36話 ブスオリの母、身の危険迫るノア
「母は5歳で妊娠し、6歳で私を産みました。体が十分に成長していない状態では、妊娠するだけでも命の危険があります。」
ノアの口は、ぽけーっと開いたまま閉じない。
「当たり前よ!成人もしてないのに妊娠なんて…馬鹿なの?」
ヒューリスは、ブスオリの話を聞くなり怒り出した。
「なるほど。ブスオリ様を産む際に、お母様の体は耐えられなかったんですね。ですが、その死はブスオリ様のせいではないですね。」
(同じことを言った奴が、次の日にはいじめてきてたな…)
ブスオリは嫌なことを思い出してしまい、俯いた。
「ツルカネオ様が悪いです。一般的に、成人にも満たない子供を妊娠させるなんてこと、あってはいけないんですよ……あ…」
ノアは何か気づいたように声を上げた。が、ノアより先にヒューリスが呟く。
「ノアの体は、普通の11歳にしては小さいわよ。気をつけなさいよ?」
「はい…」
ヒューリスの言ったことは、ノアが気づいたことと同じだった。
「私の父は、罪を犯して……ああ!」
ブスオリは、自身の父親がやった事の重大さに気づき、頭を抱える。
ノアは、自分に配慮が足りなかったことに気づいて、ブスオリに声をかける。
「す…すみません。配慮すべきでした。ですが、あなたはあなたです。ツルカネオ様の罪が、あなたのものというわけではないです…!」
「だが、親が親なら子も子と言う…」
ブスオリはすっかり座り込み、頭を抱えて動かない。
「……しゃんとしなさい!」
しばらく沈黙が続く中、ヒューリスが叫ぶ。
「いい?ノアがあんたの母親の二の舞いにならないよう、あ・ん・た・が!守んなさい!」
「!」
ヒューリスの言葉で、ブスオリは顔を上げるが、弱気で言う。
「だが…私に何ができる…?」
────チッ…
ヒューリスが舌打ちした。そして、ブスオリの胸ぐらを掴む。
「罪の意識があると思ってみたり、弱気になって悲劇のヒロイン振ったりなんなのよ!できるできないじゃないのよ!やれって言ってんの!あたしが!やらないなら、殺す!」
「はっ、はい!」
ブスオリは、ヒューリスの圧で反射的に返事をした。
ブスオリの胸ぐらを離すと、ブスオリは咳をした。だが、ヒューリスはブスオリに背を向けて、ほっと肩を撫で下ろす。
「よし…これであたしの責任じゃなくなった…!」 ボソッ
「何か言いましたか?」
「うぁあ!」
ノアが背後から声をかけると、ヒューリスは驚いて倒れ込んだ。
「な…なんでもないわよ!もういいわ!早く依頼を終わらせれば、面倒事とはおさらばなんだから、行くわよ!」
ヒューリスが進もうとすると、ブスオリが呼び止める。
「あの…もう、いいですよ。これは、課題ではないです。貴族学校の同級生から、やれるならやってみろと、挑発されただけですし…」
ブスオリは、恥ずかしそうに、悔しそうに言った。
ノアは少し考えてから、ヒューリスに耳打ちする。
「あの…大妖精なら、すぐに会えますよ?」
「はぁ?何言ってんの。妖精はいるけど、大妖精なんていないわよ。」
「います!会わせてあげますから!」
「はいはい…」
ヒューリスは面倒くさそうに返事をすると、進み始める。
「ブスオリ様。」
「もういいんだよ。ただの見栄っ張りなだけだし。」
「ですが、見てみたいと思いませんか?」
「……え?」
ノアはブスオリの手を引くと、ブスオリは立ち上がる。
「私は妖精がいると聞いて、「見てみたい」と強く思いましたよ。」
ブスオリは、手を引かれるままノアの後をついていく。
「これは、見栄を張っているんじゃないですよ。私の知的好奇心に付き合っていただくんです!」
「!」
(君は…本当に、いい子なんだ。)
ブスオリは、ただただついて行く。手を引かれるのは初めてだが、嫌な気がしなかったのは自分でも意外だった。
しばらく歩いて、ヒューリスと合流する。
「遅い!早くしてよね?で、どうやって会うのよ。」
「すみません…会うためには、心の底から祈ってください!」
「祈る?どんな感じよ?」
「こう…大妖精様、会いたいです…!って感じですね。」
「雑ね…」
ヒューリスは文句を言いながらも、祈るように目を瞑った。
「ほら、ブスオリ様も。」
「…ああ。」
3人は目を閉じて祈る。
ノアは心の中で、大妖精であるオーラに叫ぶ。
(オーラさぁぁぁん!早くきてくださぁぁぁぁい!)
しばらくすると…
『いやよぉぉぉぉぉ!ノアは私を、殺しかけたぁぁぁぁ!』
オーラは絶対に行きたくないようだ。
(わかりました…なら、こっちから城に行ってあげますよ?)
『無理よ。城は常に動いてるわ。』
(別に、私はテレポートでひとっ飛びですよ?もし来ないなら、実験…)
ノアは、テレポートの座標をオーラにしているため、城が移動しても大丈夫なのだ。
(ちょろっと会うだけじゃないですか!)
『……わかったわよ。』
(よしっ!)
ノアは満足そうにニヤつくが、目を徐々に開ける。
「はい。来てあげたわよぉ?」
「ひぃ…!」
ブスオリは驚いて、腰を抜かす。
「あら?何よ。なんか文句あるかしら?」
オーラがブスオリに近づくと、ヒューリスは止める。
「やめなさい!ノアに指1本触れてみなさい!殺す!」
ヒューリスにブスオリを守る気はないようだった。
「あらぁ?私の方が早くにこの子にあってるのよ。ねぇノア?」
「あ…はい。」
オーラはノアと腕を組む。
「仲良しだものね〜?」
「はい…」
(怒ってる…?)
オーラはヒューリスと睨み合う。
2人の圧が、ノアとブスオリにも伝わるほど強くなる。
「あ、あ…あぁ…」
「ストップ!やめてください!」
ノアはオーラの腕を解き、ブスオリに近寄る。
「なんでよ?あたしは、この魔物と比べたら強いわ!」
「何言ってるの、ただの人間が。私が来てあげたのは、ノアがいたからよ?」
ノアは、オーラを呼んだことを後悔した。
(ヒューリスと喧嘩するとは、思わないし…)
「ブスオリ様…大丈夫ですか?」
「…ああ。大丈夫。」
「良かったです。さ、大妖精をとくとご覧ください。」
ノアはブスオリの前からどく。
「うぁ…」
逆光によって神秘的に光るオーラの髪は、普段以上にオーラを美しく見せている。
「人間の子供よ…」
「はい…」
「……………帰っていいかしら?」
「はい?」
「あ、いいの?帰るわね。」
オーラは、本当に帰ろうとする。
「ちょちょ!流石にまだダメです。」
ノアが止めると、オーラは口を尖らせる。
「はぁ…あのねぇ、私も忙しいわけ。別に何か大きな仕事をやってる訳じゃないけど!人前に出るのは嫌だし、あんなのはいるし!嫌なのよ!」
"あんなの"とは、ヒューリスのことである。
「そんなこと言わないでください…これも必要なことなんですから。」
「そう。どう必要なの?」
「うーん…」
ノアが考え出すと、ヒューリスが答えた。
「これが、依頼だからよ!しかも、早く終わらせないと、あたしが…じゃなくて。ノアが危険なのよ!」
ヒューリスは、ノアが妊娠させられることを心配している。……ように見せかけて、そうなった時のギルマス(レイ)が怖すぎるため、自分を守ろうとしている。
「危険?ああ…確かに、ノアって危険よね。」
オーラも同意するが、オーラはノアにやられたことを思い出して、身震いする。
「守らないとなのよ! (ノアを)」
「ええ!守らないとだわ! (自分を)」
ノアは、意気投合している2人を眺めながら、ふと思う。
(守るって、どうやって?)
「あの…どうやって守るんですか?」
ヒューリスとオーラは顔を見合わせる。
「「確かに…」」
2人はノープランだった…




