第23話 白い帳面の仕入れ先
伯爵府へ戻ると、私はすぐに港の仕入れ帳を広げた。
ふだん使われるのは茶色の革表紙だ。だが今日、王宮向け香辛料の記録だけが、白い紙表紙の簡易帳面へ移されている。しかも筆跡が妙に整いすぎていた。急いで書いたように見せかけて、内容だけをきれいに揃えている。
「この仕入れ先、見たことがありますか」
オーウェンが首を振る。
「ベルノー商会は実在しますが、下請けの『マルクス香料店』と『白鷺保存庫』は聞いたことがありません」
私は通行印の欄を指で追う。同じ日付、同じ時刻、なのに別々の倉庫から積んだことになっている。ありえない。書類の上だけで荷が増えている。
「王都へ送る前に、ゼファールを洗浄台に使うつもりですね」
「洗浄台?」
「ここを通せば、辺境伯家の港を経由した正規品に見える。中身が入れ替わっていても、あとから責任を追うのは難しくなる」
言葉にすると、腹の底が冷える。王宮は私を呼び戻したい。けれど同時に、ゼファールの名義で怪しい荷が流れれば、責任をこちらへ被せる口実もできる。
エイドリアンは帳面を閉じた。
「ベルノー商会の倉庫を洗う」
「証拠が要ります。いま踏み込まれても、向こうは帳面だけ用意して終わりでしょう」
「なら何が必要だ」
「現場です。入れ替えの瞬間か、押し直した封蝋の道具」
窓の外では、夕方の船鐘が鳴っていた。次の便は今夜、潮が満ちる頃に入る。
「夜の荷揚げを見ます」
私がそう言うと、エイドリアンは短くうなずく。
「護衛を増やす」
「大げさでは」
「食卓を壊そうとする相手は、たいてい帳簿だけでは済まない」
否定できなかった。王宮で私は、いつも毒が杯の中だけにあると思わされていた。けれど本当は、嘘の仕入れ帳にも毒は混じるのだ。




