外伝 大勇者夫婦エピ①
「よし!これで、この山の"コアライト"は討伐できた!」
太陽光が差し込まないほど木が生い茂る森で、"レオドール"は依頼を終わらせた。
「ふぅ…山を降りて、報酬貰いに行こ。」
剣聖であるレオドールは、冒険者として生きている。
だが、彼は人生の刺激の無さから、退屈していた。
「つまんねぇなぁ……たまには、転んだりしてみようかな。」
山を降りる道は2つ。見通しがいい泥沼の道か、暗黒の道。
だいたいの人間は、暗いだけで、道が綺麗な暗黒の道を選んで通る。
だが、レオドールは泥沼の道を、あえて選んだ。
────ベチャッ!
「相変わらず汚ぇ…ま、いっか。」
汚れても構わず進む。むしろ、苦戦する戦闘を思い浮かべる。
(こんなに足元が悪いなら、滑ることも考慮して、つま先で踏み込む必要があるな…)
そう。彼は、大の剣術オタクだった。
「どわっ…」 ───ベチャッ
もうすぐ森を抜けるところ。彼の歩く先で、誰かが転んだようだった。
足元を見て進んでいるため、前に誰がいるかなんてわからない。レオドールが顔を上げると、黒い髪の女の子が転んで、地面に倒れていた。
「……え、大丈夫すか?」
女の子は、ゆっくりと腕を上げて、グッジョブと表す。
「ぷはっ…あはは!」
普通の人なら、「大丈夫」と言ったり、起き上がったりするのに、女の子は顔も上げずにグッジョブを示すだけ。
レオドールは、意外な返答に笑ってしまった。
「はは…大丈夫なの、どっちなの?あはは!」
レオドールは女の子を助けようと、近寄る。
グッジョブの手を握り、女の子を起こす。
「ありがとう……」
女の子は、顔を泥まみれにしながら言う。
「どこ行こうと思ったの?」
「うーん…この泥沼を、魔法で再現してみたくて。」
「ふーん…じゃ、魔法使いか?」
「そうだね。私は魔法使いだよ。逆に何に見える?」
「魔法使いだよ。」
「そっか。良かった…」
女の子は、なぜかホッとした表情になる。
「俺はレオドール。」
「私はアリフィア。助けてくれて、ありがとう。じゃ。」
アリフィアは一礼して、泥沼を進む。3歩ほど進んで…
────ベチャッ
また顔から転ぶ。一部始終を見ていたレオドールは、笑い転げる。
「あははは!大丈夫かぁ?」
相変わらず、グッジョブを見せる。
レオドールは素早く、アリフィアの方に行くが、泥沼が絡みついてきて転んだ。
「大丈夫?」
アリフィアは問いかける。
「あぁ。気分は最悪だがな。」
「大丈夫。私と同じだから。」
「そうだな。よっ…と。」
レオドールは起き上がる。アリフィアも起き上がらせる。
「俺はもう帰るけど、気をつけろよ〜。」
「私も帰る。」
そう言って、アリフィアはついてくる。
「もういいのか?」
「うん。もうわかった。再現もできたし、十分。」
「そか。」
すぐに森から出る。出ると、太陽光が2人を照らした。
「眩し…お前、大丈夫…」
レオドールは息を飲んだ。
先程まで黒色だったアリフィアの髪から、少し虹色が滲んでいる。
「……きれい。」 ボソッ
「何か?」
レオドールは、思わずこぼした言葉を恥ずかしく思った。
「いや。なんでもない…」
「転ばせたから頭がおかしくなったのかな…?」 ボソッ
「おい…」
アリフィアは驚いている。
「な、なに!」
「転ばせたって、どういうことだ?確かに、泥沼が絡む感覚はあったがよ…!」
「なんの事だかさっぱり!決して、ちょうど君がいたからやってみたとかじゃない!」
アリフィアは、綺麗に自白した。
「はぁ…まぁいい。きっとお前も、転んだとき頭がイカれたんだろ。」
「私はイカれていない!」
「イカれてない奴は、「人いる!やってみよ!」で人を転ばせたりしねぇ!」
────ギャーギャー
2人は言い争いながら、街に向かう。
この2人が後の、大勇者パーティの大勇者と、その仲間となる。
2人はまだ知らない。将来、2人は結ばれることを…




