第十六話 プラリネ入りガトーショコラ②
タルト生地はココアパウダー入りの物を作ります。普段より小さな型を使って、ササッと作ってしまいます。
焼けるのを待つ間、プラリネ入りのショコラ生地を作りました。まずナッツや胡桃の中身をよく洗い、オーブンでじっくりローストします。次に砂糖と水を鍋でよく煮詰め、ローストした木の実を加えて手早く混ぜます。
後はクッキングシートを広げて乾かせば出来上がり。出来上がったものは、一部を細かく砕いて、残りは飾り用に取っておきます。
と、ここまで作ったところでシュクレが戻ってきました。
「ん〜!! プラリネだけでも美味しい〜!!」
「ちょっと! つまみ食いしてますね!? もう、残しておいてくださいよ〜」
「大丈夫! あ、でも執事ネズミは注意した方がいいかも⋯⋯」
「まあ、シュクレ! 後でちゃんとあげますから!」
みんなでわいわい言いながらお菓子を作るのは本当に楽しいです。さて、次はショコラ生地ですね。
ショコラ生地はまず、バターとチョコレートを湯煎で溶かし、その中に卵、牛乳、グラニュー糖を入れます。砕いたプラリネを入れ、ふるっておいた小麦粉、ベーキングパウダーを入れ、木ベラでさっくりと混ぜます。
プチタルト型に流し込み、余ったプラリネで中央に飾り付けをして、オーブンで焼き上げれば完成!
最後に衛生面を考慮して、浄化の魔法をかけます。
食べる時は、飾り砂糖をかけて、スプーンで生クリームを飾り付けても可愛いかもしれませんね。
焼き立てのプラリネ入りガトーショコラは、香ばしくも甘やかな香りを漂わせていて、エステルもシュクレも待ちきれないようにソワソワしていました。
「信じられないくらい甘い香り! 早く食べたい〜」
「まだ熱いので、冷ましてから食べましょうね。ところで、ヴァルハルト様はまだ工房でしょうか? 少し呼んできますね」
私はタルトを取り出して、机に置き、少しの間冷ましておきました。その足で工房に向かいますと、ちょうどヴァルハルト様が出てこられるところでした。
「アリサ! 完成した!」
ヴァルハルト様は、興奮した面持ちで手に持った物を見せてくださいます。
薄くさらりと手に馴染むそれはまさしく前世のラップにそっくりでした。微妙に違う点は、透き通った青い色をしている点と、ほんの少し厚みがある点でしょうか。
「小川でたまに見かけるリバースライムを溶かして、ウルク剤を入れて熱して冷ました。耐熱性もバッチリだ。食べ物の乾燥を防ぐ効果もある」
「私が思い描いていた通りのものです! たった半日でこれだけの物を作れるなんて⋯⋯」
「アリサが望んでくれたからだ。今まで一人で細々と作業をしていたから、誰かのために物を作るのがこれほど楽しいとは思わなかった」
二人で笑い合うと、ヴァルハルト様はそっと私の髪に手を伸ばされました。
「アリサが来てから⋯⋯。驚かされてばかりだな」
「私もです⋯⋯。追放された当初は、こんな日々を想像もしていませんでした」
ヴァルハルト様は黙って私の髪を何度かすいていましたが、やがてポケットから何かを取り出して私に見せました。それは、あの銀竜の鱗を用いたペンダントでした。
「これを、三人でつけよう。お互いが離れないように。俺が⋯⋯アリサやエステルを守れるように」
ヴァルハルト様は自然な仕草で私にペンダントをかけます。私もヴァルハルト様にペンダントをかけました。
ペンダントをのぞき込むと、なぜかヴァルハルト様のいたずらっぽい微笑みが映っています。ヴァルハルト様のペンダントには私が映っていました。
「お互いの様子を映してくれるんだな! これは便利だな」
ヴァルハルト様は何かをごまかすように笑い、「さあ! 今度はアリサの番だ! 試作品が出来たんだろ?」と明るく声をかけてこられました。
テーブルへ戻ると、つまみ食いをしようとするシュクレをエステルが必死に止めているところでした。慌ててシュクレを抱き上げると「チュウ⋯⋯」とうなだれます。
「みんなにもあげますから、心配しないてください」
今回はプチサイズなので、切り分ける必要がありません。お皿に盛り付けてみんなでかじると、プラリネの軽やかな風味が鼻腔へ抜けていきました。ガトーショコラとの相性も抜群です。
「甘すぎず、苦すぎず、ナッツが香ばしいな! これは売れるぞ、間違いない」
「ねえねえ、これをいくらで売るの? 貴族相手でも売れそうな気がする」
「まだ悩んでいます。でも、出来ればたくさんの人に食べてもらえればと⋯⋯」
「それも商業ギルドで聞けばいい。相談に乗ってもらえるはずだ」
そんなことを話している間に、シュクレがさっと立ち上がり、ほてほてとどこかへ行ってまた戻ってきました。
「チュウ」
差し出されたそれは、布で作った小分けの袋と赤や緑のリボンでした。
「もしかして、タルトを入れるための袋を作ってくれてたんじゃない? すごーい! シュクレ優秀!!」
「チュウ〜!」
「ありがとうございます! ラッピングのことを全く考えていなかったです。助かりました」
ヴァルハルト様のラップでタルトをくるみ、シュクレのラッピング袋で包むと、小さなお菓子袋が出来上がりました。これで、安心してギルドへ持っていくことができますね。
「さあ、じゃあ、そろそろ行こうか。あ、その前に」
ヴァルハルト様はエステルの前にかがみ、銀竜のペンダントを首にかけました。
お互いの顔が映る旨を伝えると、エステルは満面の笑みで「こんなの魔界にもないわ! ありがとう、ヴァルハルト!」と飛び跳ねます。
ヴァルハルト様はためらうようにエステルの頭を撫で、真っ直ぐに立ち上がりました。
「エステル、シュクレ。何かあったら銀竜の鱗に呼びかけてくれ。すぐに帰る」
私たちはエステルとシュクレにお昼ご飯の場所を伝えてから、もう一度強く抱きしめ、ワイバーンで空へ飛び立ちました。




