第五十五話 建国祭③
時間の経過とともに大勢の人々が入室し、囁き声が会場に満ちていきます。
私はヴァルハルトと談笑しながら、時折来られる方と挨拶を交わしました。
中には私が王国の聖女だった際にお茶会で顔を合わせていた方もいて、私が簡単に経緯を説明しますと皆様一様に気の毒そうな顔をされました。
明らかにヴァルハルトと話すためにいらっしゃった方もいて、そのたびヴァルハルトは私を紹介して早々に会話を打ち切りました。
申し訳ないような恥ずかしいような心地になりながらも、パートナーとして私が不安にならないよう振る舞ってくれていることが、とても嬉しく感じられます。
出席者がほぼ揃いますと、国王陛下が挨拶をされ、第二王子殿下と婚約者の方が煌びやかなダンスを披露されました。
殿下の白に金糸をあしらった正装と、婚約者の方のクリアブルーのドレスが会場中の方をうっとりさせています。
第二王子殿下に続いて第三王子殿下のダンスも始まりました。
殿下はなぜかダンスの前に一瞬私と視線を合わせましたが、すぐヴァルハルトに敬意を示す仕草をされ、お相手の方と踊り出します。
品のある優雅なダンスは、会場中の人々を引きつけて離しません。
その数分後、会場の舞台に控えていた音楽隊の演奏がエレガントで静かなものになりました。
「行こう!」
広間の方が一斉に踊り出し、ヴァルハルトが私の腰に手を添えてリードしてくれます。
茜色の瞳には私しかうつっていませんでした。私の黒い瞳にもヴァルハルトしか映っていないでしょう。
拙いながらも足を動かしていますと、ヴァルハルトが動きやすいように歩調を揃えてくれました。
翡翠色のドレスが翻り、ヴァルハルトの手が私の白い長手袋を支えています。
腰を支える手の優しさ。
リードしながらも決して先を急がせない静かなステップ。
やがてヴァルハルトの吐息と私の吐息が重なり、心が一つに通い合ったような気がしました。
踊っていた会場の方が一人、また一人と足を止められます。皆さん手を取り合って私たちの方を見つめています。
やがて、会場で踊っているのは私たちだけになりました。皆さん、息を飲むように私たちをご覧になっています。
「なんと美しい⋯⋯」
「聖女様⋯⋯」
「聖女アリサ様⋯⋯」
つぶやきが木霊し、私は一瞬ふらつきそうになります。でもヴァルハルトが支えてくれました。
永遠に続くかと思われた時間も、静かに終わりを告げます。曲は少しずつ音量を下げ、やがて会場には静寂が満ちました。
「——素晴らしかった!」
国王陛下が拍手をされました。
拍手の文化は私の元いた世界と変わらないことに、なぜかひどく懐かしい思いがします。
やがて第二王子殿下、第三王子殿下が次々と拍手をされ、会場中の方が「感動しました!」「聖女様と勇者様の信頼が伝わってきました!」と立ち上がったまま拍手をされます。
私たちは右手を左肩に当て、謝意を表明しました。
続いて、会場ではアップテンポの情熱的な演奏が始まり、皆様楽しそうに足でリズムを取りながら踊り始めます。
ヴァルハルトは私の手を取って「もう一曲踊っていただけますか?」と茶目っ気たっぷりに聞いてきます。
「喜んで」と私が微笑むと、ヴァルハルトはさっきよりも心持ち激しく優雅に踊り出します。
私は強くこの手を離したくないと思いました。願わくば、ヴァルハルトと共にこの先もずっと生きていきたいと思いました。
きっと大分前から灯っていた感情に、今初めて名前がついたのかもしれません。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。この小説は明日7時過ぎ、8時過ぎの投稿で完結します。




