第二十七話 タルトタタン③
「⋯⋯リサ! アリサったら!!」
ぶんぶんと下から手を振られ、私はハッとリンゴから目を離しました。エステルとシュクレが心配そうに見上げています。私はしゃがんで二人を抱きしめました。
「まだ決まったわけじゃないわ。ねえ、そのペンダントを使ってヴァルハルトのところへ行ってみない? 本当のことを聞けばいいと思う!」
「そうしたいのは山々ですが、公の場に出ておられたら迷惑をかけてしまいます」
「なら、私が行くわ! アリサはいつ王都から召集がかかるか分からないし、色々情報を集めてくる!」
「それは⋯⋯」
私は魔王から聞いた人為的な瘴気の件を話しました。エステルは真剣な表情で聞き、「ええ!? じゃあ、レスティ様の自作自演ってこと!?」と驚きました。
「まだ決まったわけではありません。それに、レスティ様がどこでそのような禁術を学んだのか判明していません。なので、エステルが一人で王都へ行くのは危険です」
私はある一つの案を思い付いていました。
「エステル。シュクレ。王都にも屋台を出しましょう」
エステルは一瞬真面目な顔になり、それからにんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべました。
「なるほど! それなら、大義名分が出来るし、タルトを売りながら情報収集が出来るわね」
「タルトはよく売れていますし、プラチナカードももらっています。王都での売上の一部は、年会費としてこちらのギルドへ支払われますし⋯⋯。王都に出店する場合、別途、国へ納税もしなければならないはずです。追放された身ではありますが、これなら、王都での販売許可もいただけると思います」
「街の販売は誰かに任せるの?」
「いいえ。出張販売として、しばらくは行ったり来たりしましょう。私たちには銀竜の鱗があります。最初に私が王都へ行き、エステルを呼びます。少しの間エステルに王都の屋台を任せ、私が内情を探り、エステルにはすぐこちらへ戻ってもらえば危険は少ないと思います」
「あのね、アリサ。私父様に護衛を頼んでみる。一人で王都をうろうろするのは危なそうだし」
「⋯⋯魔族が人間の護衛をするのは、抵抗がありませんか?」
「父様、アリサのこと気に入ってるから、引き受けてくれると思うよ!」
私たちは三人で頷き合い、細々とした点を打ち合わせました。まずは王都へ出店するための新作タルトを作るところからです。
これは、魔王にヒントをもらったタルトタタンにしました。タルトタタンはフランス語で「逆さまタルト」と呼ばれることもある、不思議なタルトです。
最初はリンゴの中身を作らなければなりません。エステルにはタルト生地を作ってもらい、その間に私はリンゴを砂糖とシナモンで煮詰めてフィリングを作りました。リンゴを何度も転がしていくと、優しい飴色に煮詰まります。
無塩バターを塗ったケーキ型に隙間なく詰め、オーブンで焼きます。焼けたら粗熱を取り、冷蔵庫で冷やします。
「タルト生地ができたよ〜」
「じゃあ、フォークで穴を開けて、丸く切り抜いてね」
「はーい」
リンゴが冷えたら、上にタルト生地をかぶせて、もう一度オーブンで焼きます。焼き上がったら冷蔵庫で一晩冷まします。冷めたらひっくり返して切り分けます。
このため、逆さまタルトと呼ばれているのですね。これで、明日の朝には食べられるでしょう。
「リンゴってあんなに綺麗な色になるんだね〜」
「そうですね。美味しそうでしたね」
「明日が楽しみ!! 喜んでもらえたらいいね」
「ええ。本当です。さあ、順番が逆になってしまいましたが、晩ご飯にしましょうか。今日はマカロニパイととうもろこしのポタージュスープとサラダにしましょう」
「マカロニパイって何〜?」
「マカロニをパイ生地で包んで、チーズや肉や香草を詰めて焼いた料理です」
「何それ美味しそう!!!!」
「チュウ〜〜!!」
不安は尽きません。レスティとヴァルハルト様の関係も気がかりです。でも、私にはエステルとシュクレがいます。
ヴァルハルト様が話してくださった「アリサは前向き」。
その言葉を胸に、まずはできることを一つずつ行おうと、私はエステルやシュクレと一緒に片付けを始めました。




