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こんな世界で再出発なんて  作者: 作者の友人氏
序章 事変の兆候
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第三話 事変の兆候

 午前2時


 メルググラードは闇と静寂に包まれている。

 そんな街の大通りを歩く四つの統一感の無い影。何を隠そう夕凪と愉快な仲間達だ。


 現在、夕凪達はある店へと向かっている。

 それは夜にしか開かない特別な店。

 ペトナ曰く、「困ったら取り敢えず行くべき」とのこと。

 ヴァイロフは、その店についてこう述べた。「変わり者しか居ない店」と。


「ヘェッ、夕凪様って魔法が使えないの!?め、珍しいわ!」


 夜の静寂を切り捨てるかのように、ペトナの衝撃に満ちた声が響く。


「ちょっ、静かに」

「静かになぁ」


 アーバは力強く、ヴァイロフは気が抜けたように注意する。

 二人は相性が良いのか、言動がよく被る。


「ご、ごめんなさい。びっくりしちゃったもので、つい」


 ペトナは頬を赤らめ、軽く俯く。

 ペトナにとって、魔法が使えないのはそれ程にまで珍しいようだ。


「そんなに珍しいの?まぁ、完全に使えない、って訳じゃないよ。護身用の武器位なら作れるし、翻訳魔法だって。それに――――」


 ふと夕凪の視野に、見覚えのあるピンク髪の女の後ろ姿が入る。

 そう、メルググラード行きの列車で出会った淫魔エクーネだ。

 しかし、あの時とは雰囲気がまるで違う。

 明らかな殺意、敵意、狂気を小柄なその身体から放ち続けている。


 夕凪は咄嗟に「伏せて!」と三人に声を掛け、物陰に身を潜める。

 夕凪の鼓動が一気に速まり、額から冷や汗が吹き出る。


「なんで此処にエクーネが?」


「エクーネ……アイツか、例の気ちがいか?」


 ヴァイロフが夕凪の耳元で囁く。


「うん。この間はわからせるとか言ったけど、まさか此処で……嫌な予感がする」


「そういやぁ言ってたな、近々会うかもって……」


 ペトナとアーバは、その事については何も知らないため、二人の会話に混じることはせず、聞くことに専念する。

 だが、そんな二人でも分かる。

 エクーネという脅威が。


「――――まずいッ」


 エクーネは、不意に夕凪達の居る方へ振り返り、5秒程見つめる。

 その瞳は、狩りの最中、獲物を仕留める猛禽類そのものだ。

  

「確かアイツは淫魔だったよな。だったらすぐにでも――――はっ!」


 ヴァイロフが悲鳴に近い声を漏らす。

 余程の事があったに違いない。


 夕凪が慌てて状況を訊くと、

 

「エクーネの姿が無い。消えたんだ一瞬で。恐らく瞬間移動かテレポートだろう!」


「気付かれたか……面倒だね。皆、ピンク髪の奴には近付かないようにね!」


「……うん」「……おう」


 突然の事に、ペトナとアーバは困惑を露にする。エクーネについて何も知らないのだから当然の反応だ。だが、直に見ていない筈の二人の額には、大粒の汗が月光に照らされ微かに光っている。

 

 夕凪達は警戒を強め、件の店へと足を進める。


「ッ――――!」


 突如、アーバの心の奧から強烈な違和感と恐怖心が湧き出る。

 しかし、皆をこれ以上心配させまいと、無理矢理にでも抑え込むことにした。




※※※




 同刻


 メルググラードの何処かにある古本屋


 風の噂によると、この古本屋には曰く付きの本があるらしい。

 その本は、この地で太古に発生した第四次魔術戦争の歪められた真実を記した聖遺物とされている。

 しかし、この噂は専門家から嘘偽りであると切り捨てられた。にも拘らず、この本に固執する者も不特定多数存在する。


 何故メルググラードの古本屋に有るのか、何故未だ固執する者が居るのか等々、謎が謎を呼ぶ複雑怪奇な都市伝説へとなった。


 そして今、その古本屋で凄惨な事件が起きた。


 

 ――――パリッ!



 窓硝子が割れる音で、店主の老紳士が目を覚ます。

 彼は二階の小さな物置部屋で、慎ましく暮らしている。

 

「何だ?まだ2時だぞ!くそったれ、またこそ泥か!」

 

 老紳士は血相を変え、愛用の杖を手に取り、音の鳴った一階へと降りていく。

 

 辺りは静寂に包まれ、不気味な程に静まり返っている。

 

 老紳士はそこに強い違和感を覚える。

 今までのこそ泥は、乱雑に行動するため騒がしい。だが、今回は真逆。

 そして、一階から湧き出る嫌な気配。


(盗み慣れているのか?いや待て、変じゃ!何かがおかしい!何だこの気配は!?)


 老紳士は、その場で立ち竦む。

 感じるこの気配は、まさに恐怖と絶望の類い。まさに呪い、怨念そのもの。


(有り得ん!まさか封印が解けたのか!?)


 老紳士は慌てふためき、部屋に駆け足で戻る。扉に鍵を掛け、埃で汚れている床にペンで八芒星の魔術陣を描き、震える両手に分厚い魔導書を広げて同じく震える声で詠唱を始める。

 古代言語を繰る魔術師である彼は、無心にただひたすらに詠唱を続ける。

 

 しかし、秒針が一周もしないうちに彼は絶望に呑まれ、凄惨で残酷な死を迎えた。

 両手足は粉々に砕かれ、原型を留めていなかった。腹からは無数の臓物が飛び出し、頭部は骨ごと裂けて脳髄が露になってる。

 

 亡骸の近くには、彼を看取るかの様に朱色の紫陽花が一輪添えられている。

 



※※※




 午前2時半


 メルググラード北部地区


 ヴァンフ百貨店

 

 高楼が建ち並び、娯楽と後悔が交える北区の顔である建造物。

 夜闇を穿つ絶対の光源であり、街の復興と繁栄、現在を証明する建造物。

 人類と白エルフの友好の砦であり、とある計画の中心となる建造物。 


 

「ねぇねぇ!アレ買って!アレ買って!」


 そうおねだりを繰り返すのはピンク髪の淫魔の少女。

 少女は、無数に立ち並ぶ過去の遺物のレプリカを指差す。

 

「フッ、心の底から欲しいのかい?それとも心の底から要らないゴミなのかい?君は気難しいからね。そう、面倒な程にね」


 少女の3歩後ろを気だるそうに歩くのは、蒼い長髪をポニーテールで束ねる青年。

 青年の虚無を見つめる瞳からは、圧倒的な余裕と心の狭さを感じることができる。

 

 現在、少女と青年の二人は、百貨店の地下通路に潜入している。


 狭く薄暗く息苦しい。

 一般人が入ることを元より想定していない造り。


 青年は、そんな通路に苛立ちを露にする。


「はぁ、ダルいな。いつもそうだ。奴らはいつもオレに無理難題面倒極まりない任務を押し付ける。許せない、許せない」


「まあまあ、せっかくウチが一緒なんだしさぁ!楽しもうよぉ!ウチはいつもで君の『み·か·た』だからねぇ!したくなったらさぁ、いつもで言ってよねぇ!」


「……」


「ウチはいつもで歓迎するよぉ!純粋な愛、純愛の証明、濁り無き愛、汚れ無い希望。ウチは全部を認めるし愛する淫魔だよぉ!特別な淫魔だよぉ!」


「……」


 少女の熱烈な愛を、青年は無視を決め込む。

 反応が面倒なのか聞こえていないのか、彼にしか分からない。だが、確信して言えるのは、彼は今、強烈な殺意を溜め込んでいる事だけ。

 

「うん、着いたよ。此処だよ此処。指定された場所。原初の爆心地であり、壊滅の根元、グラウンドゼロに」


 少女は先程までとは大層違い、極めて冷静。晩年、死を待つだけの人間に近しい雰囲気を醸し出す。


 青年は悲哀、憤怒、嫉妬に満ちた。


「始めよう。七号計画、我々の願いだ」




※※※




 午前3時


 メルググラード南部地区 郊外付近


 夕凪達は、予定よりも20分遅れで件の店に着いた。

 その店は年季の入った小屋で、建物の間にひっそりと鎮座しており、意識していなければ見逃してしまう程の矮小な存在だ。

 されど、その矮小さが現在まで店を守っている。


「着いたわよ。ここがメルググラードの何でもが揃う店――――」


 ペトナは意気揚々と件の店を指差し、紹介を始める。

 

「ゴルコフ売店よ!」


「久し振りだな。ゴルコフ、くたばって無いといいが」


 ヴァイロフも警戒を解き、上機嫌になる。

 なんでも、ヴァイロフと店主のゴルコフは、親友同士で固い絆に結ばれているらしい。先のエクーネの件から、押し潰される程の緊張と警戒を強いられてきたヴァイロフは、ゴルコフという存在に救われた。実際、道中では何度かゴルコフと漏らしており、心の支えと言っていた。


「へぇ、こんなところに……言われなきゃ気付かなかったよ。何て言うか……その、存在感が皆無だよね」


 夕凪が言い放つ。


「ああ。だがそれが良いのだ。何てたって違法だからな。やってることは。真っ黒だよ」


 ヴァイロフは、呆れ口調で同意する。

 

「さぁ、早く入りましょ。うん?アーバ、大丈夫?」


 ペトナは目一杯背伸びをして、終始無言のアーバの背中を擦る。


 アーバの顔は、若干歪んで見えた。

 苦しそうだ。


「どうしたの?アーバ、顔色悪いけど。昨日の事もあるし……心配だよ」


「そうだな。早く入ろう。アーバ、お前は休め」


 ヴァイロフは、心配を露にする。

 彼は、人一倍仲間想いの男だ。

 

 ペトナが店の扉に手を掛けた。

 その時、その刹那。




 ――――ドカァァン!




 遥か北から鼓膜を叩き割る様な爆発音が鳴り響く。

 その衝撃波で周囲の建物の窓硝子が一斉に割れ、地響きが起きる。


 外に居た夕凪達は、その影響もろに受けた。

 割れた硝子片が容赦なく降り注ぎ、人肌を切り裂く。脳を揺らすような衝撃波と爆音が、身体と精神を叩き壊す。


 特にペトナは他3人よりも影響を強く受けた。

 気を失い、耳からは朱色の液体を溢れだし、肌は裂かれ、真っ赤に腫れ上がる。


「ペトナ!!」


 夜空を映す硝子片の海に、ペトナはゆっくりと後ろに倒れる。

 ヴァイロフは、間一髪のところで身を投げ出して、ペトナを下から抱き抱える。 


 しかし、その代償は大きかった。

 ヴァイロフの逞しい身体はズタズタに引き裂かれ、硝子片は真っ赤に染まる。


「ぐっはぁ――――!」


 だが、それでもヴァイロフは立ち上がって魅せた。

 踞るペトナを腕に抱き、小さな歩幅で夕凪とアーバの元へ歩き始める。


「ヴァイロフ!」「ヴァイロフ!!」


 夕凪とアーバは、奇跡からか無傷だった。

 

 二人は、我が身を犠牲にしたヴァイロフ、重傷のペトナの元に駆け出す。

 

「これは酷い。回復魔法を!中程度だが役には立つ!!」


 アーバは、先程までの不調を焦りが覆い隠し、冷静に魔法を発動する。


 彼の手からは小さな魔法陣が四つ展開され、黄緑色に微かに発光する。

 

 その光を浴びたヴァイロフとペトナの傷は、少しずつ塞がって行く。

 だが、完全ではない。

 無数の傷からは血が流れ出し、魔法でも止まらない。


「くそ!どうすれば!!」


「なら、これは使える!?」


 夕凪は、数少ない魔法で刃物を作り出し、自身のスカートに躊躇いなく刃を入れる。


「薄いが、何もないよりは遥かにマシだ!」

 

 アーバは、夕凪から渡された数枚の布を、特に酷い傷に巻き付ける。


 巻かれた布は、瞬く間に朱色一色に染まり、血が滴り落ちる。


「どうした!!?」


 突如、後ろから野太い声が聞こえてきた。


 声の主はゴルコフだった。

 ゴルコフは、爆音を聞いて身を潜めていたが、夕凪とアーバの声が耳に入った事で外に飛び出てきたのだ。

 

「なんと!!」


 ゴルコフの視界に、血まみれの親友·ヴァイロフと常連のペトナが入るや否や、二人の元に駆け寄る。

  

 夕凪がゴルコフに事情を事細かに伝える。



◇◇◇



「そうか、わかった。取り敢えず入りなさい。いいか、ヴァイロフ」


「あぁ、すまん。また迷惑掛けたな」


 ヴァイロフは、治まることを知らない激痛に耐え、ペトナを親友ゴルコフに託す。ゴルコフは、ペトナと共に店に入る。


 ペトナは、魔力量が多いため回復魔法の影響を受けやすい。そのため、容態はすぐに安定した。

 しかし、ヴァイロフに関しては、そうは行かなかった。ヴァイロフの魔力量は少ない。なので、回復が想定よりも遅く、傷も深い。アーバの回復魔法は、精々傷を消毒した程度。ヴァイロフの治療には、専用の魔導具と腕の立つ回復魔法使いが必要となった。


 そんな絶望的な状況でもヴァイロフは折れなかった。弱音も吐かずに立ち上がり、大切な仲間を救って魅せた。


「夕凪、アーバ。オレとペトナはこの様だ。一時動けそうに無い。お前達だけでも避難しろ!安全な所に……大聖堂に行け。いいな」


 ヴァイロフは、この期に及んでも無傷の二人に気を掛けた。スカートを布を巻かれた腕からは血が垂れ、義肢である左腕には無数の亀裂が刻まれている。

 

 月光が硝子片とヴァイロフを白く照らし出し、ヴァイロフの強さを際立たせる。


「ああ、わかった」


「ヴァイロフ……どうか無事で」


 夕凪とアーバは、メルググラードの中心部、ヴァイロフの言った大聖堂へ向かう事にした。

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