28話 ティオと転移と妖精と
飛行船に乗って4日。
上空を飛んでいた4日間は、色々あったがなんとか勇者国"ユアリーベ"に到着した。
「よしっ!俺らは宿を探してくるが、一緒に行くか?」
「いえ。私は、ギルドに行こうと思ってます。初めに行くように言われたので。」
ノアが受け取った手紙に同封されている紹介状には、レイのメッセージが書かれていた。
―ギルドに行って、見せるんだよ。
色々と良いことあるからね。―
ノアは、そのメッセージの指示に従うことにした。
「そうか。俺らも後でギルド行くから、後でな!」
「はい。後で。」
レイジーたちと別れたノアは、首都"ユロベア"に向かう。
「紹介状を見せて、宿を探して、妖精の森に行って…先に依頼受けた方がいいのかな?」
「……ノア?」
(…ん?呼ばれたような?気のせいかな。)
ノアは歩き続ける。
「ノア…だよね?……ノア!」
(やっぱり呼ばれてるよね…)
ノアは声のする方を見る。少し遠いところに、見覚えのある人物がいた。
剣を背負って、半袖短パン。わんぱくそうな少年だ。
「てぃ…ティオ?」
「ノアー!」
ティオは、ノアの2歳からの幼馴染。"剣術を極めている方向音痴の少年"というのが、ノアの中での印象。
ノアの家族が死んだ4年前に、離れてしまったがノアの中では、何も告げられずに別れたことを、少しだけ悔やんでいた。
「ティオ…元気にしてましたか?」
「もちろんだよ!俺の身体が丈夫なのは、知ってるだろ?」
「はい。でも…あなたは風邪をひいても、気づかないじゃないですか。」
「そうだったか?てか、そんなことより、どこ行ってたんだよ?俺、ずっと探してたんだよ?」
「すみません…」
「謝んなって〜!歩きながら、色々聞こうかなぁ?」
ティオは笑顔だが、低い声で言ってきた。
(声、こんなに低かったっけ?)
「うん…」
2人は歩き出す。
「ある日、俺がノアの家に行ったら棒が立ってて、クララとロアンの名前が書いてあったんだよ。ノアはいないし。」
(ルカ、お墓を作ってくれてたんだ…)
ノアはティオの後を追う。
「えっと…2人は、魔王の手下に殺されたんです。それで、戦い疲れて気絶した私を恩師が、拾ってくれたんです…」
「…本当に2人はいなくなっちゃったんだね。」
ティオは悲しそうにする。
「お墓みたいなの見て、わかってはいたんだけどね……実際のことがわからないから、ちょっと期待してたんだ。」
ティオは1人で山小屋に住んでいた。冒険者として稼いでいたが、クララとロアンに懐いていた。
ノアとは、幼馴染であり兄弟みたいな仲でもある。
「連絡できなくて、すみません。こっちも色々…」
ノアは「忙しかった」と言おうとしたが、していたのは自分の興味あることだけだったことに気づく。
「1回でも家に帰れば良かったです…」
「大丈夫。俺は、あの後すぐに山小屋を出て、冒険者兼旅人として、世界を周ってんだ〜!」
「そうなんですか。じゃ、ユアリーベにも依頼などで?」
「そうそう。えっと…」
ティオはポケットから、1枚の紙を出してノアに差し出す。
「―至急!妖精の森の誘拐犯を捕まえてください!―
……依頼ですね。依頼主は、書かれていないですが。」
「依頼主は、匿名でもいいしな。報酬が支払われれば、なんでもいいと思うけど…」
「でも、支払う報酬も書かれてませんよ。」
ティオは紙を見る。
「本当だ!気づかなかった!ギルドで聞かないとな…」
「えー…」
(方向音痴だけじゃなくて、お馬鹿まで加わるとは…)
ノアとティオはギルドに着く。
「こんにちは。ようこそ、冒険者ギルドへ!ご要件はなんでしょうか?」
ギルドで迎えてくれたのは、小さな女の子だった。ノアより年下なくらいだ。
「えっと…この紹介状を見せるように言われまして…」
「紹介状…あ!ちょっと待っててくださいね!」
女の子は奥の部屋に消えていった。
「紹介状って、なんだ?」
「手紙に同封されてたんです。見せるようにって…」
「お待たせしました!お2人?とも、ギルド長代理がお呼びです。」
「はい。」
女の子に案内されるまま、ギルド長室に案内された。
「アカリ様、お連れしました!」
「どうぞ。…あれ?ノアさんと……誰だろ?」
「あれ…違いましたか?間違えてしまいました…」
女の子がしょんぼりする。
「ううん。大丈夫だよ。きっとお友達だろう。あの人は忘れることが多いから。ありがとね、アカネ。」
「大丈夫……わかりました!では、失礼します!」
女の子はギルド長室を出ていった。
「ようこそ。私はギルド長代理の"アカリ・オオシバ"です。今はギルド長が留守だから、代わりに対応しますね。……ノアさんは紹介状に書かれているんですが、そちらの方は?」
アカリはティオを見て問う。
「すみません…彼は、ティオ・ハルシュ。私の幼馴染で、冒険者です。久しぶりに会って、そのまま一緒に来てしまいました…お邪魔なら、退室させます。」
「え…ちょっとノア〜!」
ティオは悲しそうにノアを見る。ノアは気付かないふりをして、アカリに提案した。
「うーん…その…お2人がパーティを組むなら、別に構わないんですが…」
「組みません。」 「組むぜ!」
2人は息ぴったりで言った。
2人は睨み合っている。
「ノア…なんで組まない?お前、パーティなんて組んでないだろう!」
「1人で十分なんです!私は静かに目的を遂行します!」
「お前は1人じゃ寂しくて、泣いちまうだろ!」
「もう、そんな年じゃないです!」
アカリは「あらら…」と呟く。
「賑やかな方が楽しいし!」
「1人の方が楽です!」
「前衛の俺がいれば、なおよしだろ!」
「前衛がいなくても、私は大丈夫です!」
2人が睨み合っていると、アカリが声をかける。
「ストップ!ストーップ!2人とも、落ち着いて。今回はティオさんもいていいですから。ね?」
「わかりました…」
「わかってくれてよかったです。では早速ですが、こちらを見てください。」
アカリは冊子を手渡す。
「これは、貴族たちからの依頼です。ちょっと無茶な物がほとんどですが、これらはランクA以上の物なので、受けていただけるとありがたいです。」
ノアは冊子を眺める。
「これらの依頼は全て魔法で行うものばかりですね…」
「はい。ランクAで行うには結構ハードです…」
「ハードとは?」
「あぁ…私の故郷の言葉で、難しいって意味です。私は、こことは違う世界から転移してきたので…」
「なるほど…」
ノアは冊子から、1つの依頼を決めた。
「これにします。」
「―妖精鑑賞、大妖精を見つける子供の課題の世話―
雑用…になりますね。本当にこれでいいんですか?」
「…おいおい。なんで普通に話してんだ?」
「何がです?」
アカリはティオに聞く。
「いや…えっと……ノアを借りますね。」
「え、ちょ、ティオ…!」
「ノア…アカリは、転移してきたんだぞ?わかってる?」
ティオはアカリに背を向け、ヒソヒソとノアに聞いた。
ノアは考える。
(転移……一般的には、地点Aから地点Bに瞬間移動するなどのこと……この世の中では、まだそんなことはできないから、彼女は……嘘でしょ…!)
「彼女は、空間を移動できるということですね!どうやったんだろ…次元も越えられたりするのかな?やったとしたら、彼女の世界はすごい発展してるし…」
「ちょちょ!そうじゃないでしょ?あ…えっと…」
ティオはテンパっている。
「そこに気づいてほしかったのはあるんだけど…まぁいいや。」
ティオはアカリの方に向き直る。
「すまない。なんでもない…」
「そうですか…では、この依頼でいいでしょうか?」
「はい。」
「何かご質問は?」
「あの!あなたの故郷というのは、どのような魔法が発展して…いたっ!」
ティオがノアを叩いた。
「すまん。こいつは、魔法バカなんだ…」
「いえいえ、大丈夫ですよ。聞きたいことがあるんですよね?」
「はい…転移ということは、こちらに来たんですよね?」
「はい。ただし、望んで来たわけではないですよ。」
「…え?」
ノアは困惑した。
(では、どうやってこの世界に来たんだ?)
ノアが首を傾げると、アカリは丁寧に説明を始める。
「きっとノアさんは、私が自分で魔法や魔術を使って、この世界に来たと思ってるんですよね?…でも、私たちもわからないんです。気づいたら、ここにいた。……みたいな感じです。一瞬でしたね。」
「……つまり、よくわからないと?」
「はい。お役に立てず、申し訳ありません。」
アカリは、反射的に頭を下げて謝ってしまった。
今まで似た質問をされ、その度に「わからない」と言い続けている。
だが、毎度相手には残念そうな顔をされてしまう。それが、アカリの中では申し訳なくて仕方がないのだ。
(ノアも残念がるだろうな…)
「なんで、謝るんですか?」
「え…だって、転移の方法が知りたいんですよね?転移を使えれば、便利だからとかの理由で。」
「便利…と言われれば、便利かもですね。違う世界に行けるんですもんね…うーん……」
ノアは、顎に手を当てて考えながら、アカリに問う。
「アカリさんは、帰りたいとかあるんですか?」
「え…えっと、帰れるなら。とは思いますが……」
「故郷は、いい所ですか?」
「はい…」
「何が好きですか?故郷の。」
「ご飯とかですかね…」
「魔法はあるんですか?」
「いえ…魔法とかの現象はないですね…」
ノアは少し残念そうにした。それに気づいたアカリは、フォローをする。
「あ、でも!車とか電車とかありますよ…!私の故郷は、現象よりも物理的なものが多いです!…えっと、説明が難しいですね。」
「車…?なんですか?」
「ここでいう、馬車ですね。馬で動くのではなく、燃料を元に車自身が動きます。」
「燃料…?」
「魔力みたいなものです!」
(なんで私、ノアにこんなに必死に説明してるんだろ?)
アカリは、少し必死な自分が恥ずかしく感じ、顔を赤らめて俯く。
「車…見てみたい…」
「おい、ノア!まさか、転移を研究するとか言わねぇよな?」
「言いますよ!私は転移に興味があります。転移するということは、新たな世界の知識を得られます!もっとすごい魔法があるかも…!」
ノアは、異世界に思いを馳せる。
「はぁ…たしか昔、空を浮遊する魔法も考えてたか…」
「あれは、上空に留まることはできても、動けないんです…」
「できるようにはなったのか!良かったな!」
「はい…でも、動けるようになりたいです…」
ノアはムスッとしている。
「そんなことより…」
ノアはアカリの顔をあげる。アカリの目をしっかり見る。
「アカリさん!私の研究に協力してください!転移をしたということは、あなたの身体に何か秘密があるのかもしれないです!それか、世界の狭間?があるなら、それに吸い寄せられたのが、アカリさん!……とか。」
ノアは目を輝かせて、アカリにお願いする。
「あなたの力を貸してください!私も、あなたの故郷を見てみたいですし!」
アカリは驚く。
(なんて、真っ直ぐな瞳…)
今まで、何人の研究者が転移について聞きに来たか。どの研究者も、転移ができないと知って失望の顔をした。
だが、ノアは違った。
(むしろ…)
「未知であることが喜び…?」
「……そうかもしれないですね。でも、転移できて損はないです!」
ノアの真っ直ぐな瞳と気持ちに、応えたいとアカリは思った。
アカリは、自分の頬に添えてあるノアの手を握る。
「はい。協力しましょう…!私にできることがあれば、言ってください。」
アカリは優しく微笑んで言った。
「はい!頑張りましょう!」
ノアとアカリが打ち解けて、ほわほわしている中、ティオが咳払いをする。
「ゴホンゴホン……お2人さんよぉ、俺いるよ?」
「だからなんですか?混ざりたいんですか?」
ノアは挑発する。
「違う。研究よりも先に、やることがあるだろう!」
「……やること?」
「首を傾げるな!依頼を受けろ!俺の依頼と一緒にできるから、2つの依頼を同時にやろうぜ。」
「えー…なんでティオも一緒なんですか?1人でやってください。」
「あの森は、今危険なんですよ。」
アカリが割って入る。
「危険…というと?」
「言葉通りです。今、妖精たちを捕まえて売る商売が盛んなんですが、妖精を捕まえる者を警戒する妖精たちが、荒れているんです。」
ノアは、飛行船で出会ったレイジーたちを思い出した。
「あー…らしいですね。観光にも利用されてるとか…」
「はい。なので、妖精たちが荒れてしまっては、商売あがったりです!どうにかしたいとは思っているんですが…」
アカリは、本当に困っているようだった。
「はぁ…ティオ。」
「なんだ?」
「今回だけは、私の力を貸してあげます。感謝してくださいね。」
「は?お前が子供の世話なんか出来そうもないから、わざわざ名乗り出てやったのはこっちの方な!」
ノアは「ふふふ…」と不穏な笑顔を見せる。
「…な、なんだよ?」
「そんな口の利き方でいいんですか?こっちは、ある程度の情報があるんですよぉ?」
「情報?」
「はい!妖精たちを捕まえる悪い奴らを、一網打尽にできるような情報です!」
「…どんな情報だよ?」
「おっと…聞きたいなら、まずは?」
ティオは、嫌な顔をする。少し躊躇いながらも、両膝をついて頭を下げる。
「ノア様、教えてください!!」
「よろしい!では、まずは私の作戦から教えましょう♪」
「作戦…?」
「そうです!何事も計画が大事なんですから!」
それから、ノアはティオに作戦を伝えると、アカリに礼を言ってギルドを出た。
「いいですね?ティオはただ、新しい仲間ということにしておけばいいんですよ?」
「わかってる!何も喋らない。ただの仲間…」
「そう!そろそろ来るはずですから。」
すると、声がする。
「ノア!宿探し大変だったぜ…」
「お疲れ様です。」
「おお!……誰だそいつ?」
「彼はティオ。私たちの仲間ですよ!」
「剣…仲間…前衛か?」
「はい!」
「おっ。それは頼もしいな!話したのか?」
「詳しいことはまだです〜。」 (大嘘
「なら、これからしっかりと教えてやろうな!着いてこい!」
レイジーはノアとティオを路地裏に案内する。
ノアは内心、ニヤついていた。
(計画通り…!)
計画その1:レイジーの仲間の所に案内してもらう
(レイジーは、他にも仲間が複数いると言っていた。なら、全員を捕まえればいい!)
しばらく路地裏を歩くと、廃墟に来た。
「ようこそ。俺らのアジトへ!」
ノアとティオが入ると、多くの冒険者と思われる者がいた。
「こ、こんにちは…私はノアですぅ…」
ノアは、あまりの人数で緊張して、目が泳いでいる。
「ほら!お前もだ!」
レイジーが、ティオに言う。
「ティオです…よ、よろしくっす…」
紹介を終わらせると、冒険者たちの中でザワつく。
1人が手を上げた。リーダーのような感じだ。
「2人は、もしかして…」
ノアとティオの中で、緊張が走る。
(早速バレた…?)
「付き合ってんのぉ?」
「い、いえ!決してそんなことをしてるわけじゃ……え?今なんて?」
「だから、2人は付き合ってんの?」
「いえ。付き合ってないすね。こいつは無理っすね。」
(は?「無理っすね。」じゃねぇだろ!お前の方が無理だわ!)
ノアはティオの言葉に少しムカついた。
「ただの仲間です〜…」
「そう。なら、ま、作戦会議、始めるか!」
冒険者たち「おう!」
(計画通り…!)
計画その2:相手の計画を聞き出す
「まず!俺ら前衛が巣に向かって走っていく。そしたら、残ってるやつらは網使って、捕まえろ。いいな?今晩な!」
冒険者たち「おう!」
ノアとティオは廃墟を出ると、深呼吸をする。2人は緊張でしっかりと呼吸が出来ていなかった。
「ティオ…大丈夫ですか?はぁはぁ…」
「お前こそ…はぁ…大丈夫か?はぁ…」
「お前ら、大丈夫か?」
レイジーが、声をかける。
「「大丈夫です!」」
「お…おう…じゃ、また夜な…」
ノアとティオの勢いに負けたレイジーは、静かに帰っていった。
「私たちも、帰りましょう。宿を探します。また夜に…」
「ちょっと待って!報告は?」
2人はヒソヒソ話す。
「ティオが手紙とかメモとかでやってくださいよ!バレないように。」
「なんで俺だけ?」
「こういう、スパイみたいなこともしたいって、言ってたじゃないですか?」
「そうだが…」
「じゃ、頼みますよ!」
ティオは、とぼとぼとギルドに向かった。
依頼をメモするフリをして、報告を書いて受付の女の子に渡す。
ノアは宿を見つけて、荷物を整理する。
「あとは、現行犯として捕まえるだけ…」 ボソッ
「おい…」
声がして振り返ると、レイジーがいた。
「ど、どうしてここに?私の部屋ですよね…?」
ノアが驚いて聞く。
「どうして?俺は、お前の行動を見てただけだ。……で?今、なんて言った?」
レイジーは、ノアに疑いの目を向ける。
「……何も言ってないです。」
────ガンッ
レイジーが机を蹴った。
「嘘つくなよ。何かは確実に言っただろ?」
ノアは必死に考える。
(バレた…どうしよう…あ、でも計画はわかってないっぽいし、バレてはいない。なら、言い訳でもすればいい。言い訳というよりは捏造だけど、どうにかなるでしょ…)
「あとは現行犯として、ティオを捕まえるだけ。と言いました。」
「ティオ…?あいつがどうした?」
「先程、すぐにギルドに入っていきました。スパイの可能性があります。私が連れてきたのに、すみません…!」
ノアは迫真の演技をする。
「なるほど…よくやった。では、夜にティオは現行犯だな。伝えとくよ。」
「…はい。」
レイジーは消えていく。
(ヤバい…ヤバいヤバいヤバい!ティオが危ない!というか、バレてなかっただけ良しとするべき?あぁ!)
ノアはベッドに倒れ込む。
計画その3:現行犯で、一網打尽
(計画が上手く行けば、完全に鎮圧可能……でも、ちょっと間違えたらティオが死んでしまう…)
「ま、たまにはいいでしょ。」
夜になり、ノアとティオは囲まれていた…!
「ちょ、ちょっと待ってください!私は無関係で…」
「おいおい!なんで俺まで!」
「「え…?」」




