第七話 レモン風味のレアチーズタルト②
ヴァルハルト様に連絡をしようにも、この世界にスマホはありません。何より女の子はケガだらけでひどく弱っていました。今まで、ヴァルハルト様から逃げるため彷徨っていたのでしょう。
「良い匂いがする⋯⋯」
女の子はうずくまりながら言いました
「お腹が空いているの?」
こくんと頷いたその子に、私は食べ物をあげるべきか戸惑いました。この子が瘴気の発生原因なら今すぐ討伐しなければなりません。しかし私には浄化の力があります。食べ物には回復効果もあるようです。
「⋯⋯少しここで待っていてね」
歩くのも辛そうなので、私は走ってマジックハウスに戻り、ヴァルハルト様に書き置きを残しました。
そしてコップに小川の水を汲み、皿にローストビーフとサラダを盛り、レアチーズタルトを切り分け、パンと一緒に持って女の子の元へ戻りました。
女の子にコップを渡すと、よほど喉が乾いていたのか一息で飲んでしまいます。パンやローストビーフ、サラダを少しずつ食べていた女の子は、やがてぽろぽろと涙をこぼし始めました。
「おいしい⋯⋯」
頭を撫でると、しゃくりあげ、本格的に泣き始めました。
「父様⋯⋯父様⋯⋯」
「お父様はなぜこちらの世界に来たの?」
「私が魔界で病気がちで、こちらの世界に来ると体調が良くなって⋯⋯。だからお父様は絶対にこちらの世界を手に入れるって魔物や魔族に攻めさせたの⋯⋯。でも、私は世界なんていらない。父様と一緒にいれればそれで良い。ねえ、父様死んじゃってないかなあ? 父様迎えに来てくれるかなあ⋯⋯!」
食べながらわぁわぁ泣く女の子の背を、私は撫でることしか出来ませんでした。
「私は母様がいないのよ。母様は私を産んですぐに亡くなったの。だから私は父様がいなくなったら一人ぼっち⋯⋯。そして、私がいなくなったら、父様も一人ぼっちなの⋯⋯。お城にはたくさんの魔族がいるけれど、みんな家族ではないから⋯⋯」
泣きながらも女の子は食事を食べきりました。私は持ってきたレアチーズタルトをそっと差し出しました。
もう夕方から夜になりかけています。帰宅してマジックハウスにいないとなれば、ヴァルハルト様が心配されるかもしれません。
ただ、私はどうしてもこの子を放っておくことが出来ませんでした。
「これ、お菓子?」
「そう。レアチーズタルトと言うのよ」
「⋯⋯甘い! サクサクしてる」
一口かじり、女の子に初めてほんのり笑顔が浮かびました。冷たく、甘く、レモンの風味が広がる柔らかなデザートに、夢中になっているようでした。
ふと気づくと、女の子の傷が少しずつ消えていきます。また、女の子の周りに漂っていた瘴気が徐々に薄れていくようでした。
「やっぱり⋯⋯私の作ったものを食べれば⋯⋯」
考えている間に、「おーい!」という呼び声が聞こえます。
顔を上げると、慌てた様子のヴァルハルト様が走ってこられました。




