第28話 新しい検品札
公開昼食会の翌日、私は机いっぱいに木札を並べた。
白札は港で一次確認済み、青札は厨房搬入可、赤札は再検査。単純だが、誰が見ても分かる形にしたかった。食卓を守るのは勘だけでは続かない。制度にしなければ、また誰か一人が盾になる。
「札の穴は二つですか?」
声をかけてきたのは、二十六歳の給仕長補佐ノーラだ。港の食堂で働いていたが、先日の昼食会を手伝ってから伯爵府へ出入りするようになった。
「ええ。一つだと外されやすいので」
私が紐を通しながら答えると、ノーラは感心したように札を見つめた。
「毒見役って、味を見るだけじゃないんですね」
「味を見る前に守れるなら、そのほうがいいです」
午後には、エイドリアンが新しい運用書へ署名した。検品札のない荷は伯爵府へ入れない。港から屋敷、屋敷から食卓まで、同じ札で追えるようにする。
「面倒だと言われませんか」
私が尋ねると、彼は平然と言った。
「面倒で済むなら安い」
ノーラがそのやりとりを見て、くすっと笑う。
「伯爵様、前よりずっと分かりやすくなりましたね」
「そうか」
「はい。リディア様の前だと特に」
私は木札を持つ手を止めた。エイドリアンは何も言わなかったが、耳の先が少しだけ赤い。
小さな札に過ぎない。けれど、こういう小さな決まりが積み重なるほど、もう誰か一人へ責任を丸投げしない食卓に近づく。
私は白札を一枚持ち上げ、光へ透かした。
「これで次は、嘘をつく荷のほうが面倒になります」




