第三十九話 帰還③
「ヴァルハルト様!!!!」
「アリサ!?」
転移したのは、ヴァルハルト様のすぐ隣でした。
眼前では三つ目の溶岩のような巨人が、蒸気を発しながらどろどろと崩れ落ちています。
熱気に前髪が張り付くのを感じながら、私は結晶を胸に抱き、浄化の力を使おうとしました。
「この侵入者め!!!!」
「きゃあ!!」
しかし後ろから騎士たちが私に襲いかかってきました。私はバランスを崩して転びそうになりますが、すかさずヴァルハルト様が私を後ろ背にかばうように前に立ちます。
「何をしている! アリサはあの巨人を浄化しようとしているだけだ!!」
「突然現れて何を言う!! この場にはレスティ様という真の聖女がおられる!! お前は以前レスティ様を貶めたそうだな!! またレスティ様に危害を加える気か!!」
騎士たちは瘴気の影響を受けているのか、話を聞こうとしません。勢いのままヴァルハルト様を押しのけ、私を捕らえようとします。
「まぁ! 騎士団の皆様、ヴァルハルト様とアリサ様を傷つけないで!」
後ろからレスティが叫びました。
途端に騎士団の騎士たちはピタリと動きを止めます。
しかしその間に溶岩のような巨人からどす黒い炎が燃え上がりました。
「ヴワァァァァァァ!!!!」
巨人が薙ぎ払うように腕をふるい、私たちは弾き飛ばされます。
しかしヴァルハルト様が私をきつく抱いたまま離さず、熱された岩に強く身体を打ちつけました。
「ヴァルハルト様⋯⋯!!」
すぐに癒しの力と浄化の力を使います。ヴァルハルト様は私を抱きしめたまま、槍をふるいました。伸びてきた巨人の腕がちぎれ、あらぬ方向へ飛んでいきます。
「アリサ様、お怪我はありませんか?」
一人飛ばされなかったレスティがカツカツと歩いてきて、抱きしめられたままの私に手を伸ばします。
私はどうしてもその手を取ることが出来ませんでした。
「レスティ様。私は竜の加護を受けて参りました。あの巨人は私が浄化します。怪我をする前にお下がりください」
静かに返しますと、レスティ様は不気味なほど自然な表情でくすくすと笑います。
「実は私も竜の加護を受けていますの。しかも私も聖女ですのよ。どうです、一緒に浄化をしませんこと。一人でするより二人の方が効果的かと思われます」
「お前のまがい物の力をアリサと一緒にするな!! 騎士の異変はお前のせいだろう!!」
ついにヴァルハルト様が叫びました。しかし後ろから騎士団が忍び寄り、ヴァルハルト様の首元に剣を押し当てます。
私は身体中の力をふりしぼって浄化の魔法を使いました。
「うぐ⋯⋯!!!!」
騎士は金色の光に包まれ剣を取り落とし、その場に崩れ落ちます。
「まぁ、アリサ様!! 味方を攻撃するなんて⋯⋯!!!!」
突然レスティが叫びました。騎士団の騎士たちがハッとしたように私を見て、くわっと目を吊り上げます。
「やはり正体を表したか!! この反逆者!!」
「違う! アリサはこの騎士の瘴気を払っただけだ!!」
何を言っても聞く耳を持ちません。そこへ溶岩の巨人が大岩を投げてきます。ヴァルハルト様は聖槍で岩を砕き、火の粉を払いました。
「ヴァルハルト様⋯⋯。私は後から何と言われても構いません。どうか、騎士団の皆さんをお守りください」
私は最後にヴァルハルト様の手を優しく握りました。怒りの感情に支配されないよう竜の結晶にふれ、その場に立ち上がります。
力任せに剣をふるおうとした騎士は、ヴァルハルト様の槍の棒術で腹をつかれ吹き飛びました。ヴァルハルト様の横顔は、たくましく、そして悲壮感のあふれるものでした。
同時に、レスティ様も立ち上がり祈りの仕草をしたのが見えました。
「三つ目の巨人よ⋯⋯! 我は竜の加護を受けたる者! 怒りを鎮め大地に還れ⋯⋯!!」
私が祈りの言葉を唱えますと、金色の光が巨人や、騎士や、レスティ様、そしてヴァルハルト様を包んでいきました。
薄衣をまとったレスティ様はとても神々しく、まるで私と一体となったかのように同じ言葉を唱えています。
身体中の力が沸き起こり、後から後から光となって溢れてきます。
同時に、三つ目の巨人は「グウォォォ⋯⋯」と弱々しい咆哮をあげ、その身体はどんどん溶け出していきました。
「レスティ様⋯⋯」
「レスティ様のお力が目覚めた⋯⋯」
「悪しき聖女から我らをお守りくださった⋯⋯」
騎士たちの声が遠く聞こえ、私は薄れゆく意識の中で最後に伸ばされたヴァルハルト様の大きな手のひらを想いました。




