第三十三話 ナッツ風味のマーマレードクロスタータ①
帰宅し、王都の売り上げを確認しますと、辺境の地付近のタハラの街より倍以上売れていることが分かりました。さすがに人の往来が多いだけはあります。これなら、私がいない間も、エステルとシュクレの生活費はまかなえるでしょう。
皆で湯浴みをしてエステルとシュクレが眠ったのを確認してから、私は竜の巣へ持っていくタルトを考えました。
先日は木の実を使ったリンツァー・トルテを気に入ってもらえました。リンツァー・トルテも持っていきますが、せっかくならもう一種類新しいものを持っていきたいです。
木の実を使っていて、こちらではまだ作っていないもの⋯⋯。
そこまで考えて、私はあるイタリアのお菓子を思い出しました。「クロスタータ」というジャムやクリームを詰めて焼いたタルトです。私はこれにマーマレードを詰めてはと思い立ちました。
生のタルト生地に直接マーマレードを詰め、上から格子状にタルト生地を乗せて焼き上げます。タルト生地にはナッツ類のパウダーを混ぜ、飾り付けにはちみつに浸けたハニーオレンジを使えば、爽やかなタルトが仕上がるはずです。
色々思案した末、私はこの「ナッツ風味のマーマレードクロスタータ」を作ることにしました。
翌朝、エステルが近くの街までシュクレとタルトを売りに行ってくれると言うので、一緒にナッツパウダーの購入も頼みました。確か、商店に「数種のナッツミックスパウダー」があったはずです。
その間、私はオレンジを塩水で洗ってからカットして皮を剥き、二ミリ程度に薄くスライスしました。種を取り、はちみつに漬けて瓶詰めにし、レモン果汁を何滴か垂らします。
こうしておけば、一晩でハニーオレンジが仕上がります。
後はタルト生地に入れるマーマレードですね。まず、先程剥いた皮を細切りにして取っておきます。そして、先ほどとは別のオレンジを用意し、塩水で洗ってから皮を剥いて、果汁をしぼり、中の薄皮と種を取り除きます。
皮は細切りにし、皮、薄皮、種、果肉、果汁とき分けます。
オレンジの皮は何回か下茹でをしておきました。そうしないと固くなってしまいますから。
ゆで上がったら、後は皮、果肉、果汁の半量のグラニュー糖を鍋に入れ、種と薄皮は薄い布に包んで一緒に入れます。
最後に数滴レモン果汁を垂らし、灰汁をすくいながら少しずつ煮詰めていきます。とろみがついて黄金色になったら、粗熱を取って煮沸した瓶に入れます。
「これで明日にはクロスタータを作れますね」
一息つこうと魔王からもらったコーヒーを入れていると、エステルとシュクレが昼食のために帰ってきました。
「ただいま〜。今日もよく売れたよ! 後、ナッツパウダーも買ってきたからね〜」
「ありがとうございます。お昼ご飯は何がいいですか?」
「チュウチュウ!!」
「あ、シュクレはミートパイがいいって!」
「いいですね。ちょうど解凍したパイ生地もありますし、それと|ジャガイモの冷製スープ《ヴィシソワーズ》にしましょうか」
この世界に「米」はありませんから、洋食が基本になります。
少しだけ白いご飯とお味噌汁が恋しくなりながらも、私は皆の昼食を作るため立ち上がりました。




