第16話 港湾ギルドの公開査問
セレスティーヌの到着は、港町でもあっという間に噂になった。
王都の有名な未亡人が、辺境伯と港湾祭を視察に来る。表向きはそれだけだ。だが裏で何が動いているかを知る者にとっては、あまりにもわかりやすい牽制だった。
私たちは先手を取った。
昼過ぎ、港湾ギルドの広間で公開査問が開かれる。
集まったのは主要商会の代表たち、税務係、船主、そして王都から来たレオンとセレスティーヌ。セレスティーヌは真珠色のドレスで微笑み、ここが裁きの場ではなく舞踏会の控室であるかのように振る舞っていた。
「辺境伯様、突然の査問だなんて大げさですわ」
鈴を転がすような声。
私はその声を聞くだけで、王宮の夜会の空気を思い出す。けれど今は違う。ここには壁際へ下がるだけの私ではなく、資料と証人がある。
ノエルが帳簿を開き、冷静に数字を読み上げる。
「この三か月、サヴァラン商会経由の塩と香油の搬入量が、申告量と現物で一致していません」
続いて私は、塩壺の焼き印、海蜜花香油、青影草の反応記録を並べた。
「さらに辺境伯家の食卓へ向かった料理から、同一系統の毒が二度検出されています。搬入経路は同じです」
商会主サヴァランが顔を強張らせる。
「偶然の一致でしょう」
「ではこちらは」
私はエマの自筆供述書を出した。オズワルドの指示でソースへ粉を混ぜたこと、借金の肩代わりを約束されたこと、支払いに使われた袋へハードウィック家の紋章があったこと。
レオンが即座に口を挟む。
「そんなもの、脅して書かせればどうとでもなる」
「脅していません」
「辺境伯家の雇員になってからの君の証言は偏っている」
広間がざわめく。
私はレオンを見た。
「偏っているかどうかは、杯の鑑定結果を出せばわかります」
その一言で、彼の眉がぴくりと動いた。
「まだ出せない事情がある」
「出せないのではなく、出したくないのでしょう」
セレスティーヌがそこで初めて微笑みを薄くした。
「まあ、ずいぶん強くなられたのね、リディア」
「黙っているのをやめただけです」
エイドリアンが立ち上がる。
「本日この場で、祭前夜に搬入予定の荷をすべて開封する。異論がある者は、この査問で理由を述べろ」
商人たちが互いの顔を見る。税が絡み、しかも公開査問で拒むとなれば、自ら後ろ暗さを認めるようなものだ。
ついにギルド長が口を開いた。
「……開封に同意します」
それが決定打になった。
だが広間を出る直前、セレスティーヌが私へ近づき、囁くように言う。
「少し、二人で話せないかしら」
目元には優雅な笑み。
けれどその奥で、焦りが揺れていた。




