↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無実の罪で追放されたので、お菓子で魔物を浄化しながら楽しく暮らします。 〜偽聖女のせいで国が大変? わたしにどうしろと〜  作者: うぐいすもち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/57

第五十六話 建国祭④

 何曲か踊り終えて、私たちは火照った身体を冷ますためにテラスへ出ました。


 もう日は暮れていて、夜風がそっと吹き抜けていきます。テラスには何人かの人影があります。でもここには私とヴァルハルトしかいません。


 ヴァルハルトはライムを絞った炭酸水を傾けながら、「楽しかったな!」と笑いました。


「本当に。何曲くらい踊ったのかしら?」

「五曲か六曲だろうな。さすがに疲れただろ。足は痛くないか?」

「大丈夫よ。あ、でも少し待ってね」


 私が癒しの力を使うと、ヴァルハルトは「悪い。実は少し腰が痛くなってた」とバツの悪そうな顔で頬をかきます。


「そんなところもヴァルハルトらしいわ」

「そう言ってくれるのは、アリサだけだ」


 私は自覚した気持ちを持て余し、なんだか急に恥ずかしくなって俯きました。「どうした?」とひどく甘い声でヴァルハルトが聞いてきます。

 

 なんと答えていいのか迷ってしまい、私がそっともたれかかると、ヴァルハルトはとっさに受け止めてくれました。

 

 そのままグラスを置いたヴァルハルトに強く抱きしめられて、私はその精悍な顔を見上げます。


「⋯⋯アリサ」


 ヴァルハルトはそっと私の額と頬に口付け、私の両手を取りました。


「——俺は、魔王を倒す以外にこの国の平和はないと思っていた。でも、今は魔王やその子さえアリサのお菓子を食べて笑っている。俺はアリサの優しさや芯の強さに救われた。そして、そんなところがとても⋯⋯好きに、なっていた」


 私の瞳に涙があふれました。

 

「愛してる。きっと出会った頃からずっと。生涯、俺のそばにいてくれないか?」


 ヴァルハルトはひざまずいて指輪を取り出します。まず私の長い白手袋を取り、そして指輪をはめました。指輪は銀の光沢を放ち、青い小さな宝石が輝いています。

 

 それは、竜の鱗を用いて作れらた指輪でした。

 

 私は上手く言葉を紡げず、こくんと頷くばかりです。でもヴァルハルトはそんな私の様子をわかってくれたようでした。


 私たちは手を取ってお互いを見つめ合います。ヴァルハルトが私の髪をすき、そっと唇を寄せてきました。

 

 私は自然と瞳を閉じます。柔らかな弾力のあるものが、私の唇を優しくついばみ、離れていきました。


「私も、私もヴァルハルトが好きよ。飾らないところも、責任感の強いところも、全部、大好き」


 私がやっとの思いで言いますと、ヴァルハルトはさらに強く抱きしめて口づけてきます。二人で体温を分かち合い、ヴァルハルトは幾度も私の長い髪をすきました。


 かつてヴァルハルトは私を前向きだと言いました。

 

 でもそれは私が一人ではなかったからです。いつだって支えてくれる皆がいて、ヴァルハルトがいたから。だから私は諦めずに今できることを探し続けられました。


「帰ったらまたお菓子を焼くわ」

「次は何にする?」

「ホワイトショコラ、モカ、ミルクショコラの三層のタルトに、アプリコットのコンフィチュールを入れようと思うの。上にはいちごを飾るのよ」

「ショコラが好きだって話したからか?」

「うふふ、ないしょ」

「教えてくれたっていいだろ〜?」


 からかうような言葉に私は笑顔でごまかしました。とは言っても、ヴァルハルトにはとっくに悟られているに違いありません。

 

 ヴァルハルトは抱きしめたまま私の首筋や耳に口づけ、そっと身体を離します。そのままライム入りの炭酸水を傾け、これまで話せなかったことを語り合いました。


「俺は浄化の効かない魔物の討伐を続けながら、物作りを始めようと思う。アリサが俺にその喜びを教えてくれたんだ」

「ヴァルハルトは器用だから、きっと何でも作れるわ」

「また元の世界にあったものを教えてくれるか? 色々作ってみたい。出来れば、アリサの思い出も一緒に」

「ええ⋯⋯。嬉しい。すごく嬉しい」


 ヴァルハルトは唇で私の涙をすくい取って、「次は結婚式の相談だな!」といつもの調子で続けます。

 

「王都がいいか? それとも⋯⋯」

「出来れば、タハラの街が良いの。ずっとお世話になった街だから」

「そうするか! きっと魔王もエステルもシュクレも来てくれる。賑やかな結婚式になるな」

「また一つ楽しみが増えたわ」

 

 帰ったら、きっとまたエステルやシュクレが飛び出してくるでしょう。魔王も遊びに来ているかもしれません。

 

 そして、私たちはみんなでタルトを作ります。ヴァルハルトが好きだと言ってくれたショコラのタルトを。みんなで楽しく、これからのことを話し合いながら。

 

 そこにはもう恐ろしい陰謀の影はありません。私は追放されてから今までを思いました。これからも何が起こるか分かりません。

 

 でも、きっと大丈夫です。

 

 私はこれから皆と、ヴァルハルトと歩いていく人生に思いを馳せ、静かに光る指輪にそっと触れました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。