第四十二話 帰還⑥
「アリサ⋯⋯! すまなかった! 君を守りきれなかった⋯⋯!」
「いいえ。ヴァルハルト様。現にこうして来てくださいました。ご無事でよかった⋯⋯よかったです⋯⋯」
安堵したためか、緊張が解けたためか、私は涙があふれるのを止められませんでした。ヴァルハルト様が私を抱き寄せ、頭を撫でてくださいます。
「騎士の何人かが正気にもかかわらずレスティの言葉を信じ、あの光に乗じて俺を拘束してきた」
心から愛する者がいれば、瘴気の影響を受けない。よって、そもそも竜の加護による強力な浄化も必要としない。
それが皮肉にも、一部の騎士たちの動きを自由にしてしまったのですね。
「アリサは倒れ、レスティは一人その場に留まり自分に都合の良いように指示を出した。その際に隙を見てアリサの宝玉とペンダントを手にしたんだろう」
「そんなことが⋯⋯。すみません、私が意識を失ったばかりに⋯⋯」
「謝らないでくれ。アリサは大勢の騎士と三つ目の巨人を救った。俺は捕えられながら見たが、巨人は一回り小さくなって溶岩も流れなくなり元の居住地へ帰っていった。あれならもう暴れない。アリサのおかげだ」
ヴァルハルト様の大きな手のひらが、私の絡まりあった長い黒髪をすきます。
私はふと思い出しました。
——ヴァルハルト様には想う方がいる。
私がそっと身体を離しますと、ヴァルハルト様はためらうように右腕を伸ばしてこられました。
「どうした?」
「いえ⋯⋯」
「何かあるなら、遠慮なく言ってほしい。自慢じゃないが、俺は鈍いからな!」
いつもの調子で笑うヴァルハルト様に、私は上手く微笑み返すことが出来ませんでした。
「レスティは⋯⋯」
「ん?」
「レスティは⋯⋯ヴァルハルト様に魅了の闇魔法を使わなかったのでしょうか⋯⋯」
「使ったのかもしれんが、そもそも俺は勇者の聖槍を持っている。たぶん気合いで弾き返した!!」
「ふ、ふふ⋯⋯気合いで⋯⋯」
思わずこぼれた笑みに、ヴァルハルト様は「アリサはそっちの方が可愛い」と付け加えました。
「そ、そういうことは想う方におっしゃってください! そ、その竜の長に聞きました。し、真に想う方がいれば魅了の魔法は効かないと。ヴァルハルト様には⋯⋯心に決めた方がいらっしゃるのでは⋯⋯」
小さくなっていく声に、ヴァルハルト様は優しい声で「それが不安だったのか?」と尋ねてこられました。
「あのな! 俺は⋯⋯!!」
ヴァルハルト様は言いかけて、口をつぐみました。
「すまん。牢屋で言うべきじゃない。アリサ。全部終わったら、皆でタルトを食べられるようになったら、君に、伝えたいことがある」
ヴァルハルト様は私の目尻に口付けて、微笑みました。
「なあ、これでも結構我慢してるんだ」
「何を? ですか?」
「はは、そんなところも可愛いよ」
「あ、また言いましたね!」
「何度でも言うさ。アリサは可愛い。そして、綺麗だ」
最後だけ真面目な口調でつぶやき、ヴァルハルト様は私の口の端すれすれに口付けてきました。
「二日後。頑張ろうな!」
あえて明るく言い、元来た時と同じ、——ヒュン! と帰っていかれます。
私は火照る頬を押さえながら、竜のペンダントを握りしめていました。




