↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/77

第11話 キャサリンの買い物(リベラ編①)




「あら、あの本は持っていないわね。リベラ、お願い」


「はい、お嬢様」


「まあ、見たこともない置物だわ。リベラ」


「はい」



 その日、リベラは地獄のような責め苦を味わっていた。


 週に一度、キャサリンは街に買い物に出掛ける。まさにその買い物の日、荷物持ちとして彼はキャサリンに付き従っていた。


 彼女が買うものと言えば、主に書物になるのだが、その他にも初めて見る物・所有していないものであれば、お金に糸目を付けず手当たり次第に買ってしまう。


 すると、リベラの手元にはあっという間に買い物の荷物の山が形成され、もはや正面が見えない程に積みあがった荷物にリベラの腕は悲鳴を上げていた。


 リベラにとってキャサリンとの買い物は毎週確定で訪れる地獄のようなイベントだ。国一番の財力を持つユリーナ公爵家のご令嬢ともなれば、その辺にいる資産家とは格が違う。


 時に国家予算レベルの大金を何食わぬ顔で動かしてしまうのがユリーナ公爵家の人間だ。


 たった一日で、国の経済をぶん回してしまうのがキャサリンが街で密かに女神と呼ばれている所以ゆえんだった。



「お嬢様、もう、前が見えません……」



 重量過多でプルプル震える腕に限界が近い事を悟ったリベラは、前が見えない理由は果たして荷物のせいなのか、滲む涙のせいなのか分からなかった。


 ただでさえ、女性の買い物は長いと言う。一度馬車に戻るなり、休憩を挟むなりしてくれれば良いのに、キャサリンは一週間分の鬱憤を晴らすかの如く、ノンストップで買い物に熱中する。


 珍しく菓子屋に立ち寄ったと思えば、菓子のみならず従業員含め店ごと買い取ったこともあった。


 困ったことに誰の目にも気まぐれで買い取ったようにしか見えなかった店の売上が、オーナーがキャサリンに変わった後に何倍にも跳ね上がり、今では王都一とも言われる有名店になっっている。そのせいで誰も彼女の大胆な買い物を咎めることが出来なくなっていた。



「うーん、それならあの通りを見たら帰る事にしましょう」


「まだ行かれるんですね……」



 あと一時間は帰れなさそうだと、リベラは悲壮感に満ちた表情でキャサリンの背中を追った。




*****



「疲れた……」



 やっとの事でキャサリンの買い物が終了し、馬車で屋敷に戻ってきたリベラは疲れ切っていた。彼の足元には大量の本が積み上げられている。


 大部分の購入品は後日請求書とともに屋敷に届けてもらう手筈になっているが、本だけはキャサリンの希望により毎回その場で引き取って持ち帰っている。


 持ち帰った本は、書庫とは別に設けられたキャサリンの読書部屋に運び込まれる予定だ。



 肩で息をするリベラは、毎週こんなにボロボロになるなんてやはり仕える主人を間違えたのだろうかと一人自問する。


 しかし、彼がキャサリに恩義を感じ、一人の女性として好意を寄せているのもまた事実であった。



 リベラはもともと少数派部族の生まれで、幼い頃に彼の住んでいた村が、盗賊によって壊滅させられたという過去を持っている。その時、リベラは七歳であったが人攫いに遭い、奴隷商によって闇の競売にかけられた。それを拾ったのがキャサリンだった。


 なんとキャサリンは当時五歳にして、リベラを落札してしまったのだ。


 何故、公爵家の人間が人身売買をするような闇のオークションに参加していたのかはわからないが、後日そのオークションの主催者並びに出品者は皆、消息を絶ったとリベラは記憶している。


 奴隷商のもとで過ごしたのはほんのひと月ほどのことだったが、その環境はまあ酷いものだった。


 光の入らない暗くじめじめとした檻の中で手枷足枷を付けられ、三日に一度、カビの生えたパンと具のないスープを食事として与えられるだけのあの日々を、彼が忘れる事はないだろう。


 キャサリンとキャサリンの祖父によってユリーナ公爵家に引き取られたリベラは、上等な仕立ての服と質の良い持ち物、上等な部屋を与えられ、特に仕事を申し付けられる訳でもなく、当初は暇を持て余していた。


 大金を出して自分を買ったのだから、何か自分にさせたい事があるに違いないと思い込んでいた彼にしてみれば拍子抜けもいいところだ。


 キャサリンは同じ空間にいるだけで特に話し掛けてくる事もなく、リベラに見向きもせずにひたすら本を読んでいる。


 そんな日々が続いて、自分は本以下かと無性に腹立たしく思ったリベラが、何をそんなに夢中になって読んでいるのか暴いてやろうとキャサリンに顔を寄せて本を覗き込んだのが二人の関係を変えるきっかけとなった。


 驚いた様子で振り向き、釣られて振り向いた自分を至近距離で見つめてきた幼いキャサリンの顔をリベラは今でも覚えている。


 頬を薔薇色に染めて、綺麗とただ一言キャサリンは呟き、真正面からリベラの金色の瞳を見つめていた。


 そのたった一言で、リベラの幼い心臓はうるさいくらいに高鳴り、リベラは彼女の役に立ちたいと思うようになった。


 この日を境に二人は会話を交わすようになり、またリベラは自らキャサリンの侍従になる事を願い出たのである。




「あ、お嬢様ー! 今お戻りだったんですね〜」


「ええ、今日もいいお買い物が出来たわ」



 幼き日の自分の決断は正しかったのか、疲れで思考力の鈍った頭で考えていたリベラだったが、パタパタと駆け足で階段を降りてやってきた侍女の声に、現実に引き戻された。


 駆け寄ってきた侍女に、キャサリンは満足げに本日の戦利品を示している。



 来週はともかく、これを部屋に運び込めば今日の苦行は終了だ。


 そう思っていたリベラだったが、彼の希望は侍女の一言によってすぐに打ち砕かれる事になる。



「うわ〜、今日も壮観ですね! ……あ、それはそうとお嬢様、一大事なんです。なんと、またお嬢様の求婚者の方々がお見えなんです!」



 爆弾発言に、リベラは疲れも忘れて目を見開いた。




2023年5月1日の活動報告にて、こちらの話の挿絵を公開しております。

もしよろしければ合わせてご覧下さい。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/262376/blogkey/3145303/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。