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第13話 密輸帳簿は王都を指す

オズワルドの私室は、本人の性格そのままに整いすぎていた。


 衣類は折り目まで揃い、靴も磨かれ、机の上には埃一つない。だが本当に几帳面な人間は、逃げる夜に引き出しを開けたままにはしない。


「急いでいたんですね」


 私が机の内側を覗くと、ノエルが紙束を一枚ずつ抜き出していく。


「こちらは倉庫鍵の貸出票……こっちは香油の請求書……」


「香油?」


「海蜜花です。しかも、サヴァラン商会から個人名義で」


 奥からマルタが小箱を持ってきた。中には女物の薄い便箋が三通。どれも差出人名はないが、香りがついている。甘く、くどい海蜜花。


 私は一通だけ開いた。


『今度の荷は白百合の離宮へ先に回して。あの女が辺境に着いても、伯爵が長く保つとは思えないもの』


 署名はない。


 だが末尾に描かれた花弁飾りは、セレスティーヌが扇やハンカチによく使う意匠と同じだった。


「白百合の離宮?」


 ヘレナが顔をしかめる。


「王都南区の別邸です。セレスティーヌ様が最近入り浸っていると聞いたことがあります」


 ノエルが別の帳簿をめくる。


「こっちはもっと露骨ですね。港から出た荷の一部が、税務上は“医薬品”になっている」


「実際には?」


「香油、青影草、それと……王宮御用達の塩」


 私は息を止めた。


 王宮御用達の塩は、普通の市場には出ない。祝いの席や貴人用の食事に回る特別品で、封印紐も刻印も独自だ。だから私は昨夜、一目で違和感に気づけた。


「つまり、王宮からこちらへ来ているのではなく」


「こちらから王宮にも流している」


 エイドリアンの言葉に、全員が黙った。


 港と王都を繋ぐ密輸路。目的は金だけではない。毒の材料も、食卓に載る塩も、全部同じ道を通っている。


「港湾祭の前夜が次の搬入」


 私は帳簿の日付を指でなぞった。


「人が多く、灯りも多い。荷を動かすにはちょうどいい」


「だからこそ、証人も多い」


 エイドリアンが言う。


「祭の前にギルドへ公開査問を要請する」


「受けますか」


「受けさせる。税が絡んでいる以上、商人は逃げきれない」


 そこまで決めた時、廊下で足音がした。


 若い侍女が青い顔で入ってくる。


「マルタ様、裏庭の塀のところに、縄梯子が」


 全員の視線が窓へ向く。


 まだ、屋敷の中に協力者が残っている。

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