第31話 戻れではなく頼りにされる
二通目の王宮からの手紙は、最初の銀封よりさらに丁寧だった。
王宮試食部門の再編にあたり、主任待遇で迎えたい。住居も俸給も保証する。つまり、今度は便利な盾ではなく、必要な人材として扱うと言いたいのだろう。
手紙を読み終えた私は、しばらく黙っていた。
「心が揺れるなら、揺れていい」
ヘレナが窓際で言う。
「この手紙は命令ではありません。王宮も、あなたに断られる可能性を知った上で書いています」
昔なら考えられなかった。あの場所が、私へ『選ばれる側』として手紙を送ってくるなんて。
「少しだけ、気分がいいですね」
私が本音を漏らすと、ヘレナは珍しく笑った。
「それでいいと思います。必要とされる快さまで否定することはない」
けれど、快さと帰りたい気持ちは違う。
夕食の席で手紙の話をすると、エイドリアンはしばらく考え、皿へ視線を落としたまま言った。
「私は君に残ってほしい」
息が止まりかける。
「だが、君が王都を選ぶなら止めない」
「……ずるい言い方です」
「正直なだけだ」
私はスプーンを置いた。
「以前なら、頼られる言葉に飛びついていたかもしれません。でも今は、頼られることと居場所が同じではないと知っています」
エイドリアンは静かにうなずく。
「なら答えは急がなくていい」
「ええ。まだ、港の皿が片づいていませんから」
戻れと言われるのではなく、選んでほしいと言われる。その違いは大きい。けれど私が選びたいのは、言葉の丁寧さではなく、どの食卓で息がしやすいかだった。




