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無実の罪で追放されたので、お菓子で魔物を浄化しながら楽しく暮らします。 〜偽聖女のせいで国が大変? わたしにどうしろと〜  作者: うぐいすもち


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第四話 ハニースコーン

「すみません。お待たせしました。いい香りがしますね」

「勝手ながら、カボチャとひよこ豆のシチューを作らせてもらいました」

「ありがとうございます。さっそくいただきますね」


 ヴァルハルト様は手を洗って鎧をぬぎ、簡素な私服に着替えて戻ってこられました。

 

 二人でこの世界の女神様に祈りを唱えて食事をいただきます。この食前の作法は、城にいた際に学びました。


「美味しいです。料理も得意なんですね」

「いえいえ。こちらこそ、ごちそうになってしまって申し訳ないです」

「気にしないでください」


 ヴァルハルト様は今日も魔王の子は見つからなかったと報告されました。遠方まで足をのばし、気配を探ってみたものの、魔物ばかりで姿は見当たらなかったそうです。


「困りましたね⋯⋯。子どもが残っているとなると、傷が瘉え次第魔王が戻ってくるかもしれません」

「子どもも魔界へ帰った可能性はないでしょうか?」

「魔王城周辺の瘴気はかなり濃いです。魔王の血縁者でなければ、あれほどの瘴気は発生させられないのではないかと」

「あの⋯⋯」


 私は思いきって提案しました。


「迷惑でなければ、この土地を浄化して回ってもいいでしょうか。浄化が進めば、魔王の子も姿を現すかもしれません。魔族に浄化が効けば、戦闘しなくても良くなるかもしれません」

「しかし、それではアリサ様の負担が⋯⋯」

「私は聖女です。瘴気を祓うのが私の役目です」


 ヴァルハルト様はしばらく考えていましたが、やがて真剣な表情で「わかりました。俺が貴女をお守りしましょう」と続けました。


「そう言えば、アリサ様がお話された物を作ることができそうですよ」

「え!? 本当ですか!?」

「はい。シャプール鉱石とネリル材をフレイムディアの魔石で加熱して成形すればできそうです。乳棒はナレンの木を加工すればできます。ドレッジのみ別の工程を挟む必要がありそうですが、それほど時間をかけず作れるかと思います」


 ヴァルハルト様はいきいきとお話をされました。世が平和であれば、こういった物作りのお仕事に向いておられた方なのでしょう。

 

 夕食後、すぐに作業場で試作するとおっしゃったので、私は台所の片付けを行いました。何も言わずとも、お皿やフォークを流しに出してくださったところに、人柄が表れているような気がいたしました。


 数時間後、作業場から「よしっ!!」というかつてないほど嬉しそうなヴァルハルト様の声が聞こえました。

 

 覗きに行きますと、大中小のボールのような物と、泡立て器、ふるい、計量器、計量カップ、計量スプーン、ドレッジ、乳棒が並んでいます。


「前の世界の道具とそっくりです⋯⋯!」

「少し形が崩れてしまいましたが、問題なく作れるかと思います。他のものも少しずつ作っていきますね」

「ありがとうございます」


 もう夜遅いので、お休みになってはと伝えましたが、ヴァルハルト様は「後少しなので!」と快活に笑われました。

 

 せめて夜食か軽くつまめるものは作れないかと冷蔵庫を覗いて色々探しますと、箱の中に小分けの袋が入った品を見つけました。表には可愛らしいパンケーキの挿絵が描かれています。

 

「これはもしやベーキングパウダーでは⋯⋯?」


 ヴァルハルト様は異国の商人から様々な珍しいものを買っているようでしたので、その時に購入したのかもしれませんね。

 

 そう考えて、私はその粉と小麦粉、卵、牛乳、はちみつを使ってスコーンを作ることにしました。


 まずオーブンを二百度で予熱し、計量カップでざっくりと小麦粉を測り、ベーキングパウダーと合わせてふるいにかけます。

 

 二回ふるって置いておき、バターを細かく刻んで別のボールに入れます。本当は塩も入れたいところですが、今回は有塩バターなので良しとしましょう。

 

 バターにふるった粉を少しずつ入れ、ドレッジでそぼろ状になるまで細かくします。牛乳とはちみつを混ぜ、そぼろ状になった粉へ少しずつ注ぎまとめていきます。

 

 後は乳棒でのばして半分にたたむことを三回繰り返し、冷蔵庫で二十分寝かせ、もう一度のばし、ちぎってまとめます。

 

 最後にスプーンの背で溶き卵を塗って、オーブンで十五分ほど焼き、焼色を見ながら調整して完成です!


 焼き終えて取り出そうとした時、はたと私は鍋つかみを持っていないことを思い出しました。キッチンに置いてあったタオルを借りてオーブンから取り出します。あたりに甘く柔らかな香りがただよいました。

 

 カタリと、奥からヴァルハルト様が顔を出し、「これは何ですか!?」と近寄ってきました。


「はちみつのスコーンです。お夜食にどうかと思いまして」

「スコーンは俺も知っていますが、こんなにふんわりしていません。もっと固くて重たい菓子です」

「すみません。冷蔵庫の中のベーキングパウダーを使わせてもらいました」

「ベーキングパウダー⋯⋯。あ、あのパンケーキの絵が描いてある謎の粉ですか? 買って使ってみたのはいいものの、すごくまずいパンケーキが出来て、以来放置していました⋯⋯」

「もしかしたら、量が多かったのかもしれませんね。よかったら、召し上がってください」


 アチッ、アチッと言いながら、ヴァルハルト様はスコーンを一個手にとって口にされました。

 

「うまい⋯⋯!! 外はサクサクで中はふんわりしていますね! 甘みと塩気もちょうどいいです」

「良かったです。久しぶり⋯⋯だったので⋯⋯」


 思わず涙ぐんでしまい、ヴァルハルト様はスコーンを置いてすぐ駆け寄ってこられました。


「ヴァルハルト様⋯⋯。私は前の世界でお菓子作りが大好きだったんです⋯⋯。懐かしいです。誰かに美味しいと言ってもらえるのは、いつぶりでしょうか⋯⋯」

「突然異世界より召喚され、泣き言一つ言わず聖女の務めを果たされ、さぞ辛かったことと思います。このスコーンは本当に美味しいです。さあ、一緒に食べましょう。俺のためにこんな時間まで起きていてくれて、ありがとうございます」


 せっかくなので鍋でホットミルクを作り、私たちは二人でスコーンをたべました。

 

 もう夜遅いので控えめにしておきましたが、ヴァルハルト様と楽しく食べるスコーンの味は、この世界で食べてきたどんなものよりも美味しく感じられました。

 

 

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