第四十三話 帰還⑦
そして二日後。
私は衛兵たちと共に塔の外へ連れ出され、見せしめのように引っ立てられました。
外は国の象徴である旗が何本も建てられ、すっかりお祝いムードです。王城は解放され、広い外庭では王太子殿下と公国の王女様。レスティとヴァルハルト様が並んで立っていました。
国王陛下も後ろで椅子に腰掛けておられますが、かなり顔色が悪く、表情も虚ろです。早々に退出されるかもしれません。
私は四人の人々の前に引っ立てられ、頭を下げさせられました。
「異国の聖女アリサ・リンドウは、未知なる魔法で人心を乱し、勇者を錯乱させ、国家転覆をはかった! よって、他国追放の刑に処す!」
王太子殿下が読み上げ、兵士たちが剣を私の喉元に突きつけてきます。
裁判も何もありません。
申し開きさえ許されません。
ヴァルハルト様は無表情で私を見つめています。
——と、その時!
「異議を申し立てる!」
低くハッキリした声が響き渡りました。
同時にヴァルハルト様がパッと駆け出し、騎士を振り払い私の手を取ります。
そこへいつか見たあの銀竜の子が舞い降り、私たちを乗せて飛び上がりました。
城中が騒然となり、街から見物に訪れていた人々も呆気にとられて空を見上げています。
竜が、空を埋め尽くしていました。
先頭にはいつかお会いした黄金色の竜の王が、魔王陛下を乗せて飛んでいます。
竜は魔族と絶縁状態にあると言っていたのに⋯⋯。よく見ると、魔王陛下の服はあちらこちらが擦り切れ、以前よりボロボロになっていました。少し戦闘になったのかもしれません。
「我は竜の長なり。聖女アリサ・リンドウは我が盟友にして、生涯の恩がある。さて、汝らは彼女に何をした? 無実の罪を着せ、話を何一つ聞かず偽聖女の騙りを鵜呑みにした。断じて許せぬ!! アリサのためならば、憎き魔族とも手を取ろう!!」
「私は貴様らの言う魔王だ。勇者に一度打ち負け、聖女の浄化と説得に応じ侵攻を断念した。私は和解に応じる用意がある! それは全てアリサのためだ! アリサに仇なす者は魔族に仇なす者と同義!! 私と打ち合いたい者は名をあげよ!!」
「俺は絶対に偽聖女と婚姻などしない!! 騎士団を癒し、魔物を浄化し、人々を救ったのはアリサだ!! レスティは竜の加護なんて使えない!!」
フレイヤに乗ったエステルが稲妻のようにレスティに飛びかかり、腕に抱いていた竜の宝玉を掴み取りました。
「これはアリサが竜王陛下からもらったものよ! 帰してもらうから!!」
エステルに手渡され、私は竜王の宝玉を抱きしめました。
人々の視線は、一様に王太子殿下とレスティに集まります。明らかに非難を含んだその視線に、王太子殿下は真っ青になって「そんなバカな⋯⋯」と呟きます。
「恐れ入ります。先日、私を浄化したのはアリサ様です。確かにアリサ様がその宝玉で私を悪しき魔法から救ってくださいました」
そこへ、一人の騎士がもう一人の騎士に付き添われながら入ってきました。私が強制的に浄化したあの騎士です。強く闇魔法がかかっていたため、反動で寝込んでしまったのでしょう。
「不敬を失礼します! 俺の妹もアリサ様に救っていただきました!! レスティ様に見捨てられた妹を、アリサ様は何の見返りもなく救ってくださいました!! 聖女はアリサ様です!!」
あの兄妹のお兄さんが庭の外から叫びました。
レスティは黙ったままです。その背から黒い靄がどす黒く立ち上っていきます。
「危ない!! 離れてください!!」
ヴァルハルト様が叫び、竜から飛び降りました。
レスティ様は瞳をあらぬ方向に向け、よだれを垂らし、ダランとその腕を垂らしながら一番近くにいた王太子殿下に飛びかかりました。
殿下は「ウギャァ!!」と悲鳴をあげ、血まみれで逃げようとします。そこへヴァルハルト様が割って入り、レスティを拘束しました。
「何よ——!! その女ばっかりズルいのよ!! 異世界から来たってチヤホヤされて、聖女だからってチヤホヤされて⋯⋯。次はたまたま出会った勇者? 人生そんな上手くいかないわよ!! アハハハハハ⋯⋯!!!!」
奇声をあげながら、なおも口の端から血を流しにぃぃぃと笑っています。
おそらく、自分が使っていた闇魔法に心も飲まれてしまったのでしょう。
私は竜に下ろしてもらい、ケタケタと笑っているレスティ様のそばに寄りました。そして竜の宝玉を持たせ、その回復と浄化を祈ります。
レスティは黄金色の光に包まれますが、同時に黒い靄も吹き出しました。靄は私を襲おうとしますが、「アリサ!!」と叫んだヴァルハルト様が後ろから私を抱きしめます。
黄金色の光と靄はせめぎ合っていましたが、やがて靄の方が小さくなり、そっと消えていきました。
レスティ様は両の瞳があらぬ方向を向いたまま、バタリと倒れます。
私はそのまま王太子殿下の治癒をしました。しかし恨みつらみが極限に達したレスティ様に頬を噛まれたためか、端正な顔立ちには大きな傷跡が残り、どれほど癒しの力を使っても完全には戻せません。
殿下の光が治まると、ヴァルハルト様は私から離れて騎士や国民の方へ向き直りました。
そして、私とともに右手を左肩に当てて、謝意を示したのです。




