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第26話 侍従たちの会合




 魔塔からユリーナ公爵家に場所を移したラザロスとグレイは、リベラ、ユーリマンを交えて四人で話し合っていた。



「ヴィオレッタ様は?」


「キャサリン様とお泊まり会だ」


「ジャスミン様も一緒だ」



 侍従四人で集まっているが、公女三人もあちらはあちらで集まって楽しくやっているらしい。今夜は恐らく眠らずに一夜を明かすのだろう。


 前々回の茶会の際にユーリマンから事情を聞いていたラザロスはヴィオレッタのことを気に掛けていたが、どうやら要らぬ心配だったようだ。


 自分の知らない間にそれぞれの主人のお泊まり会を企画し、根回しをするリベラ、ユーリマン、グレイのそつの無さにラザロスは感心した。



「ロジェはどうした?」


「アイツがいると話がややこしくなるんだよ」



 いつもの仲間内で一人だけ不参加のロジェはどうしたのかとユーリマンが訊ねた。


 それに対して、グレイは渋面を作って忌々しげに答えたことで、ロジェは敢えて呼ばれなかったのだと皆が理解する。



「まあいいか、うるさいし」



 さりげなくリベラが酷いことを言ったような気がしたが、ラザロスは聞こえなかったことにした。




「それで、例の薬の手掛かりが見つかったというのは本当なのか?」


「ああ、先日たまたまお嬢様が金貨五億枚で衝動買いしたこの本に書かれていた」


「五億!?」



 身を乗り出して本題を促すユーリマンにリベラが提示したのは、一冊の古びた本だった。その表紙には、所々掠れた文字で『黒竜と巫女』と書かれている。



「この本に登場する巫女がヴィオレッタ様と同じ体質だったみたいだ。そして、黒竜……つまり邪竜の逆鱗を自身の涙と共に体内に取り込んだ巫女は、癒しの涙を出す事が出来なくなったとこのページにある」


「その話の信憑性は?」


「そう言われると思って他の文献も漁ってみたところ、西部地域一帯の辺境の村に同様の伝承が遺されているのを確認した」



 興奮気味に説明をするリベラに、ユーリマンは努めて冷静な様子で確認をする。



「勿論、まだ調べ切れていない部分、裏取りが不十分な部分があるのは分かっているから、オレの方でじっくり調べてみようと思う」


「それが、そうも言ってられなくなってな……」


「グレイ、それはどういう意味だ?」


「コイツが、バカ殿下の生誕祭までに邪竜を倒してくるって王様と約束しちまったんだよ」


「はあぁっ!?」


「申し訳ない」



 リベラが頓狂な声を室内に響かせる中、グレイに指差されたラザロスは頭を下げた。



「まあそう怒ってやるなよ。俺たちだって、自分のとこのお嬢様がアホ殿下の妃にされるとなったら黙っちゃいられないだろう?」


「それは、消しますね」



 グレイの問いにユーリマンが即答する。何を消すのかとは誰も聞かないが、彼は眼鏡の奥にキラリと不穏な光を宿していた。


 先程からグレイはハイラス王子に対して不敬な言葉を重ねているが、この場にそれを咎める者は皆無だ。



「そんな事だろうと思ったけど! ラザロスがやらかすとか、イザベラ様絡み以外有り得ないだろ! でも何も今、このタイミングでやらかさなくてもいいだろう!?」



 リベラは一定の理解を示しつつも、ガシガシと頭髪が乱れるのも構わず頭を掻き毟って不満を零す。



「というわけで、明後日だ。明後日の朝、邪竜討伐に向けて出発するぞ」


「駄目だ、無謀過ぎる! さっきも言ったが、ヴィオレッタ様の体質を打ち消す方法は見つかったかもしれないが、邪竜の倒し方はまだ見つかってないんだ。どうやって倒す気なんだ?」


「それは戦ってみないとわからない」


「まあ、何とかなるだろ」



 出発の日取りを決めようとするグレイに、リベラは反対の意を唱える。どうやって倒すのかと訊ねるリベラの質問に対するラザロスとグレイの答えは、ひどく曖昧なものだった。



「ラザロス、君は邪竜が恐ろしくないのか? それにグレイ、君もだ。何故、そんなに楽天的でいられる?」


「俺は、イザベラ様を失う方が怖い」


「邪竜は確かに怖い存在だが、うちのお嬢様より怖いものなんてこの世に存在しないだろう。それにジャスミン様にいい鍛練になるから、邪竜を倒して来いと言われたんだ」



 邪竜より怖いお嬢様。突拍子もない発言に聞こえるが、グレイにとってはそれが真実なのだろうとラザロスは妙に納得していた。



「これだから脳筋は嫌なんだ! ユーリマン、君は?」


「私は、ラザロスとグレイが行くと言うなら共に行こうと思う。どうせ私一人では戦えないからな」


「三対一で決まりだな」



 さっさと話をまとめようとするグレイをリベラは恨みがましい目で睨み付けた。


 と、そこへ。




「話は聞かせてもらったよ!」



 パッとドアが開いて、乱入する者の姿があった。その人物はドアの縁に左手をついてもう一方の縁にもたれ掛かって、右手を額に当てて長い手足を強調するようなポーズを取っている。


 無駄に華々しい登場だ。



「ロジェ!?」


「酷いじゃないか、僕だけ除け者だなんて」


「ロジェ、君はどこで話を聞き付けたんだ? それにいつから聞いていた?」


「キャサリン様がエカテリーナ様を女子会に誘って下さったんだ。いつからという問いに対する答えなら、『ヴィオレッタ様がキャサリン様とお泊まり会』のくだりからになるな。旅には僕も同行させてもらうよ」



 ロジェの登場に驚いた一同。ロジェの苦情をよそにユーリマンがいち早く彼がここに来るに至った経緯を訊ねると、ロジェは珍妙なポーズを解いて事も無げに答える。



「この俺が気付かなかっただと!? こんなド派手な奴なのに!?」


「も〜う嫌だ! オレの周りって、何でこんなにバカと脳筋と無鉄砲ばかりなんだ?」



 それぞれ別の理由でショックを受けたグレイとリベラの絶叫が扉の向こうの廊下にまで響き渡った。




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