第四十四話 帰還⑧
その後、王太子殿下は治療師たちに連れて行かれ、レスティは騎士たちに拘束されました。
レスティ様の瞳はあらぬ方を向いたままです。もしかすると、もう二度と治らないかもしれません。
私は第二王子殿下の御前でひざまずき、事のあらましを報告させていただきました。
国王陛下は虚ろな瞳で虚空を見つめています。陛下は闇魔法の影響を強く受けておられるはず。
今すぐ治療の必要があるものの、おそらく回復させれば数日寝込む旨もお伝えしました。
「騎士が実際に回復している。構わない。父上に癒しの力を使ってほしい」
第二王子殿下は、右手を左肩に当てて謝意を示されました。治療師たちが国王陛下のそばに控え、私は竜の結晶を抱いたまま浄化と癒しの力を使います。
国王陛下は黄金色の光に包まれ、治療師たちが陛下を支えました。陛下は治療師たちに支えられたまま退出され、後には第二王子殿下、第三王子殿下が残されます。
「ご迷惑をおかけしました。真実を見抜けなかった我々に落ち度があります。心よりお詫び申し上げます」
「いいえ。私はただレスティ様の暴走を止めたかっただけです」
「父上の回復を待ち、兄上と偽聖女の処遇を定めます。不慮の事故により兄上は負傷しました。兄上とアラリア公国王女との婚約は白紙に戻されるはずです。ノーザンド帝国との話も無くなるでしょう。ただし、罪人は移送するでしょうが」
レスティが私の代わりにノーザンド帝国へ送られるのかもしれません。私はどうしても「寛大な処置を」の一言が出ませんでした。
「他に報奨を考えております。何かご要望はありますか?」
「いえ、特には⋯⋯。ただ、まだ国にはレスティ様の闇魔法による魔物が残っております。ヴァルハルト様と共に、魔物の浄化に向かわせていただけたらありがたいです」
「まだ民のために行動されるとは⋯⋯。承知いたしました。それではせめてもの償いとして、我々はアリサ様のタルトの屋台を店舗にさせていただきましょう。納税はタハラの街、王都共に一年間免除、三年間八割減額させていただきます」
「そ、そこまでしていただかなくとも⋯⋯!」
「我々は無実の罪で聖女様、及び勇者様を幽閉しました。この罪は償いきれるものではありません」
「アリサ。心遣いは受け取っておこう。そちらの方が殿下の負担が軽減される」
「⋯⋯承知しました。お受けします」
私たちは殿下に挨拶をして下がり、はるばる駆けつけてくださった魔王や竜王を見上げました。竜王陛下が降下して、魔王を降ろします。
「魔王陛下。御礼申し上げます」
「構わん。アリサへの暴挙が許しがたかっただけだ。今すぐ王宮を焼き払ってもいいが」
第二王子殿下と第三王子殿下の顔色が蒼白になったので、慌てて私は魔王をなだめました。外からは市民たちが不安そうに庭の様子をのぞいています。
「全く、魔王が結界の外から大声で呼ばわった時は、再戦の合図かと焦ったぞ」
ふぉっふぉっと竜王が笑います。
「そやつは無理やり結界をくぐり抜けようとして、その有様だ。アリサの名前が出たため、我らも事情を察したが」
「ふん。急ぎだったのでな」
「魔王陛下。竜王陛下。せっかく来てくださったのです。お礼にタルトを焼きますから、召し上がっていかれませんか?」
「ふうむ。あのタルトは忘れられん。ぜひ一つ頼みたい」
「私もエステル、シュクレとともにもらおう」
「俺ももらうな! アリサのタルトは何日ぶりになるのか、いやぁ楽しみだ!」
皆が寄ってきてわいわいと賑やかに語らいます。私はその場を離れ、後ろの方で覗いていた兄妹たちにも駆け寄りました。
「ありがとうございました。庇ってもらったおかげで、皆さんに信じてもらえました」
「大変だったすね。アリサ様。やっぱり真の聖女はアリサ様一人っすよ!」
「私も無事に歩けるようになりました! お礼を言いたいのはこちらの方です!!」
二人はニコニコして、「よかったら」と果物を差し入れてくださいます。つやつやして美味しそうな果物です。
ちょうど良いですね。せっかくなので、これでタルト・オ・フリュイを作りましょうか。果物のタルトです。
果物籠を持ったまま二人と談笑していますと、騎士たちが駆け寄ってきました。皆口々に謝罪をされますが、私は笑って首を振りました。
「気にしないでください。もう終わったことですから」
「偽聖女の怪しげな魔法にかかっていない者もいたのに、真実を見抜けませんでした! なんという恥さらし⋯⋯! 一度死してお詫び申し上げたいほどです!」
「良いんです。それより、皆さんお菓子はお好きですか? 帰宅後タルトを作りますが、よかったら召し上がりませんか?」
「し、しかし聖女様は今解放されたばかりで⋯⋯!」
「皆さんの方がお疲れでしょうから。少し聞いて参りますね」
私は第二王子殿下、第三王子殿下のそばに仕えていた大臣に一度帰らせてもらいたい旨を伝えました。大臣は快諾して、後日城へ戻ることを許してくださいました。
なぜか、出発前になぜかヴァルハルト様は一人街のどこかへ行って、それほど時間の経たないうちに戻ってこられました。
そうして、私たちは竜の背に乗り、全員でマジックハウスに飛び立ったのです。フレイヤは一番体格の良い竜の上にしがみつき、竜たちはまるで飛行機のように大空を駆け抜け、ものの数時間で辺境の地へ着いてしまいました。




