第12話 侯爵令息たちの求婚(リベラ編②)
買い物から帰ると四組の来客があると侍女に知らされたキャサリンは、それぞれバラバラに応対するのはまだるっこしいと言って、全員を一つの部屋に案内した。
「それで、侯爵令息の皆さんが四人も揃ってどうされたのかしら?」
上座に置かれた玉座のような肘掛け付きの豪奢な椅子には、キャサリンが足を組んで座っている。その対面に硬い表情をした四人の侯爵令息が、横一列に並んで立っていた。
来客の応対なのに、まるで王の謁見の間のような構図になっている。
「はい、キャサリン様に求婚に参りました」
「……そう。貴方は?」
「私もです」
「貴方も?」
「はい」
「貴方もなの?」
「ええ、私もです」
「公女様、私も求婚に参りました!」
キャサリンに問われた侯爵令息たちが口々に求婚に来たことを告げる。
「ハハハ、お嬢様モテモテですね」
眼前に広がる珍妙な光景に、キャサリンの横に控えていたリベラは頭を抱えたくなった。
キャサリンたちは『幻惑の五公女』と呼ばれているが、それに对を成すかのようにこの国には『花の五侯爵令息』と呼ばれる五人がいる。目の前の彼らがそのうちの四人で、残る一人は何を隠そう、五公女の侍従仲間であるラザロスだ。
ベルティ、リンドホルム、マグワイア、ニコルズ、そしてオベールの五侯爵家には未婚の子息がおり、申し分ない身分と整った顔立ちでそれぞれ女性人気が高い。彼らの妻の座を巡って、水面下で争いが起きているとも言われている。
そんな彼らを、このようなぞんざいな扱いをして良いものなのかリベラには分からなかった。いくら面倒だからといってそんな事を仕出かす令嬢は、世界広しと言えどキャサリンしかいないだろう。
キャサリンへの求婚者はこれが初めてではないが、さすがに四人も同時にやってきた前例はない。
本来であれば一度全員を帰して、後日改めて個別に話をするのが普通なのだろうが、そもそも異常な状況で混乱しているところにキャサリンの気の短い性質が合わさって、おかしな状況のまま話が進んでしまっている。
「何故、四人揃っていらっしゃったのかしら?」
「今年のハイラス殿下の生誕祭で、殿下の婚約が発表されるのではないかと貴族の間で噂されているのはご存知ですか?」
「ええ、存じ上げておりますわ」
事も無げにキャサリンは首肯するのを見て、先日の茶会の際、乱入してきたハイラス殿下自身が婚約を仄めかすような内容の話を口走っていた事をリベラは思い出していた。
人の口に戸は立てられない。茶会の様子を窺っていた誰かから、あの話が漏れたとしても不思議は無い。
リベラは誰にも気付かれないように、拳をぎゅっと握り締める。
「貴族たちは皆、殿下の婚約者になる方はきっと公女様方のうちのどなたかに違いないと噂しております」
「あら、それは存じ上げませんでしたわ」
嘯くキャサリンの顔がほんの一瞬歪んだのを、リベラは見逃さなかった。
いくら公爵家でも、王家から直々に婚約の申し入れがあれば断ることは出来ない。だが、公女たちが王子との結婚を望んでいないことをリベラは知っている。
それに、リベラにとってもキャサリンと王子の婚約は避けたい事態だ。
「殿下との婚約が決まってしまえば、我々にはどうすることもできません。ですが、今ならばまだチャンスがある。逆に言えば今を逃せば貴女を手に入れることは永遠に叶わないでしょう。そう考え、即座に行動に移したところ、お邸の前で他の御三方と鉢合わせしてしまったのです」
つまりは、最近ハイラス王子のお妃選びが本格化してきており、その有力候補と見られている公女のキャサリンが王子に取られる前に求婚してしまおう、ということらしい。
リンドホルム侯爵令息の言葉に、他の三人も深く頷き合っている。これから一人の令嬢を奪い合う仲だろうに結束が感じられて、それだけキャサリンが強敵ということなのだろうかとリベラはおかしく思った。
「話は分かりましたわ。ですが、私は今はどなたとも結婚する気はございませんの。お帰りはあちらですわ」
「そこを何とか! 手ぶらで求婚というのも格好がつかないので、キャサリン様への贈り物も持参しているのです」
あっさりと袖にしようとするキャサリンに、必死の形相で侯爵令息たちが取りすがる。この光景を彼らに恋する令嬢たちが目にしたら、卒倒してしまうことだろう。
「心を込めて選びました。きっとキャサリン様に気に入っていただけるだろうと確信しております」
「そうね……。私を唸らせ、心から満足できる品をお持ちいただけたのなら、婚約の件を考えて差し上げてもよろしくってよ」
「ありがとうございます!」
取り付く島もなく追い返そうとしていたキャサリンが一応は話を聞く姿勢になったことで、額の汗を拭い、ホッと胸を撫で下ろす侯爵令息たち。
しかしそんな彼らとは逆に、リベラは何か嫌な予感がして、胸の奥がざわつくのを感じていた。




