第37話 港祭の透明なスープ
祭の最後に出したのは、透き通った魚介のスープだった。
白身魚の骨と香味野菜だけでとった、誤魔化しの利かない一皿。私は広場の中央で二つの鍋を並べる。一つは検品済みの本物、もう一つは倉庫で押さえた粗悪香辛料をほんの少し混ぜた見本だ。
「見てください」
本物の鍋へ紅花を落とすと、澄んだ黄金色だけが広がる。だが偽物を落とした鍋は、色が鈍く濁り、表面に細かな屑が浮いた。
ざわめきが広場を走る。ヘレナが前へ出て、王宮試食官としてはっきり告げた。
「王宮の献上宴にこのような品を通そうとした者がいます。調達官バルテル・フェナールの私印付き文書は、すでに押収済みです」
静まり返った空気の中、書記官が震える声で確認を取る。私はうなずき、押さえた帳面と偽封蝋を机へ並べた。
「ゼファールの港は、こうした偽装の通り道にされかけました。だからこそ、ここで止めたことも、どう止めたかも、隠しません」
透明なスープは、嘘を混ぜるとすぐ濁る。食卓も同じだ。
人々の表情がひとつずつ変わっていく。疑いから納得へ、納得から安堵へ。
その場で書記官はフェナールの名を記した緊急報を王都へ送った。ベルノー商会の残党は兵に囲まれ、もう言い逃れはできない。
私は湯気の向こうで、やっと肩の力を抜いた。
「終わりましたね」
隣でエイドリアンが頷く。
「ああ。君が濁らせなかった」
その言葉のほうが、どんな祝辞より深く胸へ残った。




