29話 私たちは、互いに敵に売っていたなんて!
夜になり、ノアとティオはレイジーに案内されて、妖精のいる森に向かっていた。
「あの、レイジーさん…仲間の方々はどこでしょうか?」
「ああ…あいつらは、森の中で合流する手筈になってる。安心しろよ。」
「なら…いいんです……」
(なんか怖い…)
レイジーは悪い笑顔を作って言った。
だが、ティオはそんなことに気づかないで続ける。
「森に妖精以外の生物は、どの程度いるんだ?」
「妖精が守護している森だからな。高くてもランクB程度の魔物が、チョロチョロいるくらいだな。」
「そうなのか!なら、僕が斬って、斬って、斬りまくってやる!」
ティオは張り切る。
「あそこが、妖精のいる森だ。冒険者たちは"ピクシーサークル"と呼んでる。」
「へぇ〜」
ティオは興味が無さそうに返事をした。
「どうして、そのような呼び方なんですか?」
「よく聞いてくれた!」
ちょうど森の中に入る。
レイジーは、ろうそくに火をつけながら、自慢げに語り出す。
「妖精は、魔法を使う。だが、1人では大きな魔法は使えない…そこでっ!妖精は敵を囲むように円になって魔法を放つようになった。」
「なるほど!円になって放てば、少ない魔力で大きな効果が得られるんですね!」
「……そういうことだ。」
森の中は暗く、レイジーが持つろうそくは、レイジーの手元しか見えない。
(こんなに暗いのに、どこに仲間がいるんだろ…?)
ノアは疑問に思いながら、レイジーの後を追う。
「ちょっと仲間を探してくる。…この辺りにいると思うんだがなー…」
そう言いながら、レイジーは森の奥へと進んでいった。
残されたノアは杖を振る。光属性の"ライト"で、辺りが見えるようになる。
「ティオ。待っていましょう。」
ティオは落ち着いていられないように、ソワソワしている。
「無理だな!ランクB程度とはいえ、魔物を斬りたいに決まっているだろう!」
「昔から変わりませんね…でも、魔物より大事なことがあるでしょう?」
「ああ!依頼はしっかりこなさないとな!昼間に聞いたら、報酬はシークレットらしい。」
「シークレット?そんなことありますか?」
「結構当たり前にあるぞ?」
「今まで見たことないですね…」
「そうか…でも、報酬内容気になるだろ?」
「それは…そうですけど…」
ノアはふと、疑問に思う。
「ティオ…質問いいですか?」
「なんだ?」
「その依頼は、どこで知ったんですか?他の冒険者たちも行うようなものなんですか?」
「いや……ここのギルド長から直々に依頼をされたんだ。2日前に。」
「2日前……ギルド長から直々にって…ティオは、ランクいくつなんですか?」
「え…言ってなかったか?僕はランクBBだ!すごいだろう!この依頼が達成されたら、ランクAにするって約束なんだよ。」
(シークレットの報酬とは別で、ランクアップできる依頼……いやいや、話がうますぎるでしょ…)
ノアは呆れて、ため息をつく。
「なんだ?なぜため息をつくんだ?」
「いいですか?依頼報酬とは別でランクアップできるなんて、話がうますぎるんですよ?」
「いいじゃないか!」
「よくないです!つまりは、危険が伴う可能性が高いということですよ?わかってますか!」
「うーん…だが、ランクBBになったばかりの僕からしたら、多少危険でもやりたいし…」
ティオは、ノアが心配していることに気づいて、少し申し訳なさそうに言った。
「はぁ…とりあえず、私と2人ならできるということにしましょう。今回だけですよ?」
「ああ!ランクAに上がれば、なんでもいい!」
「どうしてランクを上げたいんですか?」
「えっと…特別依頼で魔王を討伐したいから……だっけ?」
「こっちに聞かないでください。まぁいいです。あとで話しましょう。」
「今話せばいいじゃねーか。」
「レイジーさん、なかなか戻ってこないじゃないですか。おかしいですよ…」
「確かに。」
ノアが辺りを見回すと、奥から人が来る。
「レイジーさん…?」
「おお、待たせたな…」
ノアは、ホッと肩をなでおろす。
「仲間の方々は…?」
「いるぞ!ほら、みんな〜!」
レイジーの合図で、機械で灯りがつく。
「おい!どういうことだ!」
ティオが怒鳴ると、レイジーたちがクスクス笑う。
(灯りがついた……あの機械はなんだろ?)
ノアが機械に驚くと、レイジーが話し出す。
「驚いたか?俺たちはお前らの計画を知っている!大人しく、妖精をおびき寄せるエサにでもなってくれよ!」
(ん…?なんか、おかしい…私まで?)
ノアは、ティオと一緒にされている理由がわからない。
「妖精は敵を見つけると、自分たちを守ろうとする。隠れている妖精たちを、お前らが刺激すればいい。やらないなら……わかってるな?」
レイジーは持っている剣を、ノアとティオに向ける。
「ちょ、ちょっと待ってください!私は無関係で…」
「おいおい!なんで僕まで!」
ノアとティオは互いの顔を見る。
「「え…?」」
少しの間、静寂に包まれる。ノアとティオは互いに聞く。
「ノアが裏切り者だろ?」
「いや…ティオが裏切り者ってことですよね?」
「いやいやいや!レイジーにはノアが裏切り者って言ったんだよ?」
「私だって……あ!」
ノアとティオは、互いに敵に売りあったことに気づく。
「おいおい…思考回路同じすぎだろ。」
「私、ティオみたいなおバカさんと同類なのは嫌です…」
「はぁ?嫌とか言っても、同類なことに変わりはねぇだろ!」
「私は、少なくともティオよりはマシです!」
「なんだと…!」
ノアはティオと怒鳴り合う。
「おい!お前ら…俺らを無視すんな!殺れ!お前ら!」
ノアとティオを見ていたレイジーは、2人の怒鳴り合いを遮る。
「「うるさい!私たち (俺たち)で話してるでしょ!」」
前から斬りかかってくる敵に、ティオは猪突猛進していく。
だが、避けられないほど多くの斬撃が襲いかかる。
「クソ…」 ボソッ
ノアは杖を振る。
ノアの魔法で、ティオの足元の地面が上がる。
ティオは地面が上がる勢いで高く飛び、敵に斬りかかる。
敵たち「「うわっ…!」」
ティオは一振で、向かってきた敵を一掃した。
「……相変わらずですね。その剣は止めたら?と言ってましたよね?そんなヒビが入ってる剣…」
ティオが昔から使っている剣は、森で拾ったボロボロの剣。ヒビも入っているため、なぜ斬れるのか、ノアはいつも不思議に思っている。
「いや、このくらいボロボロの方が、修行になるはずだ!」
「そーですか。なら、お好きにどーぞ。」
2人が話している間に、敵が次々に向かってくる。
「あんな子供2人に、何てこずってんだよ!」
レイジーの怒鳴る声で、敵たちの筋力が上がる。
斬撃を受け止めたティオは驚く。
「うおっ!なんだ?さっきのやつらよりは、強いぞ!」
「集中した方がいいですよ?」
ノアは向かってくる敵に、水蒸気爆発や雷撃などを食らわせる。
「でも、ノアは気になるだろう?レイジーが怒鳴ったら、強くなる…できるのは、魔法使いくらいだよ?」
「気になりますが!……なんで私が敵のほとんどを相手しなきゃならないんですか!」
ティオは剣士。複数人を相手することは難しい。
「もういいです!私、眠いんです!」
「そうか!なら…」
ティオは敵を倒して、ノアの近くに向かう。
「では、やりますよ…」
「おう!全員の足止めをしろよ!」
(泥沼化か…こっちが動かないと意味がねぇよ!)
レイジーは、次に動き出す仲間の動きを止めさせる。
ノアは杖をレイジーたち敵に向けて、一回転する。
────パキパキパキ…
レイジーは足元を見る。
「っ!」
(氷…!こいつら、動かないことを前提に…!)
「よそ見…してんなよ?」
ティオの声が近くに聞こえて、レイジーは顔を上げる。
「────!…────────!」
ティオはレイジーの髪を掴む。
レイジーは声を出そうとするが、声が出ない。
「ティオ…まさか、殺し…て?」
ティオの背後からノアの声がした。ティオは振り向いて言う。
「あぁ……怒鳴ったら強化される理由、知りたかったんだよな。ごめんな…」
「そんなことを言いたいんじゃありません…!なぜ、殺す必要があったんですか…」
「なんでだろう…俺…あ、僕何も考えてなかった…」
ティオはレイジーの頭を見ながら言った。
レイジーは、口をパクパクしている。
ちょうど、アカリが到着する。
「遅れてすみません!予定の地点より離れていたので…え…?」
アカリは驚いている。
「すまんな…ちょっと不可抗力でだな。」
「いえ…彼の間違いです。不可抗力とかではなく、彼が自身でやったんです。」
「は…」
アカリは困っている。
(やりすぎてはいるけど、おかげで、この件は片付いたわけだし…)
「……代理の私では判断しかねます。ギルド長にお話しないとです。」
「そうですか…では、私は失礼します。」
「あ…おい!ノア!」
「ノアさん!」
森の奥に進んでいくノアを、ティオとアカリは止める。
「アカリ…あっちは、妖精が本格的に絡んでくる領域だよな?」
「はい…まぁ、ノアさんはランクAなので、大丈夫だと思いますけど…」
「ランク…A?」
ノアは森の奥へ進んでいく。
「魔物は殺しても、人間は殺さない約束なのに…」
ノアは裏切られた気持ちでいっぱいだった。
ティオに出会った頃、ノアはティオと約束した。
『俺は人を殺さない。魔物だけを狩る。約束する。』
ティオはそう言って、ノアと指切りをした。
「そもそも…私たちの依頼は捕まえること。それを殺すなんて…」
ノアはブツブツ言いながら進む。
そんなノアを見る者がいた。
(なんか…視線を感じる?)
ノアは杖を構える。
「あの…誰です?私を見てる人は……出てきてくれたら、森を燃やさずに住むんですけど。」
ノアは火を放とうと、杖を振る。
が、ノアは背後から気配を感じて振り返る。
「燃やさないでもらえるかしら?」
「…羽…薄い足元…ちょっと光ってる。妖精なんですね?」
「ええ。とりあえず、案内してあげるわ。強い客人は迎える決まりなのよ。」
ノアは妖精の後を追う。
妖精は、木でできた洞窟の中に入っていく。奥まで進むと、木で作られたドーム状の空間が拡がっている。
そこには小さな街がある。小人用の小さい家が多く建っている。
「すごい…」
「でしょう?ここに来れる者は限られてるわ。とりあえず、こっちよ。」
「あ…はい。」
妖精は城のような建物の前に来た。
「あの…私、入れないです……」
ノアがサイズ感を懸念する。
「大丈夫よ。サイズとか、気にしなくて。」
「え…でも、どうやっ…」
────ピカッ
目の前が光ったと思ったら、ノアは城の中にいるらしかった。
「城…」
窓から外を見ると、先程までいた場所が見える。
「小さくなった…?」
「そうよ。ほら。こっちへ来なさい。」
案内してくれた妖精が声をかけた。
ノアは妖精の方を見ると、妖精は玉座に座っていた。
「もしかして…!」
(妖精だと思ってたのは…大妖精?)
「そうよ。私が大妖精"オーラ・フェアリー"よ。この妖精の国の王にして、この森全体を管理する。」
「は、初めまして!…わ、私はノア・フェレアです。冒険者です。」
「ん?フェレア…?違う気がしていたが、気のせいかしら?」 ボソッ
「なんでしょうか?」
「なんでもないわよ。」
オーラは立ち上がって、ノアに向かってくる。
「我々を売り物にする者たちを、退治してくれたようね。見ていたわ。あなたの友人にも報酬を与えるけど、あなたは何が欲しいの?」
「依頼は、あなたが出していたんですね…」
「ええ。私たちじゃ、どうにもならないから、仕方ないのよ。」
「なるほど…では…」
ノアは報酬を考える。
(報酬…何がいいんだろう?「研究に参加して欲しい」っていうのはダメかな?)
「それはダメよ!」
「す、すみません!」
(ど、どうしよう…怒っちゃった!)
「怒ってないわ。無理なものを無理と言っただけ。」
「あ…そうですね。」
(……ん?なんで口に出してもないことを、わかるんだろ?)
ノアは首を傾げる。
「それは、大妖精は人の心を読めるからよ。」
「なるほど……え?」
ノアは驚く。心を読めるなんて、予測していなかったからだ。
「だから、「大妖精は人の心を読める」の。あなたの考えることはわかるわよ。」
「それは…興味深いですね!」
「はぁ…私からも質問よ。なぜ、あなたは妖精の血が混じってるのかしら?」
「妖精の血…?」
ノアは理解ができない。
「きっと、大昔に人間と交わった妖精の末裔ね。多分…あなたの親の代からの覚醒よ。あなたの親はどんな姿だった?」
「……ちょっと待ってください。よくわかりません…」
「あなたは妖精の血が混じった人間で、親の姿がどんなのか、わかればいいなと思っただけよ。」
ノアは自分の親を知らない。どう返せばいいか、どんなリアクションを取ればいいのか、悩んでいる。
「はぁ…親がいないなら、そう言いなさいよ。ま、朝になればわかるかしら。今日は泊まっていきなさい。」
「え…でも…」
「これは、私からのありがたいお誘いよ。断るなんてこと、しないわよね?」
「は…はい……」




