26話 ノアの秘密。
「……ア!…ノア!起きてくれ、ノア!」
「ん……?おはようございます…」
ノアの意識が、少しずつハッキリしてくる。
「…!お、おはようございます!」
ノアを起こしていたのは、レイだった。
「おはよう。もうお昼時だよ?ちゃんと起きないとダメでしょ。」
「すみません…あの、ソフィアさんはどこでしょうか?」
あの後、ノアは寝落ちした。だが、一緒のベッドにいるはずのソフィアがいない。
「ソフィアは、仕事。」
「そうですか…。レイさんも、お仕事なのにすみません。」
「僕は今日、休みだよ。」
「…休み?」
ノアは、キョトンとする。
「うん。今日も休み。ノアの相手だよ♪」
「私の相手……ほ、本当にすみません!私がちゃんと起きないから…」
「いいの!僕は (ノアが)好きで相手してるんだから♪」
「好きで…?え、でも、休みなら自分のやりたいこととか、した方がいいですよ?」
(あはは〜。真面目〜♪)
「うんうん♪そだね〜♪」
「……なので、いいですよ。私、もう起きましたから。」
ノアは、レイの手を煩わせるわけにはいかないと思い、遠慮する。
「うんうん♪」
レイは、ノアの気遣いに気づかない。
「なので…えっと、私は、着替えたいので部屋を出ていただけますか……?」
「……わかった。」
レイは、トボトボと部屋を出る。
「なぜ、レイさんは休みなのに、 (面倒を見るのが)好きだからって、休みの日も…?」
色々考えながら、ノアは支度をして部屋を出る。
「うわっ!」
部屋を出ると、レイがいた。ずっと待っていたようだった。
「失礼だなぁ。ずっと待ってたんだよ?」
「いえ…てっきり、いないと思っていたので…すみません。」
「待ってるとは言ってなかったし、仕方ないか。ノアの今日の予定は?」
「私ですか?」
「もちろん!」
レイは何か期待する目で、ノアを見つめる。
(特に予定は無いけど…魔法書でも見に行こうかな。この国の魔法書は、見た事ないような気がするし。)
「私は、本屋さんに行こうと思います。魔法書を見たいので。」
レイは返事を聞くと、考えるポーズをとる。
「魔法書なんて無くても、僕に聞けばいいんじゃない?」
(僕は「ちょうどいい魔法書」として役に立とう!仲を深められるなら何でもいいって、"あいつ"も言ってたしなぁ)
〜昨日の夜〜
レイは、情報屋時代の友人"トゥルー・シャドル"と会った。
「伝説の情報屋さんが、一体全体何を思い悩んでるんだ?」
久しぶりに会ったトゥルーは、レイの部屋で一緒に酒を飲んでいる。出会いこそ最悪だが、悪い奴ではない。多分。
「僕は別に、悩んでるわけじゃない…」
「悩んでない奴は、ブツブツ何か言いながら廊下を歩くことはしないんだなぁ。これが。」
トゥルーの言葉に、レイは身構える。
「しぃかし…お前はなぜ、ノアなんていう子1人に悩んでるんだか。」
「…!なぜだ?どこから漏れた!」
「手紙をある人から見せてもらってねぇ。随分と情熱的じゃな〜い?」
「誰から見せてもらった?」
「それはぁ、ひ・み・つ♡ チュッ♡」
トゥルーの投げキッスを見て、レイは寒気がした。
「ギルド長のやつか…」
「……さぁすが!よくわかんね。」
「はぁ。で?何が目的?」
「依頼主が、ノアちゃんに会いたいらしいんだよ〜!「独り占め、ずるい!」ってことらしいよぉ。」
レイは本気で悩み出す。
「でぇも、なんで独り占めすんの?どんだけ特別な奴でも、ギルド長たちには紹介してたのに。」
「……これは、トップシークレットなんだ。」
「トップシークレット!気になる〜♪教えてよ。」
「え、嫌だけど。」
レイが拒否する時は、絶対に貫き通す。それを知っているトゥルーは、諦めて立ち上がる。
「じゃぁ、いいよ。諦める。」
「とっとと帰れ。」
トゥルーは背を向けるが、何か閃いたようにレイを見る。
「なぁ…あの子になんか秘密があんだろ?」
「…あったら、なんなんだ?」
「独り占めの理由は教えなくても……」
トゥルーは、レイにド直球に聞いても答えてくれないと考え、考える。
「なんだよ?」
「いやぁ?ノアちゃんのすごさとか、正直わかんねぇんだよなぁ〜」
───バンッ!
レイは机を殴りつける。木製の机は、粉々に壊れる。
(お…怖い。)
「ノアのすごさが…わからないだと…?」
「あ…あぁ!全然だなぁ!ぐえっ…」
レイはトゥルーの首を掴む。
「かはっ…し、死んじゃ、う!お、教えて…くれよ……!」
「あ、そっか。教えればいいのか。」
レイはトゥルーの首から、手を離す。
「ケホッ!ケホッ!…はぁ、死ぬかと思った…」
「ほら。座れ♪」
笑顔のレイは、トゥルーにとって良くないことの前触れだった。
「…はい。」
「では、話してやろう!ノアのすごさ。あぁ、でもまずは、契約書を書くぞ。」
「なんの契約書?」
「伝えたことは、口外しない。口外したら、お前は死ぬ。いいな?」
「はい。」
レイは紙とペンを差し出し、署名させる。
トゥルーが名を書き終わると、契約書が光る。光となった契約書は、トゥルーの左胸に刻まれた。
「なっ…!」
「よぉしよし!いい子だなぁ♪じゃ、始めるとしよう!ノアの秘密を♡」
レイは気にせず話し出す。
「ノアはな、大勇者の娘なのよ。」
「……は?」
「びっくりだろ?だけど、本当のこと。」
「いやいや!ヴァン・レイディアだろ?」
「違うよ。」
トゥルーは混乱する。
なぜ世界機構は、ヴァンの嘘を咎めない?大勇者も、なぜ嘘を主張しない?大勇者夫婦は何をしてる?世界機構と大勇者夫婦は知らないのか?
そんなことを考えるが、行き着くのは……
「なんで、お前がそんなこと知ってんだ?」
「……細かいことは気にしないの!ノアはね、古代…」
「言え!これがもし事実なら、ヴァンが悪人だったら、世界は壊れるんだぞ……?」
トゥルーは怒鳴る。レイから笑顔が消える。
「そんなことで、いちいち怒んなよ。」
レイの圧で、トゥルーは震える。
「そんな震えんなって!"釣る魚は、デカイ方がいい"だろ?」
トゥルーは俯く。
「まぁいいや。ノアが大勇者の娘なのは本当のこと。大勇者夫婦は、引退したあと世界との関わりを絶った。」
レイは立ち上がり、粉々の机の破片を集めながら話し続ける。
「世界機構や4つの国が何も言わないのは、大勇者夫婦が正式な発表をしないから。しないというより、できない。死んじゃってるから。」
「死んでる…って?」
「ああ。残念だけどね。ルカの教え子だったし、本当にいい子たちだったから…」
トゥルーはレイの胸ぐらを掴む。
「おい…お前、なんで世界機構からその発表がないんだ!」
「……もちろん…知られていないから。ルカなら、子供が産まれたことくらい知ってるかもだけど。」
(あの2人は、ルカをとても慕っていたし…)
レイはグラスの酒を飲み干す。
「世界機構と大勇者夫婦の間には、不可侵条約みたいなのがあってね。勝手に調べたりは、ご法度ってことで世界機構は動けない。」
「なら、お前が…!」
「静かで平和な日常を望んでたのは、お前が1番わかってるだろ?」
「それは…」
トゥルーは大人しく手を離す。
「もし、墓参りに行きたかったら、2人の住んでた家の場所教えるよ。」
「…いや、いい。ノアちゃんの話、続けろ。」
「うん…ノアはね、古代魔法である無詠唱魔法を復活させたんだよ。」
レイは普通にノアの話に戻る。
(こいつ、本当におかしいな…)
「そりゃ、すごいな…」
「!」
(トゥルーが「すごい」と?)
レイは嬉しさで羽が生える。
「何羽生やしてんだ?」
「だって、トゥルーが「すごい」って!ノアには、トゥルーを唸らせる力がいるんだ!」
「はいはい。で?」
「あ、そうそう!でね〜」
レイはその後も、惚気話をし続けた。
「て、感じなんだよね〜!いい子でしょ?」
「うんうん。話を聞く限りは、すごい子だな。で?お前はノアちゃんとどうなりたいわけ?」
「えっ…」
「いやいや。昼間は恋人ができたのか不安で、ストーカーじみたことやる、その行動。話す熱量からも、好きなの丸わかり。」
「あぁー!」
レイは顔を真っ赤にする。
「僕……わかりやすい…よね?」
「ああ。見てられんくらいだ。」
「だよね…あんなにアピールしてるのに、全然気づいてない感じだし…」
「あれで気づかないのか?」
「……うん。」
(え…結構デレデレだったじゃん。手紙も読んでたのに、求愛に気づかずにキモがられてんのは、面白かったけどさ…)
「お前も、大変だな…てか、俺に話してよかったの?」
「いいよ。本命の理由は別だから。でも、どうしよ…」
(本命の理由は別か…聞き出せそうにないな。)
「何が?」
「……お前って、恋愛相談とかのれる?」
「いいよぉ?けど、その代わりにノアちゃんに会わせてよ〜!」
「お前、OKすると思う?」
レイは睨みつける。
「いいじゃん…大勇者のアリフィアナさんには、よくしてもらったし……」
「……いいよ。でも、お前は…えっと、人体模型だ。いいな?」
「…は?人体模型?」
「明日、2時な?今日、泊まってけ。」
「お、おう…」
レイは布団をひきだす。
(マジで泊まらせんだ…)
「あ、ありがとな。」
「明日はノアとデートする。」
「え…マジで?もう誘ってたの?」
「明日誘うんだよ。」
「思い切ったな…」
レイは布団に潜り込む。
「うるさい!明日は朝から作戦立てんだから、早く寝ろ!おやすみっ!」
「はは!おやすみ。」
〜初めにもどる〜
「レイさんに聞いていいんですか!」
「いいよぉ。でも、さん付け止めよっか。」
「あ…はい。忘れてました…」
「はい♪リピートアフターミー!"レイ"」
「レイ…」
「よし!行こう!」
「どこへ?」
「デート!」
「でーと?」
(でーと…デート?あ、デート(研究)ね!)
ノアは、ロアンと魔法の練習に行く際は、研究ということにしていた。
レイはノアを連れて、山に行く。
山にはトゥルーがいる。人体模型という立ち位置で、レイのデート?をサポートするためだ。
「えっと…初めまして。」
「はぁじめましてー。レイのお友達で、人体模型やぐ(役)っ…!」
レイはトゥルーを殴り、ヒソヒソと話し出す。
「お前…人体模型役とか言うな!「一緒に勉強しよー」くらい言えねぇのか?」
「ちょ、キャラ変わりすぎ…怖いよ…」
「チッ!」
レイは振り返り、ノアに説明しだす。
「ノア〜。このおじさんはね、一緒に魔法を教えてくれる優しい人だよ〜。でも、変に話しかけたりしないようにね!」
「は、はい…」
「で、何が知りたかったの?」
ノアは躊躇いながらも、ポーチから魔法陣を出す。
協会の図書館で見つかった研究室の魔法陣だった。
「その…すみません…気になって、自分で作ってみたんです…」 (大嘘)
「あぁ…なるほど。…うん!いいよ!」
(絶対協会で見つかったやつだ〜)
レイはノアから頼られるという事実が、嬉しくてたまらない。
そんなレイに、トゥルーは耳打ちする。
「おい…これ、協会のだよな?」
「黙ってろ。」
ノアは、断られると思っていたのに受けてもらえて、とても喜んでいる。
「本当にいいんですか?私、何の精霊が封印されてるのか、忘れちゃって…あと、魔法陣を神聖魔術と魔法を分離したくて。それと!」
「あぁ、1個ずつやろっか♪」
「はい!」
ノアの目がこんなに輝くことはない。
(ノアが…この僕に、こんな眼差しを向けてくれている…!天使……!)
「精霊は、森の精霊だね。」
「見てわかるんですか?」
「うん。読み解けばわかるようになる。まずは、精霊記号を覚えればいい。」
「わかりました!覚えておきますっ!」
「この精霊はね〜」
レイは普通にノアと話す。2人を見ているトゥルーは、久しぶりに見るレイの楽しそうな姿を微笑ましく思う。
(ふつーに話せんじゃん。)
トゥルーは、2人が見ている魔法陣を覗き見る。
「うわ…」
紙が文字や記号で、びっしりと埋め尽くされている。
「どした?」
「いや…紙の文字密度が、多いなと。」
「これは、ほとんどが神聖魔術の記号。精霊を具現化するためのものだ。ノア、本来の精霊はどういったものだと思う?」
「戦場の精霊のように肉体を持つのは、珍しいと聞きました。なので、うーん…魔力の塊みたいなものですか?」
「ま、そんな感じだね。魔力の塊で、光を放つ。妖精みたいな感じだね。」
本格的な研究者トークが始まってしまい、トゥルーは眺めることしかできない。
(あはは…入る隙が無いな…)
レイはその後も、ノアと研究デートを続ける。
「精霊は、妖精みたいな感じなんですね…」
「ああ。妖精に会ったことは?」
「無いですね…会いに行きましょう!どこにいますか?」
「い、行くの…?」
「もちろん!」
ノアは、目を輝かせながら言う。
「えっと…妖精って、今は観光資源でもあるんだよね…」
「なるほど…それで、どこに行けば会えますか?」
「勇者国"ユアリーベ"…だよ。」
レイは乗り気では無い。
トゥルーは、レイの反応を見てニヤニヤする。
「ユアリーベ…行きます!私、妖精に会ってこようと思います!ありがとうございます!」
ノアは、山を降りていく。
「あ、ちょ…」
レイは止めるタイミングを逃した。しょんぼりするレイを、ニヤニヤと見つめるトゥルーは言う。
「デート、どう?手応えある?」
「……無い!」
「だろうなぁ♪ノアちゃん、魔法陣にしか興味ないし!あはは!」
「わかってるよ…」
「ノアちゃんについてけば?」
「無理。まず、仕事が立て込んでる。しかも……」
「お前は妖精に嫌われてるもんなぁ?あはは!」
レイはムスッと拗ねる。
「妖精の話、するんじゃなかったな…」
ノアは、山を降りながら考える。
「ユアリーベって、どうやって行くんだろう?ま、いっか!妖精は観光資源って言ってたけど、どういう感じなんだ?あぁ!早く見たい!お話とかできるのかな?」
ノアは、会ってもいない妖精に思いを馳せる。
だが、ノアはまだ知らない。
妖精とは、ノアの思う可愛い生物じゃない、ということを。
朝の作戦会議内でのお話
「ノアは魔法にしか興味を持たない!だから、魔法書を探す、本屋巡りがいいと思う!!」
「いぃや!本なんてたくさん読んだだろう!未知の経験を得る方が、余程楽しいはず!あえてやったことのない、"普通のデート"をしてみるべきだ!」
作戦を立てようと思って話し出したが、2人の意見は対立している。
「クソ…魔法にしか興味がないんだぞ?」
「研究者なら、未知を追いたいと思うのが性だ!」
2人は睨み合う。が、疲れたのか座り込む。
「もう…ノアちゃん自身に聞けば?」
「確かに…やりたいことをやらせたいな…」
(意外とちゃんと想ってんのな…)
「本気なら、ノアちゃんと距離を縮めないとな。」
「ああ!だが、全然気づかないんだぞ?どうしろってんだ!」
「もうこの際、お得意の魔法で惚れさせろよ。」
「嫌だよ。無理やりなんて…」
レイはモジモジしている。惚れさせるのは、問題なくできるのだろう。
「はぁ…なら、仲を深められるなら何でもいい。ノアちゃんにとって特別な"何か"になれ。」
「……え。なんか、頼もしいかも。」
「え、キモいよ?」
「"可愛い"だろ?」




