第四十六話 タルト・オ・フリュイ②
帰宅した日は深夜まで差し入れを作り続け、翌日私たちはまた王都へ出発しました。
竜たちはほぼ全員が竜の谷へ帰りましたが、銀竜の子とお兄さん竜だけが残って移動を手伝ってくれました。
城へ出向くと早々に謁見の間へ通され、第二王子殿下が待っておられました。国王陛下はまだ意識が戻らないものの、顔色は良くなっておられるそうです。
「兄上の顔には大きな傷が残りました。精神状態も悪く、まともに話せる状態ではありません。おそらく、国政を取り仕切るのは難しいでしょう」
「申し訳ありません。俺の救援が間に合っていれば⋯⋯」
「私の浄化も届かず、申し訳ありません」
「気にされないでください。酷ではありますが、兄上の不遜な態度は目に余るものがありました。我々も止められなかった責があります」
続いて、第二王子殿下はレスティにも言及されました。
「偽聖女には数々の罪状があります。今魔法師たちが調べているため、詳細は追々判明するでしょう。どうやら浄化と見せかけて、闇魔法で瘴気の濃度を操っていたようです。そして魅了魔法も用いて信者を増やしていったと思われます」
「王太子殿下にも魅了魔法を使っていたのでしょうか?」
「おそらくは。そして、ヴァルハルト様とアリサ様が仲睦まじい様子を見て、魅了を解き、公国の王女を紹介したようです。恐ろしい女ですね」
私はなんと返していいか分かりませんでした。ただ一つはっきりしているのは、真実は暴かれ、全てが終わったということです。
その後、細々とした事後処理の打ち合わせの後、最後に王太子殿下は迷うようにおっしゃいました。
「アリサ様。私共にこのような発言をする資格がない旨重々承知しています。しかし、今一度王国の聖女として、この国の象徴になっていただけないでしょうか?」
「申し訳ございません。もう私は王城には戻りません。しかし、また異常が発生しましたらすぐに馳せ参じます」
「⋯⋯承知いたしました。失礼を申し上げました」
ヴァルハルト様は隣で話を聞き、励ますように私の手を握っていてくださいました。
私は私の意志で浄化を行います。
もう二度と、国に命じられるまま浄化は行いません。
「最後になりましたが、お城の方にタルトを作って参りました。レスティの近くにいた方は特に瘴気の影響を受けているかもしれません。これを食べれば、多少は浄化されるはずです。それでも具合の悪い方がおられたら、私が再度訪問させていただきます」
第二王子殿下は半ば涙ぐみながら、「我々のした仕打ちを思えば、見放されても仕方ありません。しかしアリサ様は我々の体調まで慮ってくださった。あなたこそ真の聖女です」とおっしゃられました。
毒味担当の方に確認していただき、私は殿下や大臣、ひかえていた従者や近衛騎士たちに複数のラッピングされたタルトを渡しました。
後は、少しずつお城を回って直接渡していきましょう。
「殿下。私は街の人にもタルトを食べていただきたいと考えています。何か催し物のようなものを企画しても問題ないでしょうか?」
「差し支えありません。詳細はタハラの街のギルドにお尋ねください。ちょうど数ヶ月後にレヴェルナの建国祭が開催されます。それに合わせてはどうでしょうか?」
「⋯⋯はい! ありがとうございます」
私はヴァルハルト様に付き添っていただき、城中を回って事情を説明しながらタルトを渡しました。
甘いものがお好きでない方は、昨夜一緒に作ったチーズパイをお渡ししました。
やはり懸念していた通り、瘴気の影響で具合を悪くしている方が複数おられ、大変喜んでくださいました。
「アリサ、昨日は夜遅かっただろ? 少し休んた方が良いんじゃないか?」
「具合の悪い方が一人でもいるなら、治癒したいんです。それが聖女の役割ですから」
「わかった。最後まで一緒に行くからな!」
特に騎士の皆さんは口々に非礼を詫びてこられました。
そしてタルトをかじると、「うっま!? え、これをアリサ様が!?」と異口同音に驚かれました。
そうして城中を回ってお菓子を配り、最後の一人に手渡すと、ヴァルハルト様は「お疲れ! アリサはすごいな! たぶんこれで全員だ」と労ってくださいました。
「ヴァルハルト様まで来てもらって⋯⋯。心強かったです」
「このくらいお安い御用だ。さあ、食事でも食べに行かないか。東側に良い店がある」
ヴァルハルト様はそう言って、自然に私の手を取り、歩幅を合わせて歩き出しました。




