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宝島で逢いましょう  作者: 沖藤 花香
第一章 はじまり
2/7

2.

2010年3月 沖縄県うるま市


 山崎章斗やまざきあきとは六畳程の部屋の真ん中で立っていた。

畳はジュースをこぼしたような跡が、所々でシミになっており、壁は木目調で、色の褪せたポスターやカレンダーがバラバラに貼られている。壁の所々に、ポスターを剥がした跡もたくさん残っていた。

 三段のカラーボックスが二個並んで、入口の横に置いてあるが、漫画本がぎっしりつまったままだ。昨日まで着ていた服もベッドに放り投げたままで、机の上には飲みかけのマグカップや雑誌などが適当に積み重なっている。

 そんな生活感ありまくりの部屋を見渡し、「忘れ物なし!」とつぶやき、小さなボストンバックを持ち上げ、深々と21年間お世話になった部屋に頭を下げ、階段を駆け下りた。

 居間の入口には貝殻でできたビーズカーテンがつけられており、入るとじゃらじゃらと音が立つ。

 「母さん!」章斗が呼んだ。

母親の明美あけみは、ボストンバックを持っている息子の姿を頭から足先まで

舐めるように見て「本当に行くん?寂しくなるわね。」と眉を寄せて言った。

「いつでも連絡しなさい。」そう続けて話すと、章斗の真正面に立ち、

息子を見つめた。

 寂しそうにする母親の顔が、眼鏡のせいでハッキリ見える。なんだか自分自身も寂しくなりそうだったため、慌ててかけていた眼鏡をはずした。

章斗は照れたり、感情がこみあげたりすると、決まって眼鏡を外す癖があるのだ。

 「章斗。」太く落ち着いた声で呼んだのは父親の泰造たいぞうだ。

章斗は声がする方を見ると、寝巻姿で今今起きたと思われる父親が立っていた。

「目標がちゃんとあるのだから、しっかり頑張りなさい。」

腕を組みながら擦れ声でそういった。眼鏡の奥で息子をしっかり見ておこうとしているのか、目を見開いているのがよくわかった。

「父さん、おはよう。ありがとう。翔馬が先に名古屋にいるんだ。大丈夫。母さんもありがとう。姉さんに宜しく言っといて。」

 章斗には五つ年上の姉がいるが、去年結婚して隣の市に引っ越している。

 上原翔馬うえはらしょうまとは章斗の三歳年上で、調理師専門学校時代の同級生でもある。章斗の尊敬している人でもある。


 なにも言わずに頷く両親を見て、腕時計に目をやった。

時刻は午前六時半を過ぎたところだ。

「じゃあ、飛行機に間に合わなくなるから行くね。」

そういうと、何かを決心したように勢いよく玄関に向かった。

後に続くように泰造と明美も来た。

「落ち着いたら、また帰ってきなさい。」

母親は今にも泣き出しそうな顔でそう言った。

「わかった。また連絡するよ。」

そういって章斗は生まれ育った家を後にした。

門の塀の上にあるシーサーは、まるで旅立ちを祝福するように朝日に照らされ、輝いていた。

「母さん、ごめん。目標を達成するまでは、沖縄には帰らない。」

章斗は歩きながら、心でそうつぶやき、一歩一歩力強く進んだ。


 大通りにでると、黒の軽自動車がハザードで停車している。

章斗はその車に近づくと大城雄也おおしろゆうやが運転席から降りてきた。

雄也も章斗の三歳年上だが、調理師専門学校で同級生だった。

もちろん翔馬とは同い年だ。三人とも専門学校時代の同級生である。つまり章斗が現役で入学した調理師専門学校に既卒で入学した同級生が雄也と翔馬なのだ。

最近の大学や専門学校は、雄也と翔馬のような、一度社会に出てから学校に入学する人が多いのだ。

 ちなみに章斗と雄也のお互いの第一印象は最悪だったが、いつからか意気投合し今もこうして親しくしている友人だ。

「本当に行くんだなあ。」

ボストンバックと章斗を交互に見ながら、関心したように雄也が言った。

しかし雄也が思っていたより荷物が少なかったので、手を貸す事なくそのまま運転席に戻った。

 章斗は特に何も言わずに後部座席にボストンバックを置いてから、助手席に座った。

「いや、思い立った時に行かないと、いつまでも行けないだろうから。」

章斗はシートベルトを締めながら改めてそう言った。

ハンドルを握り、ほい。と言いながら雄也は章斗の好物のコーラを渡した。

「ありがとう。」

「まあ、行ったらわかると思うが、内地はきっと章斗には住みにくいと思うぞ。しかも昨日決めて今日出発とは・・・本当に大丈夫か?まあ。なんくるないさーね。」

運転をしているため、前を見ながら雄也は言った。

「・・・正直、自分も不安しかないさ。でも自分は翔馬についていくって決めたんだ。学校を卒業してもう一年が経ったし、そろそろ本格的に動かないと。」

「ほう。それはいい志だと思うけど・・・そういえば、翔馬が名古屋に行って一年って事だもんな・・あいつもお金貯まったのかな。」

「まあ・・翔馬は彩と同棲してるし、すぐには貯まらないって言ってたけど。」

「まあ、そうだな。彩も元気にしてるかね。」

 伊是名彩いぜなあやとは翔馬の一歳年上の彼女だ。もう三年は交際している。翔馬達が調理師の学校に在学している間に名古屋に出てきていた。つまり翔馬は彩を追いかけて名古屋に来た事になる。

「ところで、何の飲食店にするか決めたのか?」

続けて雄也が聞いた。

「いや。さすがにまだ。でも定食屋とかいいなと思ってる。」

「ほう。そうか。」

二人は道中、特に普段と変わらずたわいもない話しをしていた。雄也は専門学校に入学する前は、名古屋で働いた経験がある。その時の話しや、現在働いているラーメン屋の話しなどしていた。

 そして車は那覇空港で止まった。雄也は車からは降りずに、「じゃ、たまには連絡よこせよ。」

それだけ言って、車を走らせた。

去っていく車を見送るように、章斗は見えなくなるまで見ていた。

「あいつと次逢えるのは、いつになるかな。」

ふと小声を漏らしたが、章斗はなんだかすぐに会えるような気がしていた。

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