第三十四話 ナッツ風味のマーマレードクロスタータ②
エステルがミックスナッツパウダーを買ってきてくれたので、私はさっそくクロスタータを作り始めました。
タルト生地はいつも通りですが、今日はミックスナッツパウダーも入れていつもよりサクサク感を出しました。
次はフィリングです。まずバターを常温に戻し、よく泡立てます。次に砂糖と卵黄を入れ、ミックスナッツパウダーをよくふるって入れ、しっかりと混ぜます。
最後にマーマレードを多めに入れ、とろりとするまで混ぜます。そこへ木の実の皮を剥いて粗く砕いたものをパラパラと入れ、後は加熱前のタルト型に流し込みます。
普通のタルトは焼き上がったタルト型に入れますが、クロスタータは焼く前のタルト生地に流し込むところが特徴ですね。
最後に短冊形のタルト生地を格子状に置き、漬けておいたハニーオレンジで飾りをつけをします。
一八〇度のオーブンで三十分ほど焼いたら完成です!
辺りには柑橘系の甘酸っぱい香りが立ち込め、シュクレがふんふんと香りをかぎながら近寄ってきました。エステルはお皿やカッティングナイフの用意をしてくれています。
「うわぁ〜、すごくいい香り! 爽やかでナッツの香ばしさもあって!」
「オレンジとナッツはとても相性が良いんです。さて、試食をしましょうか」
オーブンからマーマレードナッツのクロスタータを取り出しますと、エステルとシュクレは歓声をあげました。
オレンジが焦げるのではと心配していましたが、大丈夫そうですね。
本当はもっと冷まさなければなりませんが、後で竜の巣へ持っていく分も作らなければなりませんから、粗熱だけ取って食べてしまいましょう。
皆でパタパタと用意をしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえました。エステルが扉を開けると、魔王が何かを持って立っています。
「そろそろコーヒー豆が切れる頃ではないかと思ってな」
「まあ、ありがとうございます! たった今、オレンジのタルトが出来たところなので、よかったら召し上がっていきませんか?」
「なら、お邪魔しよう」
魔王は身体をかがめてノシノシと入ってきました。魔王とその娘と執事ネズミとお茶会をする日が来るなんて、追放された日は夢にも思いませんでした。
ここにヴァルハルト様もいれば⋯⋯と思わずにはいられませんでしたが、私の役割は早く竜の巣へ行ってお願いをすることです。
皆でそれぞれの食前の祈りや仕草をし、クロスタータの試食会が始まりました。
熱々のジャムが香ばしいナッツのタルト生地と絡み合い、オレンジの酸味と溶け合って爽やかな味に仕上がっています。
そして、今回はなんと魔王自らコーヒーを淹れてくれました。私が淹れるよりずっとまろやかで深みのあるコーヒーは、食卓中に芳醇な香りを漂わせていました。
「私これ好き〜! ハニーオレンジもおしゃれだね!」
「コーヒーのタルトも良かったが、こちらもオレンジの酸味が引き立っている」
「チュウ!!」
「これで、竜の皆さんにも気に入ってもらえるでしょうか?」
「絶対に大丈夫だよ! 自信持ってね、アリサ!」
エステルに太鼓判を押してもらい、私はほっと一息ついて、またお土産用のリンツァー・トルテとクロスタータ、それに販売用の冷凍保存のきくタルトを作らなければと気合いを入れました。
魔王は口数こそ少ないものの、心なしか頬を緩めながら幸せそうに食べています。本当に甘いものが好きなんですね。
私がタルトを愛してやまないのは、こういった優しい団欒の場を生み出せる魔法のお菓子だからなのかもしれません。




