第十二話 リンツァートルテ①
「どんなタルトにするの?」
「リンツァー・トルテというタルトを作ろうと思います。たくさんの木の実を混ぜ込んだフランボワーズのタルトです。まだフランボワーズのピューレが余っていますし」
まず拾ってきた木の実を洗って皮を剥き、オーブンでローストします。待っている間にタルト型へ薄くバターを塗って小麦をはたき、その後、力のあるヴァルハルト様に木の実の一部を綿棒で細かく砕いてもらいます。
その間にバターとグラニュー糖を混ぜ、卵黄を入れ、小麦粉と木の実の粉、それにシナモンパウダーを一緒にふるいます。ドレッジでまとめたら、のばしてクッキングペーパーでまとめ、冷蔵庫で冷やします。
ラップがあればなお良いですね。今度ヴァルハルト様に相談してみましょう。
固まったらちぎってもう一度まとめ、二つに分けます。一つはしっかりのばしてタルト型へ。もう一つは伸ばして横幅が八ミリほどの細長い短冊形を何本か作ります。
「アリサ。フランボワーズのピューレを持ってきたよ!」
「ありがとう。じゃあ、ここに入れてくれる?」
「はーい! わぁ、綺麗〜」
エステルが入れてくれたピューレの上に、さっき作っておいた短冊形を格子状に並べていきます。生地の線を上にのせたり、下にくぐらせたりするとおしゃれに見えますね。
「エステル。余ったナッツを生地の上に飾ってくれますか?」
「俺も一緒に飾って良いか?」
「ぜひお願いします」
みんなで木の実を乗せると、可愛らしいパイのようなタルトの原型ができました。これにスプーンの裏側で溶き卵を塗り、一八〇度のオーブンで二十分焼いて、後は焼色を見ながら五分ずつ伸ばしていきます。
焼き上がると、あたりには香ばしい木の実と爽やかなフランボワーズの香りが立ち込めていました。
さっそくたくさんカットして外の魔物たちに一切れずつ渡していきます。魔物たちは夢中でかぶりつき、歓声を上げました。
もちろん一個では足りなかったので、私はどんどん作ってたくさん焼きました。一回目にたくさん生地を作って冷蔵庫で寝かせていたので、それほど時間はかかりません。
魔物の子たちはお菓子を平らげるごとに不思議な光に包まれ、その姿を変えていきました。ゴブリンの一家たちは全員人間に近い外見になっていますし、スライムはベタベタの粘液だったものがお餅のように丸くなっています。
「すごいねーアリサ! これみんな浄化された魔物!? 全然怖くないし、みんな穏やかな顔してる!」
「人を襲う心配も無さそうですね」
「戦わなくとも、魔物と心を通わせることができる⋯⋯。こんな道もあったんだな⋯⋯」
竜の子には、身体が大きい分丸々一個あげました。竜の子はあっという間にぺろりとたいらげ、猫のように私の頬をベロベロ舐めました。
「あはは、美味しかったんだね!」
「体力は戻ってきましたか? お家に帰れます?」
「キュウウウウ!!!!」
竜の子は一際甲高く鳴き、バサッと空へ飛び上がりました。あまり飛び上がると目立ってしまうのではとハラハラしましたが、この辺境の地より先は海が広がるばかりです。
おそらくその先に「竜の谷」が存在するのでしょう。そこまでなら、人に見つからず飛んでいけるでしょうか。
竜の子は飛んでいかずしばらく旋回し、尻尾で器用に鱗を剥がして三枚ほど落としてきました。鱗は銀色に輝き、傾けると虹色に光ります。
「わ! 銀竜の鱗よ! 一枚一枚が響き合って、互いを持つ人の元へ一瞬で転移して、また元の場所に戻れるの! すごく珍しいのよ」
「ええ!? そんな貴重なものを!?」
「アリサに助けられて感謝してるんだ。よかったな、アリサ!」
「ありがとう⋯⋯! 無事に帰れるよう祈ってるわ」
名残惜しげに何周かして、ようやく竜の子は南の方へ飛んでいきました。怪我をせず、お父さんとお母さんの元へ飛んでいけますように。
私はそう強く祈っていました。




