第二十一話 別れ
再び馬車に乗って帰っていくお二人を見送りながら、ヴァルハルト様は気遣うように私を振り返りました。
「お疲れ。まあ想像通りと言うか、癖の強い二人だったな」
「そ、そう⋯⋯ですね⋯⋯」
「アリサ。こんな時に悪いが、伝えておかなくちゃならないことがある」
ヴァルハルト様は馬車が完全に見えなくなってから、私の両手を取りました。茜色の瞳はどこか寂しげに揺れています。
「俺は王家の召集を受けた。ただ、王太子殿下の出迎えのため数日待ってもらっていたんだ。魔王の件も含め、この地の状況を早急に説明するよう言われている。また、王都周辺の魔物に異変が起きているらしく、その調査や討伐も命じられている」
「そう⋯⋯ですよね⋯⋯。ヴァルハルト様は勇者です。この地に引き止める権利は誰にもありません⋯⋯」
そう返しながらも、私は胸が塞がれるような思いでした。
「本音を言えば、出向きたくはない。いつ魔王が戻ってくるかもしれず、凶悪な魔物が出現しないと言い切れる根拠もない。王太子やレスティが関係している王家と繋がるのも億劫だ。ただ報告の義務があるのは間違いない。だから⋯⋯」
ヴァルハルト様は銀竜のペンダントを取り出しました。
「一日に何度か必ずこのペンダントをのぞき込む。アリサも確認してみてくれ。そうすれば、お互いの無事がわかる」
「はい⋯⋯! 必ず確認します」
「何かあったらすぐに戻ってくる。たとえ、王家が何と言おうとも」
ヴァルハルト様がそっと腕をのばされ、私は優しく抱きしめました。厚い左胸からとくんとくんと鼓動が聞こえ、大きな手のひらが私の長い黒髪をすいています。私もまた両腕を回し、少しの間温かな体温を分かち合っていました。
「お待ちしています。美味しいタルトを作りながら」
「ああ! それを一番楽しみにしてる。次はフルーツのタルトを食べたい」
ヴァルハルト様はさりげなく私の額に口付けて、抱擁を解きました。そのまま二人手を繋いでマジックハウスに戻ります。
マジックハウスでは、エステルとシュクレが今か今かと待ち構えていました。
「お帰りなさい〜! あの婚約者は美人だけど、キツそうね〜」
「チュウ〜⋯⋯」
「はは。どうだろうな。あまり怒らせないようにしないとな」
「エステルもシュクレもありがとうございます。無事に終わりました」
エステルとシュクレは飛びついてきて、グリグリと頭を擦り付けました。シュクレが縫ってあげたのか、エステルのお団子頭には綺麗な赤いリボンが結ばれています。しかしそれもグリグリしたせいでほどけてしまいました。
一回ほどいて、また結び直していますと、ヴァルハルト様が腰に手を当てながらあえて元気よく続けます。
「エステル! シュクレ! 悪いが、俺はすぐ王都に向かわないといけない。しばらく帰ってこられないと思うが⋯⋯。その間アリサを頼むな」
「任せて! 前にも言ったけど、私は結構強いから大丈夫!」
「チュウ〜!!」
エステルもシュクレも、ヴァルハルト様にしがみついてしばらくのお別れをします。
もしやヴァルハルト様がタルトの売買を提案してくださったのは、私が自活出来るようにするためだったのでしょうか。
本当に⋯⋯私はヴァルハルト様に助けられてばかりですね。
「じゃあ、行ってくる!」
ヴァルハルト様は休む間もなく手早く荷物をまとめ、フレイヤに乗って出立されます。
その背を小さくなるまで見送り、私は改めてエステルとシュクレを抱きしめました。




