第十五話 プラリネ入りガトーショコラ①
翌朝。顔を洗って私がキッチンへ向かいますと、執事ネズミのシュクレが恭しく何かを差し出してきます。
受け取って広げると、モスグリーンに白の刺繍を入れた可愛らしいエプロンでした。
「これを縫っていてくれたんですか?」
シュクレは胸を張って、ヒゲをピクピクと震わせています。そう言えば、大きめの端切れで適当にエプロン代わりにしていただけで、きちんとしたものは持っていませんでした。
「ありがとうございます。可愛すぎて汚したくなくなりますね」
お礼に耳の裏のあたりを掻くと、シュクレは「チュウ〜⋯⋯」とうっとりしています。
その後、シュクレは、寝ぼけ眼で起きてきたエステルにもエプロンを渡しました。エステルのエプロンには、淡いピンクに紫の花と白のフリルがついています。
エステルは大喜びでシュクレを撫で回しました。シュクレはブルブルと身体を震わせたものの、まんざらでもなさそうに身を任せていました。
「じゃあ、この新しいエプロンで朝ごはんを作りましょうか。今日はオニオングラタンスープにしましょう。昨日、玉ねぎを炒めておきましたから」
「オニオングラタンスープって何?」
「玉ねぎのコンソメスープにチーズを乗せて、バケットを浸したものです。今日は少し肌寒いですから、身体が温まると思います」
私は昨夜一時間半ほどかけて炒めておいた玉ねぎを冷蔵庫から取り出し、バターを入れて再度炒めました。
作り置きしてあるコンソメを使ってスープを作り、鍋の中の玉ねぎに注ぎます。塩コショウで味を整えつつじっくり煮込んだら、カップの中にスープを注ぎ、バケットを乗せてエステルにチーズをかけてもらいます。
二百度のオーブンで十分ほど焼いたら完成です!
ほんのり焦げ目のついたチーズと、スープにつかった熱々のバケットが溶け合い、下には飴色の玉ねぎが隠れています。見た目が良くなるので、パセリもかけておきましょうか。
起きてきたヴァルハルト様とシュクレも交えて食卓につき、四人でそれぞれのお祈りをします。スプーンで一口すくうと玉ねぎとチーズの甘みがふわっと口の中に広がりました。
「身体が芯からポカポカしてくるな!」
「バケットはこんな食べ方があるんだね。知らなかった〜」
昨夜、半分寝ぼけながら玉ねぎを炒めたかいがありました。みんなで集まって楽しく食事をするのは、最高の調味料ですね。
「シュクレのエプロンのおかげで、ますますやる気が出ました」
「魔王城にも執事はいたけど、なんか義務的で素っ気なかったしなあ⋯⋯。ねえ、シュクレにこのままずっといてもらいたい! それでもいい?」
「もちろんだ。アリサとエステルを手伝ってもらえたら助かる」
「チュウ!!!!」
シュクレは器用にスプーンを使ってオニオングラタンスープを飲みながら、元気よく答えました。こうして、私たちに新しい家族が増えたのです。
朝食が終わって、皆で今後の方針について話し合いをしていますと、ヴァルハルト様が食後のハーブティーを飲みながら発言しました。
「アリサ。少し相談なんだが、今日は街へ行って、タルトの売買について聞いてみないか?」
「ええ、ぜひ聞いてみたいです。どこで聞いたら良いですか?」
「商業ギルドがあるから、そこで登録をすれば簡単な屋台を出せるはずだ。詳しいことは職員が教えてくれる」
「私はシュクレと留守番してるわ! ワイバーンは二人乗りでしょ? 往復させるのは可哀想だし!」
「エステルは優しいですね」
エステルはなぜか立ち上がって私の横に立ち、内緒話をするように耳に口元を近づけてきました。
「しっかり二人でデートしてきてね! 後で一から十まで報告してもらうから!」
「で、デートなんてそんな⋯⋯。話を聞くだけですよ?」
「ふ〜ん? ま、今はそういうことにしておいてあげる」
エステルはまたニマニマしています。ヴァルハルト様は底抜けに親切な方で、私はそれに甘えさせてもらっているだけです。そこに何かを期待するのは、聖女としてあってはならないことでしょう。
ヴァルハルト様が微笑みかけてくださるたびつきりと痛むこの胸は、きっと気のせいに違いありません。
さあ、今はそれよりタルトです。私はしばし考え込みました。誰でも手軽に食べられて、美味しいタルト⋯⋯。
「決めました! プラリネのガトーショコラタルトにしましょう」
「この間作ったショコラタルトとは違うの?」
「この間はレアチョコでしたが、ガトーショコラは熱を通します。しっとりしていて、食べやすいですよ。この間、ヴァルハルト様が作ってくださった、小さいタルト型を使えばいいと思います」
前世では一人で黙々と作っていましたから、誰かと話し合いながらレシピを決めるのは新鮮でした。
ヴァルハルト様はシュクレの背中をかきながら、「じゃあ、俺はその間にラップを作ってみるか!」と気合いを入れています。
私はエステルと準備をするため、キッチンへ向かいました。シュクレは何か用事があるのか、自分の部屋へ入っていきました。




