34話 依頼と貴族
「王族と貴族の嗜み…?」
「まぁ…よくわからないよね〜?ノアが受けた依頼、嗜みと関係あるんだけどなぁ?」
「依頼…?」
(そんな依頼、受けたっけ?)
ノアは自身が受けた依頼を忘れている。
「―妖精鑑賞、大妖精を見つける子供の課題の世話―…」
「あ…そうでしたね。」
ヒューリスの言葉で、ノアは自分の依頼を認識した。
「貴族からの依頼を忘れるなんて、ありえないわよ〜?ま、今から受けてもらうからいいんだけどねぇ。」
「今…?今からなんですか?」
「そうよ?依頼してきた貴族の子供は、課題の提出期日を急かされてるらしいしね〜。」
ノアは嫌な気持ちを、顔に出さないようにして話す。
「依頼の期限が未記載でしたし、私自身も今日は都合が悪いんです…」
「あら…さっきのあなた達の会話から、ノアは暇っぽかったけど……違う?」
ノアは、外でティオと話していた内容を思い出す。
(聞いてた?どこで…?)
「あはは!なんで知ってるかですってぇ?」
「まだ何も言ってませんよ。」
「言ったかなんて、どうでもいいのよ!思ったでしょ?」
「まぁ…はい。思いましたよ。」
(まさか…オーラと同じように、心が読める?)
ヒューリスは客人用のソファに、ドカッと座る。そして、ノアに座るように合図した。
ノアは不安だったが、断る理由もないので座った。
「ノアが受けた依頼はね、子どものお守りだけじゃないのよ。」
「依頼内容に変更があったんですか?」
「いいえ。依頼を出した貴族は、王族とも仲がいいんですって……喉乾いたわね?アカリ〜」
ヒューリスが呼ぶと、アカリがすぐに部屋に入ってきた。
「あたしはワインね。ノアは何か飲む?」
「私はいらないです。」
「そ。じゃ、お願いね。」
「かしこまりました…」
アカリは、お辞儀をしてから部屋を出ていった。
「でね、貴族主催のパーティーをやるんですって。そこで、子どものお守り役の冒険者に恥をかかせるのが好きなのよ〜!趣味悪いわよねぇ?」
「まぁ…」
正直、ノアは趣味が良いか悪いかわからない。だが、肯定しなければ面倒だというのは、わかっていた。
「でね、あの貴族は大妖精なんて無茶なこと言ってくれてるじゃない?」
「そうですね…」
「でも、普通に無理。そこで、出来ないってことで恥をかいて来て。それか、意地でも貴族に見せてあげて欲しいな〜!」
(冒険者が恥をかいてもいいと……この人も楽しんでるのかな?)
「ギルド長さんは、冒険者に恥をかかせる方向がいいんですか?」
ノアが言うと、ヒューリスは「ノンノン♪」と指を左右に揺らす。
「誘導しにくい子ねぇ?恥かく方が嫌って思うでしょ?進んで大妖精探しに行くでしょ?」
(可愛いのに、こういうのは鋭いのねぇ…)
ノアは誘導されていることに、全く気づいていなかった。
「そうなんですね…覚えておきますね。」
「……はぁ」
ノアは冒険者初心者に近い。ヒューリスからしたら、経験が浅いノアはからかいがいが無い。
「まぁいいわ。とりあえず、依頼者の貴族のとこ行くよー。そこの男も?」
「え…?」
ヒューリスが指さした方を見ると、ティオがブツブツと何か言っていた。
「なんで僕以外の人間と平気で話せるのか?一時は魔法書に話しかけていたもんな。もしかして、人間を魔法書と思うようになったのか…?もしくは〜」
ティオはずっと、こんな感じでノアの成長やノアの魔法の進化などなど……ノアの事を考えることで、ヒューリスに対する怒りを沈めていた。
ただ、ノアが人を魔法書と認識しているのは事実だが、人見知りは治っていない。
「て…ティオ〜?」
「はっ…!」
ティオは勢いよく振り向いた。
「どうした!何かされたのか?」
「いえ…もう話も終わったので、依頼をしに行きますよ?」
「あぁ…良かった。じゃぁ、行こうか!」
ティオは、ヒューリスと目を合わせないように部屋を出た。
ティオの後ろで、ノアとヒューリスは話す。
「あの…なんだかティオ、苦手な相手と接するように、ヒューリスさんと接してますよ?」
「なんでかなぁ…あたしは別に何もしてないし?なんなら、初めましてだしぃ?」
ヒューリスは、考えるポーズをしながら言った。
「そうなんですか?なら、ティオは緊張してるんですね。なんて言ったって、王族や貴族ですよ?ティオは私と同じ田舎者で、偉い人なんて会ったことないんです。」
ヒューリスは「へぇ〜」と興味無さそうに言った。
「てか、ティオ?は貴族のいる場所、わかってるの?」
「全然知らないと思いますよ。」
「おーい!ティオー!どこ行くのよ!」
ティオは止まらない。というか、振り向けない。ヒューリスの顔を見たら、怒りでどうにかなりそうだからだ。
「僕はちょっと宿に戻るよー…あはは…!」
ティオは大声で言うと、猛スピードの早歩きでギルドを出た。
「あたしらだけで行こう?」
「そうですね…」
「あ!もし良ければさ、子どもに魔法でも教えてあげれば?きっと面白いよ!」
「貴族の子どもは、魔法に興味ありますか?」
「さあ?知らな〜い!」
そんな話をしながら、ヒューリスが用意していた馬車に乗る。
「馬車ってことは、遠いんですか?」
「もちろん!王族や貴族は、国民と同じ地区に住むことは少ないの。より王城に近い場所に住むのよ。知らない?」
「はい。セラシアは王城が無かったので。」
「ああ…あそこはデカイ教会が城だったわね…」
馬車に乗って1時間。ようやく依頼者貴族の屋敷に着いた。
「あの…とても緊張します。話が通じるでしょうか?私の服は、これでいいんでしょうか?」
「ノアの服は、ティオの物よりは良いわ。品がある感じぃ。」
────ガチャ…キィー
屋敷の門がゆっくりと開いた。顔を出したのは、the執事な感じのイケおじだった。
「よく、お越しくださいました。ヒューリス様に冒険者様。どうぞ中へ。」
「ええ。」
丁寧な対応をしてもらいながら、ヒューリスはズカズカと屋敷に入っていく。
「ほら…ノアも早くしなさい。」
「あ…はい!失礼します。」
(きっと、ヒューリスは知り合いなんだ…だから、多少の無礼を黙認されるんだ…!大丈夫だよね?)
ノアは、ヒューリスの態度が自分に飛び火したらどうしようか、考えている。
「お連れしました。」
「通してくれてかまわない。」
イケおじが扉を開ける。部屋にいたのは、派手な装飾品に身を包み、パツパツな上着を羽織ったデブな貴族だった。
貴族はノアをじっと見つめて、話し出す。
「初めまして。私は"ツルカネオ・ワガコ"だ。爵位は伯爵で、国の財務管理に携わっている。」
「会えて光栄よ。私はヒューリス・ハリメニ。こっちの子がノア・フェレア。今回の依頼を受けてくれる、ランクAの冒険者よ。」
ツルカネオは「ほぉ〜?」と言いながら、ノアをジロジロと見る。
「どうかしましたか?」
「いやぁ…嬉しいではないか!こんな可憐な少女が、息子と婚約してくれるとは!」
「…え?」
ノアは理解が追いつかない。
ヒューリスは強い寒気がした。
(何?まるで、初めてギルマス(レイ)を怒らせた時のような殺気…!)
ヒューリスは怒鳴る。「止めなければいけない」と、口が動いた。
「な…何言ってんのよ!あんたの依頼は、お守りでしょ!婚約なんて絶対させない!」
「なぁに、私の自慢の息子は、きっとノアさんの心を射止めてくれますとも!……しかし、いいのですかな?そんな言葉遣いで?」
ヒューリスはバツが悪そうに黙る。
「ギルドに多額の投資をしているのは、私であることをお忘れになったのですかな?」
「それは…!」
ヒューリスは何も言えない。だが、ノアは疑問に思う。
「あの…貴族様からの投資で、ギルドは成り立っているんですか?」
「ええ、そうですとも!ノアさんがうちの息子と婚約していただけるのなら、もっと増やしますぞ?」
ノアはヒューリスを見る。
ヒューリスは悔しそうな表情をしている。
「とりあえず、ご子息のお守りの依頼を受けさせていただきますね。依頼の中で、ご子息がアピールする形で…」
「それでいいとも!きっと、惚れ惚れしてしまうよ!絶対に我が家の家族になろうね…!」
ツルカネオは、ノアの手をぎゅっと握りしめる。
ノアは振り払いたい衝動を抑えて、苦笑いした。
「あは…あはは…」
人の想いに気づきづらいノアでも、ここまで明らかだとわかる。
そして、ノアの脳はツルカネオを…
(手を握るなぁぁぁぁぁ!)
危険視していた…!




