第四十五話 タルト・オ・フリュイ①
数時間かけて辺境の地に戻ってきた後、私たちは竜たちに外で待っていてもらい、マジックハウスへ入りました。
「みんな本当にお疲れ様でした! 私はタルトを作りますが、くたびれていたらゆっくり休んでくださいね」
「アリサだけずるい〜。私もタルトを作りたい!」
「俺も一緒に作らせてほしい。せっかくみんな揃ったんだしな!」
「チュウ」
「⋯⋯」
魔王は黙っていますが、入ってきたということは手伝ってくれるのでしょう。
「ヴァルハルト様が食べたいとおっしゃっていた、果物のタルトを作りますね。タルト・ オ・ フリュイと言います。間にマスカットのピューレを挟みましょう」
「マスカットはつぶしにくそうだが、どうするんだ?」
「ジャガイモをマッシュするときに使った、裏ごし器を使おうと思います。そう言えば、あの裏ごし器は何で出来ているんですか?」
「ああ、あれか。木材はバルク材で、網目はシルバーホースの鬣で作った」
「とても便利で助かっています」
「バケットにつけるカボチャの付け合わせ用に作ったんだ。思わぬところで役に立ったな!」
いつもの会話。
いつも通りの空気が戻ってきました。
エステルはにこにこしながら後に続き、シュクレは髭をヒクヒクさせながら果物を気にしています。
「じゃあ、私はマスカットのピューレを作るね〜」
「私はタルト生地を作りましょうか」
「俺は何をすればいい?」
「ヴァルハルト様はアーモンドクリームをお願いします。陛下は卵のクリームを作ってもらえますか?」
「⋯⋯承知した」
「えぇ!? 魔王って卵のクリームを作れるのか!?」
「妻がたまに作っていたため、私も手伝っていた」
よく考えると、勇者と魔王が和気あいあいとタルトを作っているのは不思議な光景ですね。
皆で手分けして、タルトを作っていきます。エステルはマスカットの皮を剥いて種をとり、グラニュー糖を入れて灰汁をすくいながらコトコト煮込みました。
粗熱が取れたら裏ごし器でゆっくり裏ごしし、レモン汁を加えて混ぜます。
ヴァルハルト様はその間に無塩バターとグラニュー糖を混ぜ、少しずつ溶き卵を入れています。後はふるったアーモンドパウダーを入れて、混ぜ合わせるだけです。
私はタルト生地を作り終え、冷蔵庫で寝かせました。
魔王は手際よく卵黄とグラニュー糖を混ぜ、ふるった薄力粉を加え、温めた牛乳を加えて混ぜています。きちんとバニラエッセンスも入れてくれました。
後は根気強く鍋でかき混ぜて、冷やし固めるだけ。ヴァルハルト様はとても器用ですが、魔王も負けていません。
「タルト生地が出来たら、ディプロマットクリームを作ります」
「ディプロマットクリームって何? 長い名前だね」
「生クリームと卵のクリームを混ぜたクリームです。口当たりがよく、それほどコッテリしていないので、果物によく合いますよ」
休憩の間に使わない道具を片付け、寝かしたタルト生地を取り出してちぎりました。
もう一度まとめて伸ばしたら、たくさんの小さなタルト型に敷き詰めます。
その間に、魔王とエステルには生クリームを作ってもらい、ヴァルハルト様とシュクレにカスタードクリームと合わせてもらいました。
空焼きして粗熱が取れたら、ヴァルハルト様が作ったアーモンドクリームを流し入れて、もう一度焼きます。
焼けたらマスカットピューレを流してもう一度冷やし、最後にディプロマットクリームを乗せて、果物を盛り付けます。
「好きなだけ果物を乗せてくださいね」
「わーい! イチゴをたくさん乗せる〜!」
「チュウチュウ」
「シュクレ! いくらなんでも盛りすぎだ!」
「⋯⋯」
「陛下はタルトを通り越して、もはや芸術のようですね」
色とりどりのタルトが並び、キッチンは甘い香りに包まれました。
シュクレが作ってくれたラッピング袋にお城の方の分を包み、残りは外の竜やフレイヤたちに持っていきます。
竜たちは私たちが出てくると、みんな一斉にボッと小さな火を吐いて大喜びしました。特に銀竜の子は限界まで飛び跳ね、黄金色の竜王は目を細めてタルトを見つめています。
「いやはや、これは中に何が入っておるのかな? ただの卵クリームに留まらない、優しい味がするのう」
「マスカットピューレです。エステルが作ってくれたんですよ」
「魔王の子か⋯⋯。実に優秀な子だ。魔族とこうして菓子を食べる日が来るとは、思いもよらなんだ。礼を申し上げる」
「いいえ。過去の因果によらず助けに来ていただきましたから。これでもお礼し足りません」
「ふぉっふぉっ。タルトを作ってもらえれば、他は何もいらんよ」
シュクレはフレイヤにくっつき、エステルは魔王の膝に乗ってタルトを食べています。
辺りはいつの間にか夕暮れ時になっており、激動の一日が嘘のように平和な時間が流れていました。
「アリサ」
ヴァルハルト様がタルトを食べながら私に笑いかけました。
その笑顔は、かつてないほど慈しみに満ちたもので、私は少し頬を赤らめながらも微笑み返したのです。




