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宝島で逢いましょう  作者: 沖藤 花香
第二章 出会い
7/7

2.

 今日はいつもより早起きした。ピンク色のカーテンは奇麗にリボンで縛られており、窓からは明るい朝日が差し込んでいた。

白色が基調された部屋には、本人の好みであるパステルカラーのピンク色で、家具等も揃えられていた。テレビからは朝のニュース番組が流れており、キッチンからは朝食の卵焼きとベーコンの調理した匂いが漂っていた。白色のこたつテーブルには、食べ終わった茶碗が置きっぱなしになっている。ソファには先ほど選んだ洋服が無造作に置かれていた。

 洗面台の鏡に向かって、髪の毛を後ろに束ねた。セミロングの長さだが、ギリギリ束ねられた。

「よし。」朝倉菜月あさくらなつきは自分の顔を鏡越しに見つめ、そう呟いた。

 今日から新しいアルバイトの出勤だ。ソファに出しておいた洋服に着替え、茶碗を流しに置き、鞄を肩にかけながらテレビのスイッチを切った。

「火元よし、エアコンよしと・・」独り言でそう言うと、腕時計に目をやった。少し早いが、初出勤だしもう家を出る事にした。

 菜月が今日から働く職場は名古屋駅近くにあった。家の最寄り駅は、市営地下鉄東山線の中村公園駅だった為、乗り換える事もなく7分程で、名古屋駅に着くことができる。

 駅から10分くらい歩き目的地の職場に到着した。菜月は入口で足を止めた。濃いナチュラルブラウン色を基調とした建物で、入口には植物が沢山植えられており、植物のアーチが出迎えてくれている。ディスプレイとして鳥かごなども飾られていた。とてもお洒落で奇麗なカフェだった。

 入口を潜ると石畳の道が店舗へと続いていた。扉は木でできており、開けると扉に付けられている鈴が奇麗に鳴った。

 中に入るとすぐレジカウンターがある。こちらも木でできたカウンターで、上には植物や小鳥のディスプレイなどが飾られている。そのカウンターの横に大柄の男性が背を向けて、作業をしていた。どうやらノートか紙を見ているようで、ページを激しくめくる音が聞こえてきた。

 扉の鈴が鳴った為、誰かが入ってきたのはわかったようで「あ、山崎くんおはよう。今日さマネージャーが来るって知っていた?」

大柄の男は振り返る事なく言った。菜月は少し戸惑ったが、「おはようございます。」と声をかけてみた。

 するとその男は自分の予想していた答えと声が返ってこなかったので、とても驚き、勢いよく菜月の方へ振り返った。

「あ・・すみません。てっきり山崎かと思って・・。えーと、なんだっけ。今日から出勤の方でしたか?」

あまりにも驚いたのか言葉はめちゃくちゃだったが、丁寧さは伝わってきた。

 「あ・・驚かせてしまったようで、すみません。今日からお世話になります、朝倉です。宜しくお願いします。」

菜月は一気に話すと丁寧に頭を下げた。

「いやいや、ご丁寧にどうも。こちらこそ、なんかすみませんね・・。えーと、僕は森といいます。更衣室を案内しますね。」

大柄の男は落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと話した。

顔を見て話した感じだと、30代くらいかなと菜月は思った。

 男の後に続き店内を歩いた。レースやカーテン、ビーズカーテン等で個室感覚を作れるお洒落な客席をいくつも通り越した。床は所々がガラス貼りになっており、蓮の花やハイビスカスなどが、ビーズ等と一緒にディスプレイされてる。森の後ろ姿を見て歩いていると通路がとても狭く見えた。その後ろ姿に「とてもお洒落なお店ですね。」と声をかけた。

「ありがとうございます。と言っても僕のお店じゃないですけどね。お洒落ですよね。やっぱり女性のお客さんに人気ですよ。」

森は愛想よく丁寧にそう答えた。

「やっぱりそうなんですね。」

菜月がそう言った時には、スタッフルームの前まで来ていて、足を止めていた。

「はい。・・それでここがスタッフルームになります。朝来た時は鍵がかかっているので、この鍵で開けて下さい。あと、出るときも必ず鍵をかけて下さい。」

そう言いながら、豚か熊かわからないが、黒いキャラクターのマスコットがついている鍵を菜月に手渡した。

「わかりました。ありがとうございます。」

「多分もう少しで山崎くんが来ると思うので、お待ちくださいね。あ!着替えわかりますか?」

「いいえ。」菜月はそう言った後に「白いワイシャツを持参という事だったので、ワイシャツなら持ってきました。」と付け加えた。

「じゃあ、棚の中にパンツとエプロンが入っているので・・・」

と言いながら、スタッフルームに入り説明した。

森は一通り説明を終えると、「じゃ着替えて待っていて下さいね。」といい重たそうな体を軽やかに動かし早足で離れていった。

 菜月は山崎って誰だろうと思ったが、話しの流れから偉い人かなと思った。

 スタッフルームで一人になった菜月は、改めて部屋を見渡した。店内と違って蛍光灯も昼白色でハッキリ見える為、白い壁が煙草のヤニや日焼けの跡で黄ばんでいるのがよくわかるし、決して奇麗とは言い難いほど散らかっていた。「別世界だな。」と菜月は苦笑い混じりで独り言を言った。

 新品のワイシャツに腕を通し、ユニフォーム姿の自分を見てみた。今は着なれないが、そのうち垢ぬけて着慣れしていくのだろうな。と無造作に畳み置かれている誰かのエプロンを見ながら、そんな事を思っていた。すると勢いよくスタッフルームの扉が開いた。

「おはようございまーす。あ、初めましてですね。中田です。お願いしまーす。」

そう元気に入ってきたのは菜月より二歳年上の中田美紗子なかたみさこだった。

小さい顔に大きな目、派手な付け睫毛を付けているため、余計目が大きく見えた。

身体もとても細く、つやのある髪は腰近くまで長かった。

「初めまして。朝倉菜月です。宜しくお願いします。」

菜月が挨拶している傍らも、堂々と着替えだした。終いには煙草をくわえながらパンツを履き出した。 

 その様子を見ていると、このスタッフルームに、こういうスタッフか・・。となんだか納得ができ、苦笑した。

 美紗子に続くように入ってきたのは、目が細く前髪を横に流している男性だった。遠山とおやまといい、どうやらレストランの方からヘルプで来たようだ。話し方からして大人しそうな人だった。

 そして出勤時間ギリギリになってスタッフルームの扉が勢いよく開き、眼鏡をかけた黒髪の男性が入ってきた。

それぞれが「おはよう。」と声をかけあっていた。

「初めまして。朝倉菜月です。」

菜月は今今来た眼鏡の男性に声をかけた。

男は「あ。初めまして。」と一瞬菜月の目を見て、少し疲れたように一言だけそう言うと、自分の身なりの準備に取り掛かった。

「章斗くん先に行ってるね。」

美紗子はそう言うと、スタッフルームから出て行った。それに続くように遠山も出て行った。それに続いて菜月も出て行った。

 そして美紗子から章斗くんと呼ばれていた、眼鏡の男性もすぐに追いついた。

「朝倉さん?・・あ。すみません。山崎章斗です。」

後ろから声をかけられ、菜月は振り返った。

「山崎さん、宜しくお願いします。」

肌が白く、栗色の髪の毛がとても似合っていた。笑うときゅっと細くなる目で菜月は返した。

章斗はかけていた眼鏡を少し慌てて外すと、ワイシャツの胸ポケットに閉まった。

 菜月は章斗のその行動を見て、なぜかはわからないが、どこかで逢ったことがあるように感じ、どこで逢ったのだろうと心の中で思っていた。

 一方章斗は、やっぱりすぐ辞めてしまいそうな感じだなと思いながらも、菜月の笑顔を見て心臓がドキドキしている事に気がついたのだった。


あの日が来ることなど、この時の二人は思ってもいませんでした。


2011年6月 愛知県名古屋市 外では蝉が鳴き出していた。




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