第21話 王都からの銀封の招待状
祝宴の翌朝も、私はいつも通り食堂の鍵を開けた。
けれど扉の前には、いつもと違う客が立っていた。王都の使者らしい濃紺の外套に、銀の封蝋がついた文書箱。見た瞬間、胃の奥が少しだけ固くなる。
「王宮より、リディア・フェルナー殿へ」
朝食の席で封を切る。中に入っていたのは、春の献上宴に関する招待状と、王宮試食部門への復帰打診だった。ずいぶんと丁寧な文面だ。けれど要するに、足りなくなったから戻ってこいという話でしかない。
「顔色が悪い」
向かいに座るエイドリアンが低く言う。私は手紙をたたみ、白身魚のスープへ視線を落とした。
「王都の宴で使う香辛料を、ゼファール経由で集めているそうです。私に監督を任せたいと」
「断りたければ断れ」
即答だった。
「相手は王宮ですよ」
「だから何だ。君を連れ戻す権利は、誰にもない」
その言葉が、胸の奥へ真っ直ぐ落ちる。昔なら、相手が王宮というだけで従うしかないと思っていた。今は違う。選ぶ余地があるのだと、この人は当たり前の顔で言う。
添付されていた仕入れ表を見直すと、王宮向けの香辛料と保存食が今朝から港へ入る予定になっていた。銀封の依頼を受けるかどうかは別として、ゼファールの港を通る以上、怪しい荷を見逃すわけにはいかない。
「返事は後にします」
「ああ」
「その前に、荷を見ます。王都の宴だろうと辺境の夕食だろうと、食卓へ上がる前に確かめるのが私の仕事です」
エイドリアンはわずかに目を細めた。
「なら私も行く」
「伯爵としてですか」
「君の隣にいる者としてだ」
心臓が一拍遅れて跳ねる。けれど今度は、もう逃げなかった。
銀封の招待状を脇へ置き、私は立ち上がる。王都への返事はまだいらない。まず見るべきなのは、目の前の港へ届く荷のほうだった。




