第19話 役目を終えるのはあなたたちです
取り調べは夜明けまで続いた。
オズワルドは祭の混乱に紛れて逃げ切るつもりだったが、入り江側で兵に捕まっていた。供述と帳簿、港の荷、夜会の杯、全部が一つへ繋がる。
レオンは最初、最後まで私へ責任を押しつけるつもりだった。
「リディアが辺境伯を誑かした」
「彼女が嫉妬で」
そんな見苦しい言葉を重ねるたびに、監察官ローデリックは淡々と証拠を追加していった。消えた医薬庫記録。セレスティーヌの離宮への不正搬入。ハードウィック家名義の支払い。辺境伯の港湾税免除を狙った密輸計画。
やがて言い訳が尽きた頃、レオンは初めて私を見た。
「……君は黙っていればよかったんだ」
まだそんなことを言うのかと思うと、逆に静かになれた。
「嫌です」
「君は毒見役だった。盾だった。余計なことを考えず、差し出されたものを見ていればよかった」
私は首を傾げる。
「だから終わったのですよ」
「何が」
「あなたたちの役目です」
レオンが目を見開く。
私は一歩だけ近づいた。
「私はもう、誰かの愛人のために毒を見る女ではありません。あなたが便利に使える婚約者でも、黙る盾でもない」
セレスティーヌが嗚咽を漏らす。けれど同情は湧かなかった。彼女もまた、自分が安全でいるために他人を差し出し続けた一人だ。
「役目を終えるのは私ではなく、私を使い潰す側です」
それだけ告げると、不思議なくらい胸が軽くなった。
監察官たちは二人を連れて行く。王都へ戻れば、もう二度と穏便には済まないだろう。
すべてが終わったあと、執務室へ戻ると、エイドリアンが窓際に立っていた。港は朝日に染まり、昨夜の騒ぎが嘘みたいに静かだ。
「片づいたな」
「ええ」
「これからどうする」
その問いに、私は少しだけ考えた。
王都へ戻らないことは決まっている。では、ここで働き続けるのか。あるいは別の土地へ行くのか。
私が答える前に、エイドリアンが振り向いた。
「雇員として残れ、と言うつもりだった」
低い声はいつも通り落ち着いているのに、目だけがほんの少し迷っている。
「だが、それだけでは足りない気がしている」
私は息を止めた。
「君が望むなら、この先も私の隣にいてほしい」
港の朝日が眩しい。
それでも、今度は目を逸らしたくなかった。




