表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/35

第29話 消えた香草箱

証拠品の倉庫で、香草箱がひとつ消えたのはその夜だった。


 見張り番は眠っていない。鍵も壊されていない。それでも、青い封蝋のついた小箱だけが棚から抜かれている。代わりに残されていたのは、同じ大きさの空箱だった。


「証拠を狙ってきましたね」


 私が床へしゃがみ込むと、足元に乾いたフェンネルの種が数粒落ちていた。盗まれた箱には入っていない香りだ。つまり、犯人はほかの荷を運んでいた手で箱を触った。


 外へ出ると、夜露の石畳に細い車輪跡が残っている。荷車は軽い。大きな盗賊団ではなく、雇われ一人仕事の跡だ。


 跡を追った先は、港外れの貸し馬車小屋だった。中にいたのは三十五歳ほどの運び人で、私たちを見るなり腰を抜かした。


「頼まれただけなんだ! 青い蝋の手紙が来て、あの箱だけ運べば銀貨五枚だって……」


「誰から」


「顔は知らない。倉庫裏に置かれていたんだ」


 馬車の座席下から、盗まれた箱はすぐ見つかった。開封もされていない。中身より、封蝋そのものが必要だったのだろう。


 エイドリアンが男を兵へ引き渡す間、私は箱を抱え直す。証拠が狙われるということは、こちらの追跡が効いている証拠でもある。


「怖くはないか」


 戻り道でエイドリアンが問う。私は少しだけ考えた。


「怖いです。でも、昔よりは」


「なぜだ」


「今は、怖いと言っても誰かが黙らせませんから」


 月明かりの下、彼の表情が静かに和らいだ。王宮では、恐怖は弱みだった。ここでは、対策を増やす理由になる。それだけで、立っていられる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ