあ! 開かずの間だなんて、何だか魅力的な響きね」
ジャスミンが面白そうと、目を輝かせた。
給仕の手を止めずに話を聞いていたリベラは、キャサリンなら開かない扉は壊して開けようとするだろうなという考えを頭の片隅に追いやる。
「開かずの間と言っても、ユーリマンが鍵を掛けているだけよ? ただ、入れてもらえないからこそ中がどうなっているのか気になるじゃない? それで先日、たまたまドアが開け放たれていて、興味本位で中を覗いたの」
「それで、いったい何があったのかしら?」
話の続きを促すキャサリンの声は心做しか弾んでいた。
「私はてっきり、ユーリマンの研究材料だとか危険な薬品が収められているのだと思っていたの。でも、違ったのよ。薬瓶もあったけれどそれだけじゃなくて、ペンやカトラリーの他、見覚えのあるドレスや靴が置かれていたの」
「いったい何の部屋なのかしら? 倉庫にしても雑多に物が入り乱れているわね?」
「そうなの、エカテリーナ。それで、部屋の入口に立ったまま考え込んでいたら、背後から突然、『見ましたね?』という声がして。驚いて振り向いたら、ユーリマンが立っていたの!」
「こわっ!」
これには思わず口を挟んでしまったリベラがいた。しまったとすぐに口を噤んだものの、ヴィオレッタのその体験は完全にホラーだと身震いをする。
「思わず悲鳴を上げたらユーリマンが謝ってくれたけれど、やっぱり何の部屋か気になるじゃない? だから、『あれは何?』って聞いたの。……でも後にして思えばそれが間違いだったわ」
ごくりと固唾を呑む音がした。
せっかく侍従たちが温かいお茶を淹れたというのに、公女の誰もが一度も手をつけていない。
「ここで話すのも何ですからって中に通して、一つひとつ部屋の中のものについて丁寧に説明してくれたんだけどそれが全部、私が失くしたと思っていたものや、捨てたと思っていたものだったの!」
「それは……有罪ね」
「何でしょうか?」
言いにくそうに、けれど裁判官のようにはっきりとイザベラが判決を口にしたのと同時に全員分の視線がユーリマンに注がれたが、彼は王族の余裕で躱している。
あるいは、何が悪いのか本当に分かっていないのかもしれない。
「問題はそれだけじゃないの。あれこれ説明してくれたけれど、その内容がすごくて酷いの! 『これは三年前の六月七日に貴女が作った育毛剤の失敗作で、鼻の毛の成長だけを異常に促進する薬です』とか、『これは二年前のハイラス殿下の生誕祭の際にヴィオレッタが着ていたドレスで、縁起が悪いから処分すると言っていたものだよ』だとか、『これは貴女が九つの時の十二月十五日に、お転婆が過ぎて本邸の中庭で片方を失くしてしまったと言って泣いていた当時のお気に入りの靴ですよ。探すのに苦労しましたが、やはり両方揃っている方がいいですよね』だとか、事細かなエピソード付きの説明なのよ?」
想像の斜め上を行く話の内容に、全員が棒でも呑み込んだかのような表情をして絶句している。
全てを理解したリベラは、背筋を冷たいものが走り、鳥肌が立つのを感じた。
邪竜討伐の際、野営中に荷物を整理しているユーリマンにリベラは何の気なしに『それは何だ?』と訊ねた事があった。
そして、『ヴィオレッタ様の涙の結晶を整理している』と言って、ユーリマンは一つひとつ丁寧に小瓶に入れられたそれを見せながらどれがいつの涙でどういう経緯で流した涙であるか説明してくれたのだ。
その時は、ヴィオレッタの涙はとても貴重なものだから、きっと管理にも気を遣っているのだろうと饒舌に語るユーリマンに圧倒されながらもリベラは納得していたが、真相はそうではなかったらしい。
ユーリマンは涙だけではなく、ヴィオレッタにまつわるあらゆるものを収集する趣味を持っているようだ。
「いや、偏執的過ぎてさすがに引くわ……」
「……すまないが擁護できない」
「ややや! 僕も女神のようなエカテリーナ様のお手が触れたモノを収集したいと思ったことはあるが、泣く泣くお召し物と靴以外は処分しているというのに……」
「ロジェ、後できっちりお話し致しましょうね」
どん引きするグレイと、ユーリマンの嗜好に理解を示そうとして失敗したラザロス、そして迂闊にも墓穴を掘ったロジェ。
いつもはぼんやりしているエカテリーナが、冴え冴えとした緑の瞳でロジェを睨んでいる。
ヴィオレッタ様、逃げて下さい!
リベラは心の中でそう叫んだが、もう遅い。彼女は偏執的な男と結婚してしまっている。
「ま、まあ、人には色んな趣味や嗜好があるものね」
「そ、そうね……」
「自分の価値観だけで物事を判断するのは良くありませんものね。ホホホホホ!」
珍しく動揺の色を顕にしながら取り繕うジャスミン、イザベラ、キャサリンの姿がやけに印象的にリベラの記憶に刻まれた。
【五侍従常識人ランキング】
1位 リベラ
常識人ゆえに苦労人。
ラザロスだけが味方と思っている。
2位 ラザロス
視野が広いのでわりと何事も寛容に受け止められる。
3位 グレイ
人並みの常識は持ち合わせているものの、脳筋のためこの順位。
4位 ユーリマン
普段は常識人に見えるけれど、ヴィオレッタが絡むと壊れる。
5位 ロジェ
常識に寄せるのではなく、常識が自分に寄ってこいのタイプ。




