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第18話 祝宴に仕掛けられた最後の一手

港湾祭の祝宴は、海へ向かって開く大食堂で行われた。


 灯籠の灯りが揺れ、窓の外では祝砲代わりの花火が上がる。人々は祭の華やかさに目を奪われている。だからこそ、毒を混ぜる側には絶好の機会だ。


 私たちは先に手を打っていた。


 同じ形の塩入れを三つ用意し、本物と偽物を入れ替える。配膳路を二重にし、ヘレナの兵を給仕姿で紛れ込ませる。さらに、開封検査の対象にする荷を祝宴会場の真下の倉庫へ移しておいた。


「来ます」


 私が囁くと、エイドリアンが頷いた。


 主菜は焼き貝と白魚の盛り合わせ。問題は仕上げに振る青塩だった。見た目は華やかだが、毒を混ぜても海藻粉に紛れる。


 案の定、最後の直前で給仕の動きが一つだけ乱れた。


 塩入れを持つ手が、エイドリアンの皿の上だけ長く止まる。


「そこまでです」


 私が声を上げると同時に、ヘレナの兵が給仕役の男を押さえた。男は暴れ、塩入れが床へ落ちて砕ける。散った青塩に銀匙を当てると、瞬時に黒く曇った。


 広間が悲鳴に包まれる。


「毒だ!」


「落ち着いてください」


 私は砕けた塩を示した。


「これは青影草と海蜜花を混ぜたものです。香りで気づかれにくく、口へ入れば喉を痺れさせます」


 レオンが立ち上がる。


「出鱈目だ! こんな小細工、辺境伯家の人間なら誰でも」


「では、こちらは?」


 別室からノエルが運んできたのは、祝宴用として届いた未開封の荷箱だった。封印をその場で切る。中には同じ青塩の袋が並び、その一番上へ、ハードウィック家の紋章入り指輪袋が乗っている。


 ざわめきが一層大きくなる。


「なぜ、それが」


 レオンの顔色が消えた。


 さらに扉が開き、新たな一団が入ってきた。先頭に立つのは、王宮監察官ローデリック・ヴェイン。三十八歳。ヒューゴの名で要請していた人物だ。


「夜会当日の杯の鑑定結果を持参した」


 彼が卓上へ封書を置く。


「検出されたのは同一系統の毒。しかも王宮医薬庫から消えた量と一致する」


 逃げ道が一つずつ消える。


 セレスティーヌが蒼白になり、レオンの袖を掴んだ。


「何とかして」


 その一言が、最後だった。


 ローデリックが静かに告げる。


「両名を王都監察局の名で拘束する」


 レオンはなおも何か言おうとしたが、ヘレナの兵がすでに腕を押さえている。セレスティーヌは涙を浮かべながらも、今度は誰も庇ってくれないと理解したらしい。


 花火の音が、ちょうどその時、大きく夜空へ弾けた。


 祝宴は終わりだ。


 ようやく、長い食卓の戦いも。

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