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宝島で逢いましょう  作者: 沖藤 花香
第二章 出会い
6/7

1.

2011年6月 愛知県名古屋市


 あれから一年が過ぎた。

章斗は翔馬の提案で翔馬が働くレストランの面接を受けるが、結果は不合格だった。それから近所のお弁当屋で働きだしたが、やはり翔馬と働く事を諦めきれなかった為、二ヶ月後もう一度翔馬が働くレストランの面接を受けたのだ。面接官の選考は、またしても不合格であったが、二度目の面接という事だった事から、面接官は「系列店のカフェが人員不足だから、このカフェでも構わないという事なら採用できる。」というような事を章斗に提案した。章斗は迷ったが、働いていたお弁当屋の給料は安かったし、翔馬と一緒に働く事はできないが、時給は申し分なく良かった為、お金も貯めやすいと判断し、そのカフェで働くことを決めたのだ。

それから一年が経つ。翔馬はレストランでアルバイトリーダーになり、章斗はカフェでアルバイトサブリーダーになっていた。

慌ただしい毎日が続いていた。1Kの章斗の部屋の壁に貼られている、コーラのカレンダーを見ると既に六月になっていた。そして今日は六月四日。翔馬の25歳の誕生日だ。部屋の片づけを終え、一息つきながら慌ただしかった今までの事を思い出していた。

 そして玄関の鍵が開けられる音がした。誰が来るかわかっていたし、合鍵を持っているのは一人しかいない為、驚く事もなく玄関へ向かった。

「よっ。」玄関の扉を開け、軽く右手を挙げながら、翔馬が言った。

章斗はよく携帯電話も落とすし、貴重品を失くす名人だった事から、家の合鍵も翔馬に渡しておいたのだ。

「お疲れ様です。」聞こえるか聞こえないか位の小さな声で、章斗は言った。

「今日はわざわざありがとう。」

部屋にあがるなり、翔馬が言う。

「いや、大丈夫ですよ。今日は休みでしたから。でも自分の家なんかで良かったですか?彩は・・?」

 去年は翔馬と彩の家で誕生日祝いをしていた。だが今年は翔馬から、「家はちょっと・・」という話しを聞いていた為、章斗の家に集まることにしていたのだ。

そのことに対しても、章斗は疑問に思っていたのだ。

「彩は今日帰りが遅いらしいし、章斗にもわざわざ金山まで来てもらうのは、悪いかなと思ってさ。」

翔馬はあまり目を合わせずに言った。その顔は一瞬曇ったようにも見えたが、今日は誕生日だし、あまり突っ込まない方がいいかと章斗は思い、それ以上そのことに関して聞く事はなかった。

 実は章斗と翔馬が会うのも去年の翔馬の誕生日以来なのだ。まさに一年振りの再会だった。二人はピザの出前をとり、お互いの近況状況を話した。

 章斗の考えとしては、月に一度位は集合し、その月に貯まった金額の事やお店を出すにあたってのこらからの事などを相談して行きたかったのだが、お互い忙しかった事もあり、連絡さえもすることがなかったのだ。

 この時もお店の開業にあたっての話しに触れてみたが、翔馬の返事は「お金が貯まらない限り、なかなか難しいよ。」の一言だった。

 その後は翔馬と章斗が働く職場の話しで盛り上がった。レストランとカフェでお店は違うが、経営している会社は一緒なので、アルバイトでもヘルプで行き来もするし、社員も両方の店舗に顔を出す為、特に社員の話しなんかは、共通して話せるのだった。

「そういえば明後日、自分と同い歳の女の子が新しく入ってくるんですけど、なんか情報知っています?」

章斗が聞いた。

「そうなの?いや、それは初耳だから最初からカフェ希望だったんじゃない?」

翔馬は煙草を吹かしながら言った。つまり章斗の時みたいに、本人の希望外の店舗じゃなかった事から、レストラン部門のリーダーである、翔馬の所には連絡が来ていないという意味で言った。

「そうですか・・いや、最近色んな人がいるからさ、すぐ辞めていく人も多いし、どんな子かわかるかなと思って・・名前から判断するとすぐ辞めそうな名前なんだ。」

 章斗は半笑いしながら言った。

「なに?そのすぐ辞めそうな名前って・・失礼じゃん。」

翔馬はそう言いながらも、章斗につられるように笑って返した。

朝倉菜月あさくらなつきっていう名前でさ、なんか今時の名前っていうか、すぐ辞めそうじゃない?」

章斗がそう言うと、翔馬は煙草を吸いながら、遠くを見るような目で眉間を寄せた。

「朝倉菜月ね・・。」

そう呟いた。


その時、翔馬がどんな想いでそう呟いたのかは、気にもとめなかったし、考えてもみなかった。あの日が来るまでは・・。







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