第三十話 王都②
午後になると少し人の波も落ち着いてきたため、私は魔王様と二人でその場を抜け、街の人に話を聞き始めました。
魔王様は変化の魔法をかけてもらったのか、今日は短い銀髪に緑の瞳をしています。耳も丸く、服はマントもなく庶民そのもの。
しかしただならぬ威圧感はそのままのため、多少柄の悪そうな冒険者も寄ってくることが出来ませんでした。
「まずはどこへ行く?」
「食堂で話を聞いてみたいと思います」
二人で西区の一番大きな食堂へ出向き、飲み物を頼んで席につきます。複数の人がちらちらとこちらを見てきます。さて、誰に話しかけましょうかと思案していると、若い男女の二人組が話しかけてきました。
「あの! 今日タルトの販売を始めた聖女様ですか!?」
「ええ、そうです。元、聖女ですが」
「いえいえ! 私も買ったんですけど、甘さとほろ苦さが絶妙で香ばしくて最高でした!!」
「俺、甘いものはダメなんすけど、あのコーヒーのタルトは食べられました。なんか新しい世界が開けた気分っす」
私はお礼を言って二人と色々な話をしました。魔王様は黙ってコーヒーを飲んでいますが、しっかり話は聞いているようです。
「最近、凶暴な魔物が増えてきて、今の聖女様も出ずっぱりで不穏な空気なんすよね。せっかく勇者様が帰還されたのに、魔物の討伐でほぼいないらしいっす」
核心をつく話を聞けたものの、私は不安になって、周囲を見渡しました。軽々しく王家の話をしては、不敬ととられかねません。
しかし、魔王様が「部下も連れてきている。盗聴防止の魔法をかけさせた」と耳打ちしてきました。
「ちょっと、アンデス。元聖女様の前で⋯⋯!」
魔王様に耳打ちされている間に、アンデスと呼ばれた男性は女性に耳を引っ張られていました。
「申し訳ございません。アリサ様は元々王太子殿下と婚約を⋯⋯」
「いえいえ。もう気にしていません。殿下が良き方と巡り合えたなら、それが一番です」
「俺、正直レスティ様よりアリサ様の方が⋯⋯イデデデ」
「恐れ入ります。聞かなかったことにしていただければ」
女性は蒼白に近い顔色になっています。
「レスティ様は、アリサ様が殿下と婚約していた時は殿下にくっついて、次に勇者様と出会ったらそちらにべたべたして⋯⋯。正直見苦しいっすよ」
「アンデス! 口がすぎるわ!!」
「殿下も殿下っすよ。簡単に婚約を破棄したり、白紙に戻したり、今だって国の一大事に王女様の公国に『外交』の名目で行ってるんすよね? 第二王子殿下が優秀だから、なんとかなってるっすけど!」
酔っているわけではないのに激しい口調に、どうやら相当な鬱憤がたまっているようでした。
「俺⋯⋯妹が薬草を摘んでる時にあの変な魔物に襲われて⋯⋯。レスティ様は騎士団と貴族優先とかで治してもらえなくて、今も寝たきりなんす」
私が魔王様を見ますと、魔王様は一度だけ頷かれました。
「しかも、レスティ様は治してくれないのに、『レスティ様こそ真の聖女、レスティ様はお忙しいから仕方がない』ってうわ言みたいに繰り返すばかりで⋯⋯。妹の人が変わったみたいでそっちも心配っす」
「お家は、どちらですか? 少し見せていただけませんか?」
「え、い、いいんすか?」
「もちろんです。追放されても、聖女としての力が失われたわけではありませんから」
「アンデス、よかったじゃない!」
女性が嬉しそうに男性の肩を叩き、男性はいても立ってもいられないと言うように立ち上がりました。
私は男性の後に続き、お勘定だけ済ませて外へ出ます。
男性の家は、王都の南側の出入り口に近いところにありました。男性が扉を開けて中に入ると、数種類の薬草の香りが立ち込めています。
「マリン。帰ったぞ。聖女アリサ様が来てくださった」
寝室で、エステルより少し大きいくらいの痩せ細った少女が、ぐったりと横たわっていました。




