第五十二話 建国祭へ向けて⑥
商業ギルドとの打ち合わせを進めながら、数週間が経過しました。
ヴァルハルトのティースタンドは、商業ギルドの方が手配してくださった職人たちの手によって複数作られています。
ヴァルハルトが元の世界で言う特許のような資格を取得したため、権利を奪われる心配もありません。
私はヴァルハルトに頼んで生クリーム用の絞り袋も作ってもらい、より可愛らしいタルトを作れるようになりました。今まではスプーンで飾り付けていましたから、全然違います。
そして、建国祭まで後十日となったある日、私はヴァルハルトとシュクレに留守を頼み、エステルと王都へ出かけました。
「まさかアリサが舞踏会用のドレスを忘れてたなんてね〜」
「すみません⋯⋯。アフタヌーティーの件で頭がいっぱいで⋯⋯」
「すごくアリサらしいと思う! きっとお店の人が色々教えてくれるから、一緒に行きましょ」
エステルは気後れしている私を明るく励まして、ついてきてくれました。
王都には何店舗か服飾店があり、一店舗は私が城にいた時にお茶会用のドレスを用立ててくれていた店でした。
私はそこへ向かい、入口の執事に声をかけます。片眼鏡のダンディーな執事は、私を見て「聖女アリサ様ですかな!?」と驚かれました。
「実は建国祭の舞踏会に参加予定です。ただ、今、舞踏会用の手持ちのドレスがなくて⋯⋯。どれか見繕っていただけないでしょうか?」
「なんと! 舞踏会まで後十日しかありませんぞ!? すぐ手配させます。少々お待ちください」
執事は慌てて店へ入っていき、担当者を連れて戻ってきました。
担当者の年配の女性は、「まあまあ、アリサ様。大変なご苦労をされたと聞いております。ご無沙汰しておりました」とハンカチで目元を拭き拭き涙声で挨拶されます。
私が経緯を説明してお願いしますと、「お任せください! アリサ様にふさわしいドレスをお選びします!!」と力強い声で言ってくださいました。
「そちらのお嬢さんもですか?」
「ううん。私はついてきただけー」
「またデビュタントの際は御用命くださいね」
「ぜひ、お願いするわ」
その後私は背丈や腰回りなどを詳しく測られ、色やデザインについて聞かれました。
数年前まではコルセットで腰を引き締め、クリノリンでボリュームを出すドレスが流行っていたそうです。
でも最近はクリノリンを用いず、絞りをハイウエスト気味にしたフリル付きの短い袖、白い長手袋のドレススタイルが流行なんだとか。
「アリサ様は非常にほっそりした方ですから、身体の線をある程度引き立てるドレスがいいと思います。色は⋯⋯」
担当の女性は紺色、アメジスト、橙色、そして翡翠色のドレスを持ってきました。
翡翠色と言っても、品よく落ち着いていて、銀で小花の刺繍が縫われています。
袖口は控えめのパフスリーブで、胸元には可愛らしい蝶々や花々のデザインがあります。
担当の女性は順にドレスを合わせ、「アリサ様にはこの翡翠色のドレスがお似合いになるかと思います」とにこにこしました。
「私もこの色がいいです⋯⋯! 華美すぎず、控えめすぎず、とても好きな色です」
「お気に召していただけたようで、安堵いたしました。ではさっそく、丈を合わせていきましょう」
私はコルセットを締めて、ドレスを着させてもらいました。少し長すぎたため、丈を詰めることになりそうです。
十日前に来てよかったですね。もう少し遅ければ、間に合わなかったかもしれません。
「アリサ様。装飾品やお化粧、それに靴は何かお考えですか?」
「恥ずかしながら、何も考えていません」
「でしたら、そちらも私共にお任せください」
その後も担当の方は、髪飾りやイヤリングやネックレスなど、熱心に合わせてくださいました。
結局、胸元には竜の鱗のペンダントをして、頭に銀の蝶々の髪飾りをつけることになりました。
お化粧は舞踏会の直前にお店でしてくださるそうです。靴はドレスの刺繍に合わせた銀の靴にしました。
「うわぁ、アリサ。すっごく綺麗⋯⋯!!」
一通り終わって鏡の前に立つと、エステルがうっとりしながら褒めてくれました。鏡の中の自分は別人のようで、少し落ち着きません。
「ヴァルハルトが離してくれなくなるんじゃないかなあ? じゃないと、色んな男の人が寄ってきちゃうもんね!」
「そ、そんなことはないと思いますが⋯⋯。でも、ありがとうございます」
「アリサは自分で思ってるよりずっと魅力的だよ!」
「そうですわ、アリサ様。これまでが大変だったんです。せめて舞踏会では、楽しい時間をお過ごしくださいね」
担当の女性も笑いながらそう付け加え、私は少し照れながら笑顔を返します。
ヴァルハルトがどんな反応をするのか⋯⋯。
楽しみなような、ちょっと緊張するような、そんな不思議な気持になりました。




