第五十七話 エピローグ
「やっと婚約したんだ!! 長かったわね〜!」
舞踏会を終えて帰宅すると、エステルとシュクレはまだ起きて待っていました。私たちの報告に二人は飛び跳ねて喜びます。
「二人とも絶対両想いなのに、じれったくて仕方がなかったわよ! くっついてめでたしめでたしね!」
「そんなふうに見えていたんですね⋯⋯」
「知らぬは本人たちばかりだ」
魔王は勝手知ったるというふうに、コーヒーを入れて飲んでいます。
「また菓子を作るのか」
「ええ、そうですね。式に参列してくださった方には作ろうかと」
「なら、私が飲み物の手配をしよう。先日、多少紅茶を調べたところ、意外と奥深いようだ。これを機に極めても面白いかもしれん」
「ありがとうございます」
魔王のこだわりがこんなところにも発揮されています。ヴァルハルト様も興味のあるものには熱中しますし、二人は意外と似たもの同士なのかもしれませんね。
「チュウチュウ!」
「シュクレは式場の飾り付けを考えてくれるって!」
「まあ! レースペーパーも大好評でしたし、シュクレなら可愛い会場にしてくれますね」
「チュウ〜!!」
皆で笑い合うこの時が愛おしく、またかけがえのないものです。
エステルたちには夕食を用意してあったので、私たちは皆で湯浴みをして寝る準備をしました。
「一緒に入るか?」なんてヴァルハルトが小声で聞いてくるので、「早く行ってください!」とほんの少し強めに背中を押します。
結婚したら寝室は一緒⋯⋯。
と、そこまで想像して、私はひどく顔が火照ってきたのをごまかすようにエステルたちの寝室に向かいました。
翌朝、私たちはヴァルハルトと約束した通り、アプリコット風味の三層ショコラタルトを作りました。
まずタルト生地はココア入りの物を使います。今回はケーキ型に近い底の深い形を用意しました。
次に生クリームを泡立ててホワイトチョコと混ぜ、焼いたタルト型に流し込み冷やして固めます。
次に魔王おすすめのコーヒー豆を魔道式エスプレッソミルで挽いてコーヒーパウダーにし、生クリーム、グラニュー糖と混ぜて冷やして固めます。
そこにエステルが作ったアプリコットコンフィチュールを流し込み、上にはミルクチョコと生クリームを混ぜたものを入れて冷やし固めます。
最後にアプリコットピューレを塗ったいちごと粉砂糖、それにココアパウダーを飾り付けたら出来上がりです!
「うわぁ、ショコラだらけだね! これってもしかしてヴァルハルトの好み?」
「さあ、どうでしょう?」
「アリサが笑ってる! 絶対そうでしょ! もう仲良すぎ〜」
「娘の前であまり破廉恥な姿を見せないように」
「魔王はぶれないなー!」
皆でお皿を用意して、魔王が入れてくれたコーヒーとカフェオレも並べます。全員でそれぞれの食前の祈りを捧げ、フォークをサクリと入れます。
三層のショコラにアプリコットジャムが彩りを添えています。
ヴァルハルトが美味しそうに口に運び、「ああ、アリサのタルトだ! これがないと始まらないな!」と弾けるように笑いました。
私はこれからも大切な人のために、タルトを作り続けるでしょう。
それは、このかけがえのない時間のために。誰かを癒し、笑顔にするために。
たった一切れのタルトが、誰かとの絆を繋いでくれるかもしれません。
私はやっとこの世界へ喚ばれた意味を見つけることができました。
——さあ、聖女のタルトを召し上がれ。
(完)
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これにてこの物語は完結となります。




