第二十九話 王都①
二十日間、王都へ出店するための準備をすすめ、街で魔王様と落ち合い、私たちは王都へ向かいました。
エステルは銀竜の鱗で行き来するため、留守番をしてくれています。魔王様が騎乗用のワイバーンを手配してくださったため、シュクレも一緒です。
王都までは途中で二泊して三日ほどかかりました。街の人を驚かせないため、途中で降りて王都まで歩きます。王都までは、様子のおかしな魔物が複数うろついていました。
「陛下。異常な魔物が増えているような気がします」
「そうだな。少し見ぬ間に随分と状況が悪化している」
「レスティ様が浄化しているはずですが」
「増幅させた瘴気が己の力量を超えたのではないか?」
「では、このまま変な魔物が増え続けたら⋯⋯」
「王都が危険にさらされるだろう」
魔王様は淡々と話しながら、よだれまみれの魔物をなぎ払っていきます。武器も何も使わず、腕を一振りするだけで魔物はふっとばされ、岩に身体を打ちつけ砕け散りました。
こんな魔族に勝ったヴァルハルト様はどれほど強かったのでしょう。
王都の前まで来ると、私は銀竜の鱗を使ってエステルを呼びました。エステルは「やっぱり便利よね。すごい!」とはしゃいでいます。
王都へはプラチナパスを見せるだけで通行証の代わりになりました。魔王とエステルは新規出店の手伝い、シュクレは私の従魔と説明して通行料を払って入れてもらいます。
「王都の冒険者ギルドのそばは少し治安が悪いそうです。噴水広場の北側を押さえてもらいました」
「冷蔵は効くのか?」
「アイススライムの魔石を使った保冷庫を付けてもらいましたから、大丈夫ですよ」
屋台の前まで来ると、以前の街より二周りほど大きな保冷庫が用意され、店舗か屋台か区別がつかないような立派な売り場が用意されていました。
作ってきたタルトを並べ始めますと、早くも街の人たちが集まってきます。
「なあ! もしかして、タハラの街で有名な『聖女様のタルト』か?」
「王都にも出店するの!? やった! 一度食べてみたかったのよ」
「プラチナ証明書付きなんだろ? しかも食べたら癒しの効果がつくって?」
「たくさんありますから、用意でき次第ご案内しますね」
魔王様とエステルとシュクレがテキパキと動いてくれたおかげで、私はお客様との対話に専念することができました。
そして一時間が経過した頃、私は正式に王都での販売を始めたのです。
「このショコラ・モカタルト可愛い〜!! 上に乗ってるのはオレンジ?」
「オレンジピールと言います。オレンジの皮をシロップで煮詰めて、乾燥させたものです。ほろ苦くて、コーヒーによく合いますよ」
「さつまいもとカボチャのタルトって何!?」
「さつまいもとカボチャをマッシュした中身に、キャラメリゼしたさつまいもと『ゴマ』という異国の植物の種を乗せています。優しい甘さがお好きな方におすすめです」
「レアチーズタルトはないの?」
「生物なので、後日数量を調整して販売します」
王都は珍しいものに目がない方が多いのか、あっという間に人だかりが出来て次から次へと売れていきます。
エステルが列の整理をし、シュクレが包装の手配をし、魔王様は挙動のおかしい人に目を光らせていました。
おかげで、態度の悪い人に絡まれることもなく、私たちはタルトの販売に専念できました。




