35話 ツルカネオの企み
(ツルカネオ…危険な人だ!)
ツルカネオ自ら、ノアを息子の元へと案内する。後ろをついて行くノアは、ツルカネオを睨みつけている。
「ノア…もっと、バレない程度に睨んでくれない?」
「すみません…不快で…」
ノアが睨んでいるのに気づいたヒューリスが止める。
「ここが、息子の部屋ですぞ♪」
ツルカネオは、勢いよく扉を開けた。
広い部屋の中心には、息子と思われる男が立っていた。
「やあ!私の課題を手伝ってくれるのですね!」
「そんなに大声を出すな!」
ツルカネオは息子を怒鳴る。そして、ノアに背を向けてヒソヒソと話し出す。
「いいか?見るからに知的だし、可愛い。しかも、あんなにいい服を着ているとなれば、どこかの貴族が秘密で冒険者をしているのかもしれない…」
「なるほど…では、あの子を僕のお嫁に?」
「ああ…だが、惚れさせる必要があるぞ?いいな?絶対に成功させろ!」
「はい!パパ!」
ツルカネオは作戦会議を終わらせると、ノアに向き直る。
「私はノア・フェレアと申します。」
「ぼ…私は"ブスオリ・ワガコ"です。ノアさん、よろしくお願いします!」
(名前通りのブスねぇ?)
ヒューリスは、気づかれない程度に鼻で笑った。
「ブスオリ様、よろしくお願いします。それと…さん付けは不要です。私の身分は冒険者ですし、11歳ですから…」
「11歳…?それは、本当ですか?!」
「はい…依頼を受けてはダメでしょうか?」
ノアは、何気なく質問する。だが、自身より背の高いブスオリを見上げる形で聞いたことで、ブスオリは射止められてしまった。
(目が、合っている…か…かわいい…!!)
「いえ!私の事も、ブスオリ様などと呼ばずに、ブスオリと呼んでください!」
「…ですが」
「呼んでください!」
ブスオリは勢い余って、ノアの手を握ってしまった。
ノアは目を見開き、嫌な表情を必死で隠す。
「あ…すみません!」
ブスオリはノアに気づき、手を離して謝った。
「いえ…大丈夫です。少し驚いただけですし。」
(ツルカネオよりはマシだ…)
ノアは少しだけ安心感を覚えた。
「コホン…」
わざとらしく、ツルカネオが咳払いをする。
「2人が仲良くなれそうで良かった。では、2人とも森に行って大妖精を見つける課題をしてきてください。ヒューリス様は私とともに待ちましょう。」
「いやよ。森は危ないから、ランクAのノア1人に貴族の息子を守らせられない。あたしも行くわよ。」
(ヒューリス様…!)
ノアは、ヒューリスが来てくれることに安心した。だが、ツルカネオは良く思っていない。
(クソ…こいつがいては、ノア様は手に入らない!)
ツルカネオは拳を握るが、断る理由が浮かばない。
「ヒューリスさんがいてくれるなら、とても安心ですよ!ギルド長ですから、何かあっても確実に息子様を守ってくれますー!ブスオリ様も、安全の方がいいですよねー?」
ノアは棒読みで言った。絶対にブスオリと2人きりにならないように、必死だった。
「あ…ああ。心強いな…」
ブスオリは残念そうにしているが、ふと父であるツルカネオを伺う。
「ひ…!」
「どうしましたかー?」
「な、なんでもありません!では、行きましょう!」
「?…はい。」
ツルカネオの表情は、まるで鬼が宿ったかのような恐ろしいものだった。
「では、夕方6時には屋敷に着くようにしてください。ディナーを用意しておきますので、ぜひ食べていってください。」
「4人で!食べれるなんて、嬉しいわよねぇノア?」
「4人で…」
ノアは、人の数を数える。
(私、ヒューリス様……あ!)
「はい…」
ノアは少し嫌な気分になったが、ヒューリスもいるなら大丈夫だと考えるようにする。
「では、6時にまた…」
「お気をつけて!」
ノアとヒューリス、ブスオリの3人は、ツルカネオが用意した馬車で森まで行く。
「着きましたね…」
「はい!私、楽しみだったんです!森などには行けませんから!」
ノアは乗り物酔いしてしまった。
ソフィアと森を通った時より、道は舗装されているため、揺れは少ないはずだが、御者の運転がとても下手だ。
「大丈夫?」
「はい。何とか…」
(ソフィアさんが恋しい…)
ヒューリスはノアの不調に気づいて声をかけるが、ブスオリは森に来れた喜びではしゃいでいる。
「行きましょう!行きましょう!」
「はい…」
ブスオリは、ノアの不調に全く気づかない。どんどん進んでいってしまう。
(ツルカネオよりはできる男だと思ったが…)
見かねたヒューリスが、ブスオリを呼ぶ。
「ブスオリ!…さん、来なさい!」
「はい?」
「1人で勝手に進まない!あたしとノアと一緒に行動しないと、帰れなくなるわ!」
「す…すみません。」
「もういいわ。使用人とか、お母さんとかからは安全第一って、教えてもらってないの?」
ノアは少しずつ復活し、ヒューリスとブスオリに追いついた。
「大丈夫ですか?迷子…ではないですね。」
ノアは、ほっと肩を撫で下ろす。
と、ブスオリが叫んだ。
「ママはいない!安全第一なんて、しらない!お前も、僕のことを何も知らないバカだって言うんだろ!大妖精なんて見つけられないって!」
(地雷だったか…)
ヒューリスは頭を掻く。
「どうしたんですか?安全第一って、なんの話ですか?」
「…1人で先に進むのは危ないって言ったのよ。で、安全の大切さを教えてもらってないか聞いたら……」
ヒューリスは申し訳なく思っているようで、言葉を詰まらせた。
「…なるほど。」
(お母さんはいない…か。)
ブスオリは下を向いて、ヒューリスと顔を合わせないようにしている。
そんなブスオリの顔を、ノアは覗く。
「大丈夫です。」
「何がですか…私は、母を殺した…私のせいで母は死んだんです…!」
「殺した…って、どういうことですか?何か事故でもあったんですか?」
ブスオリは話したくないようで、黙ってしまった。
「ヒューリスさんは、何か知ってますか?ギルド長ですし、ツルカネオ様とは、お知り合いでしょうし。」
「……あー…ギルド長なんだけど…」
ヒューリスは、ノアと目を合わせようとしない。
(もしかして…アカリさんに丸投げ?)
「ヒューリスさんって…仕事してないんですか?」
「いやいやぁ…決して、視察と称してブランド店に行って、ギルドの経費で物をいっぱい買ってたりはしないわよ!」
(全部言ってるのでは?)
ノアは呆れてため息をつく。
「はぁ…つまり、何も知らないと言うことですよね?」
「……はい。」
「ブスオリ様からしか、事情は聞けません。ブスオリ様、教えてください。何か、力になれるかもしれませんし。」
ブスオリは、顔を上げる。
「力に…?」
「はい。私には、父も母もいません。育ての親も、死んでしまいましたから、あなたの気持ちはよくわかります…なので、力になりたいんです…!」
ブスオリは泣きそうになる。生まれてから使用人からは"母親殺し"として見られ、顔のせいか身分のせいか、友人はできず…いじめられる日々だったからだ。
ブスオリは、ノアと目が合う。
「うぅ…」
ブスオリは泣き出す。
ノアの目は、ブスオリが感じてきた視線とは全く違う、真っ直ぐで悪意のないものだったから。
「え、あ…あの…え…?」
急に泣き出したブスオリに、ノアは戸惑う。
「あたしのせいじゃ、ないわよね?」
「大丈夫だと思いますよ。むしろ、私の方かもしれません…」
ヒューリスはノアの言葉に安心する。
「話します。聞いてほしいです…!」
ノアは、ヒューリスと顔を見合わせ、嬉しそうにブスオリの方に向き直る。
「はい!」
ブスオリは、ノアとヒューリスに向き直り、話し出す。
「私が産まれた時、母は6歳でした。」
「……は?」
ノアとヒューリスは目を丸くした。
ノアたちの出発後、ツルカネオは自室に戻った。
「あぁ…ノア様!」
部屋の本棚の1冊を手に取る。パラパラとめくると、たくさんの幼女の写真が貼られている。
ツルカネオは、大の幼女好きだった。
「ブスオリの嫁なんてもったいない!私の妻…このコレクションに!」
ツルカネオは、ノアたちを迎えた執事ではない使用人を呼ぶ。
「今夜のディナー……ノア様の料理には、この薬を入れろ。」
ツルカネオは、白い粉を使用人に渡した。
使用人は、機械のように返事をする。
「かしこまりました。」




