第十一話 竜
外をのぞいてみますと、浄化したはずの家の周辺でたくさんの魔物たちがこちらの様子を伺っていました。ヴァルハルト様が槍を取ってこようとされましたが、すぐ足を止めます。
「外見が変わっている⋯⋯?」
外の魔物たちは皆、普通の動物と見間違えそうなほど、優しい顔付きをしています。ゴブリンの子らしき魔物もいますが、よだれが出ていませんし、凶悪な顔つきがやや吊り目気味の可愛らしい表情になっています。
「浄化の効果が出ているのかもしれません。タルトの香りのためでしょうか?」
焼き立てのお菓子の香りはたまらないものがありますから、覗きに来たのかもしれませんね。
「魔物にお菓子をあげたら、浄化されるでしょうか?」
「たぶんされるよ! 私もアリサのお菓子を食べてからとても調子が良いの。ぜひ食べさせてみてほしい」
「では、森で木の実を拾ってきましょうか。魔物が普段口にする木の実でタルトを作れば食べやすいかもしれません」
「俺も行く。いつ魔王が戻ってくるか読めないしな」
「私も行く〜! こう見えても私はとっても強いから!」
片付けをし、支度をして、三人で外へ出ました。半分浄化されかけている魔物たちは、私たちと一定の距離を取りながらも興味津々で見つめています。
森の方へ入って食べられそうな木の実を拾い、瘴気の濃いところは浄化を行いました。楽しいことに、魔物の子が一緒に木の実を集めて私たちの距離から少し離れたところに置いていってくれます。
体感時間で二十分ほど集めると、かなりの数になりました。
「あら⋯⋯」
三人で帰ろうかと引き返しかけた時。私たちは森の奥から聞こえる何かの咆哮に足を止めました。その唸り声は、低くゆっくりとまるで地鳴りのように響いています。
ヴァルハルト様が先頭に立ってくださり、私たちが奥へ入って行くと、一頭の銀の竜の子が泉の奥で悲しそうに目を伏せていました。
見ると、左の翼に傷を負っているようです。鱗は剥がれ落ち、隙間には鋭利な矢も刺さっていて、おそらく人間に追われたのでしょう。
エステルはなぜか竜の子を見て困ったような顔をしました。近づくのもためらっています。何かあるのでしょうか。
「癒しの力を使ってみますね。傷が治るかもしれません」
ヴァルハルト様とエステルには後ろへ下がってもらい、私は竜の後ろへ近づいていきました。ヴァルハルト様はいつでも攻撃できるように槍を構えておられます。竜は暴れようとしましたが、もうその力も残っていないのか苦しそうに息を吐くのみです。
私は竜の矢を引き抜き、その箇所に自分の手のひらをかざして癒しの力を使いました。傷は少しずつ塞がっていき、やがて皮膚の表面が見えるまでになりました。こうして、少しずつ矢を引き抜き竜の身体を癒していきますと、竜は大きく翼をはためかせました。
「すごい⋯⋯! こんなに美しい竜だったんだな。俺も初めて会った」
「どこからか飛んできて人間に見つかり、逃げてきたのでしょう」
優しく竜の首元を撫でながら話しかけると、竜はうっとりと目を閉じました。
「私、水を汲んでくる!!!」
しばらくためらっていたエステルですが、意を決したように駆けていってマジックハウスに戻り、大きな木のバケツに水をいっぱい汲んで戻ってきました。竜の下に置きますと、ごくごくと一気に飲み干し、満足そうに喉を鳴らします。
「たぶんこの大陸のずっと南の竜の谷から来たんだと思う。竜の子って好奇心が強いから、遊びに出て帰れなくなったんじゃないかな」
「キュウ⋯⋯」
竜の子は小さく鳴いて、スリ⋯⋯と頭をこすりつけてきました。
「今から魔物の子たちにお菓子を作るけれど、あなたも食べる?」
「キュウ!!」
竜の子は嬉しそうに一鳴きし、翼をはためかせました。そうして、竜の子はトコトコと私たちの後に続き、家の前の草原で丸くなったのです。




