第四十話 帰還④
次に目を覚ますと、私は牢屋のような個室で寝かされていました。
最低限のベッドと机、水洗式魔道トイレしかなく、窓は天井付近にはめ込まれている鉄格子しかありません。机には固いパンが置かれていましたが、端の方に黴が生えています。
マジックポーチは外されていて、竜のペンダントも鱗の結晶も見当たりませんでした。物音一つ聞こえず、日付さえ分かりません。
「⋯⋯おそらく、罪人として扱われていますね」
イヤでも分かります。ここは訳アリの人間を幽閉する城の西側の塔でしょう。
長らく使われていなかったはずですが、王家に反逆の意思ありとして閉じ込められたのかもしれません。
「大丈夫です。ヴァルハルト様が真実をご存知です。エステルも、シュクレも、魔王陛下もいます」
私は声に出してつぶやき、不安に押しつぶされそうな心を奮い立たせました。
今回レスティは大きな嘘をつきました。真実は一つしかありません。竜の鱗の結晶は、私にしか扱えないはずです。
「それにしても⋯⋯」
私はレスティ様の立ち居振る舞いを思い出しました。まるで罪悪感などないように堂々としていました。
万に一つの可能性として、レスティ様ご自身が浄化され良心を取り戻すことも期待していましたが、この分ではそれも叶わなかったのでしょう。芯まで良心の呵責がない。気に入らない者はどんな手を使ってでも陥れる。
それは非常に恐ろしく重い事実でした。
「ヴァルハルト様はご無事でしょうか⋯⋯」
レスティは歯向かうものには容赦ないようです。あの一件でヴァルハルト様が何をしても自分に振り向かないのは承知されたでしょう。ヴァルハルト様が何かされていないか、私は不安でたまりませんでした。
私は悶々としながらも、夜になるのをじっと待ちました。
あの結晶がないため、ふとした瞬間怒りや不安、恨みつらみに飲み込まれてしまいそうでした。
でも私には皆がいます。私はもう一人ではありません。
やがて日は落ちて、月明かりが差し込んできます。鉄格子から漏れ出す光を頼りに時間の変化を確認すると、あえて自らに浄化をかけました。
金色の光が薄暗い部屋中を包みます。この光は城の外にも漏れているはず。おそらく私を探しているであろうエステルたちの目に止まれば、私の居場所を伝えられるでしょう。
ヴァルハルト様はすでにご存知でしょうが、なんらかの事情で引き止められているのかもしれません。
どれほど時間が経った頃でしょうか。私がうたた寝をしながらも浄化の力を使っていますと、ガタガタ! と上の方から音がしました。
見上げると、「ヂュウウウウ!!!!」とシュクレが体当たりをし、鉄格子を外そうとしています。
「ええーい! もう面倒だわ!!!!」と叫び声が聞こえ、ボッと鉄格子の一部が燃え上がりました。
ガタン! と溶けかけた鉄格子を外し、エステルが顔を覗かせます。
「あちゃー、これだけ高いと飛び降りれない! フレイヤも入れない〜」
「ありがとうございます! 助けに来てくれたんですね」
「アリサ! レスティは『アリサが追放された腹いせに瘴気を撒き散らした。自分が浄化しようとしたところを割って入って、騎士団を傷つけた』って言いふらしてるわ」
「あれから何日経ったんですか?」
「三日よ!」
「三日も⋯⋯。ヴァルハルト様と騎士団の皆様は⋯⋯」
「ヴァルハルトは魔王との和解なんて絵空事を吹聴し、偽聖女と結託して国家転覆の意志ありって、拘留されてる。騎士団は一部意識を取り戻したけれど、レスティが浄化したって信じきってる。アリサが助けたあの騎士は眠ったままよ」
ヴァルハルト様が拘留されたと聞き、私は血の気がひくような思いがしました。
「心配しないで! ヴァルハルトは私を介して父様に頼み事をしたみたい。『現状では魔王にしか頼めない。悪い』って。父様も承諾をして、どこかへ出かけていったわ」
「どこかへ⋯⋯ですか⋯⋯?」
「ゴメンだけど、後七日待ってくれる? 七日経ったら必ず助けるから!!」
「はい! 信じています!」
エステルは上からパラパラと食べ物や飲み物の入った袋を落としてくれました。それらを受け止め、お礼を言いますと手を振って戻っていきます。
後七日。
私はエステルの差し入れてくれた食べ物と飲み物で空腹を満たし、ざわめく心を落ち着かせました。




