23話 魔王討伐 後編
遅れてすみません
「なるほど。狂信者か!」
戦場の精霊の言葉を聞いて、ノアは首を傾げる。
「狂信者って、誰のことですか?」
「お前のことに決まっているだろう。」
「決まってませんよ。そんなことより、始めましょう。」
精霊の目には、ノアが自信に満ちているように見えた。「だが、魔力量は少ない。」それがノアへの評価だった。
「その自信、過信だろう。」
「自信…?何の自信ですか?」
「私に勝てると思っているんだろう?だから挑んでくる。」
「いえ。……ただの知的好奇心です。」
「へぇ…」
精霊は魔法を使う。
「槍を出したと思ったら、魔法も使うんですか?すごいですね…」
「お前は魔法使いだ。魔法がお好みだろう?」
「はい!」
(私に合わせてくれるなんて、優しい精霊なんだ…)
精霊は魔法を連発する。
ノアは避けながら魔法を観察する。
(火属性…風属性…土属性ね。他にも、銃や剣の生成…)
───ヒュン
「っ?!」
咄嗟に避ける。赤い何かが、ノアの腕を掠める。
腕を見ると袖が少し切れ、赤く染まっている。腕に傷はついていない。
「血…?」
「よくわかったなぁ。だが、避けてばかりでは意味がない。」
「いえ。もう少し見せてもらいたいです。武器を生成する魔法をお願いします。」
「なるほど。武器で死にたいと…?」
「できれば、魔法が原因で死にたいですね。」
精霊は自分の周りに銃を生み出す。
尽きることのない弾丸を、ノアに向けて放ち続ける。
(不思議だ……人類に出会えば心が荒れるが、このガキには落ち着いている…)
「どうなっているんですか?通常なら、鉄の塊が飛ぶはずですが、それは魔力が放たれています。」
「そうなのか…?古代人類は魔力でやっていたからな。時代が変わった証拠だ。」
「なるほど…では、鉄の塊は作れますか?」
「ああ、できるが?」
「それを魔力の変わりに使うんです。」
「なるほど。」
バンッ!───ボンッ
「なんだ?」
「あ…」
銃は暴発した。そのせいで、精霊は右眼が無くなった。煙が立っていて、精霊はノアが見えない。
「お前……謀ったな…?」
「鉄の塊に問題があった?…あぁ!銃を撃つには、火薬が必要なのに魔力で撃った。であれば、鉄と魔力の相性が悪いという仮説が立てられる…」
ノアはブツブツと独り言を言いながら、杖を振る。
ボンッ!
「クソッ…」
精霊の周りで、たくさんの激しい爆発が起こる。精霊は損傷した身体を、容易く治した。
「魔法を見ていたいのではなかったのか!」
「見ていたいのもあったんですけど、レイさんが向かってきてて…」
精霊がテントの方向を見ると、ノアたちに向かって走ってくる。
(あいつ、高ランクか…なんか、ボロボロだな。)
「あいつがお前の上司ということか?それにしては、ボロボロだ。弱いのではないか?」
「上司…ではあると思います。強さは知らないですね。怖いですよ。」
「あっちから殺そうか…」 ボソッ
「何か言いました?」
「いや。お前は、これの相手でもして待ってろ。」
精霊は魔法で、鉄の塊を込めた銃をノアの近くに作った。
「っ!」
ノアは暴発を避けるが、銃は追ってくる。
精霊は、レイに向かって飛んでいく。
(あのガキと戦った後だと、レイとかいうやつには勝てないかもしれない。弱っている時に殺った方がいい…)
レイは頭上にいるノアと精霊を見ていた。
「やっぱり、わかってた通りの"魔法オタク"だなぁ。」
そんなことを言っていると、精霊がこちらに来る。
(ん?なぜだ?)
その時、ノアの周りに作られた銃が暴発した。
「……クソ野郎…」
レイは抑えていた魔力のオーラを一気に放出する。
精霊の動きが止まった。レイの圧を感じて、動けなくなったのだ。
「おい……おい、おい、おい!なんなんだ!その魔力量!先程までボロボロで、ほぼ魔力が無い状態だっただろう!」
「…僕は、魔力を回復するのが早くてね。ところで……ノアに何してくれてんだ?」
レイは精霊を睨みつける。
「だが、我は精霊!お前の魔力でどうにかなるわけがない!」
「そう思いたければ、思っとけ。そんなことより、防御に徹した方がいいんじゃねぇか?」
「何を言っ…」 ───シュンッ
精霊の四肢が、容易く切断された。
「さっきのは暴走状態だったからな。兵士たちに被害が出ないよう、軽い魔法しか使えなかった。手を抜いてすまなかったな…」
精霊は煽られたことで、怒りが込み上げてくる。
「……が!」
「ん?なんか言ったか?」
「クソが!お前、殺す!」
「不本意だが同感だ。」
そう言って、レイは精霊に向けて手を出す。
「ノアへの魔法は解いた方がいい。そんなことしてたらお前、死ぬぞ?」
「死ねぇぇぇ!」
精霊はレイに火の斬撃を与えるが、水の障壁で防がれる。次々に魔法で攻撃を仕掛けるも、レイには通用しない。
「……なぜ?」
「お前が弱いからだ。」
精霊は、ノアへの攻撃を解いて剣を生成する。
────ビュンッ
精霊は剣を強く振る。
「っ!」
レイは咄嗟に避けるが、腕に軽い傷を負った。
────シュワシュワ…
「これは剣に毒をまとわせた物。人間には耐えられまい。」
「クソッ…」
(精霊の体内をイメージ…体内で爆発するように……詠唱は…)
「"バブルボム"…」
「…?」 ───ボコッ…ボコボコッ……ボンッ!
精霊の身体は爆発によって、粉々に粉砕された。
「く…そ……"散"!」
精霊の肉片が、レイに向かって猛スピードで飛んでくる。レイは肉片を燃やす。
肉片はノアの方にも飛んでいくが、全ての肉片をレイは燃やした。
「終わったか…だが、なぜ2体目の精霊が出た?1体目と比べて温厚だったが、ノアの時と僕の時とでは違った。何がそうさせた?」
レイはノアの方に行こうと、テレポートする。だが、同時にノアもテレポートしたため、レイが空中に来た時にはノアはいなくなっていた。
「ノア?あれ…入れ違い?」
レイは自分のいたところを見るが、ノアはいない。
「見失った……どこに?」
ノアが起きた頃、勇者と魔王は戦っていた。勇者の疲労は確実に蓄積されている。
「いつまでやっているつもりだ?勝てないことくらい、わかっているだろう?」
「それでもやるんだ…!」
「はぁ…」
魔王はため息をつくと、九尾の姿から人間に変わった。
「私は人型になって、魔力を使って大きさを維持する必要が無くなった。魔力を攻撃に使えるため、さらに威力が強い攻撃になるだろう。降参して、帰れ。」
5時間以上攻撃を与えていた勇者は、考える。
(ここで帰れば、再戦の備えができる…だが、一方でこの戦争は終わらない……)
「"アースアロー"」 ───グサッ
「っ!」
勇者は魔法で、地面から土の槍を魔王に刺した。
「なぜだ…?」
「別に武器があるからと言って、攻撃がそれだけだとは言っていない。」
勇者はそう言うと、切りかかる。
刺さった槍は、魔王の身体を浮かせていた。そのため、魔王は攻撃を避けられない。
魔王は咄嗟に結界を張る。
「結界を張ったところで、この武器は相殺するんだろう?」
「っ!」
勇者の攻撃は魔王に大きな傷を与えた。
「う…はぁはぁ…」
魔王は神聖魔術で傷を癒やす。
勇者は膝をついている魔王のすぐ後ろで、剣を振り下ろす。
「あ"ぁ!……痛い!」
「神聖魔術で癒やせばいいだろう?」
「はぁはぁ…」
またも魔王の傷はすぐに癒える。
「クソッ…」
魔王は逃げようと地面を蹴る。
「"アースマッド"」
「うぁっ!」
勇者は地面の状態を泥に変える。
魔王は案の定、泥にはまって動けない。
「お前は、今まで……何人の兵士、勇者を葬ってきた…?」
勇者は魔王の首に剣を当てながら聞く。
「それを聞いてどうする?聞いたところで殺すのだろう?」
「そうだな…だが、なぜ?……なぜこのような残酷なことができる?」
(どうせ死ぬ…ならいっそ……)
「恨みだ。お前ら人間は、私のことを都合よく使い、用が無くなったら捨てた…!魔王を産んだのは、人間だと言うことだ。自業自得!惨めだな!」
勇者は魔王の首を斬る。
魔王の視界には、自分の身体が映る。
(あ……崩れてる…)
魔王の身体は、指先から徐々に魔力が流れ出て崩れていく。
────ヒュンッ
「待ってくださ…あ…」
ノアがテレポートして来た。
(遅かった…)
落ちている魔王の首を見て、ノアは後悔した。
「ノア…?なぜここに?」
ノアは勇者を無視して、魔王に問う。
「あの、魔王の九尾さんですか…?」
「そうだ。負けたがな…」
「あなたには、兄弟がいたんじゃないですか?」
「……なぜ、それを?」
ノアはポーチから、指輪型の魔法具を取り出す。
「えっ、どうやるんだろ?開けゴマ的な呪文?」 ボソッ
ノアは魔法具とにらめっこを始める。
「おい勇者…あの子は何をしてるんだ?」
「さぁ?全然わからん。」
ノアは勇者を見る。
「これ、どうすれば解けますか?」
「いや、わかるわけないだろう…」
「そうですよね…九尾さんは、わかりますか?」
そう言って、ノアは魔法具を魔王の顔の近くに持っていく。
その時… ───ピカッ
「なっ?!」
勇者が声を上げた。
ノアは目をぱちくりさせている。
(なるほど。九尾同士、波長が合ったと…)
魔法具から九尾が解放された。
「新しい魔王か?!」
「違いますよ!魔王さんの兄弟です。離れ離れになって、ずっとこの魔法具に封印されていたんです。」
九尾は魔力が無くなりそうで、少し透けていた。
「お姉ちゃん…」
魔王はポツリと言う。
「ココ…?ココなの?」
(ん?ココ…?)
勇者はひっかかる。
魔王の目から涙が溢れる。
「うん…!お姉ちゃぁん、私、ずっと探してて…」
「ごめんね。一緒にいてあげられなくて…」
「ううん。いっぱい話したいこともあるの!育ててくれた人もいてね…」
魔王は話し出すが、九尾は魔力が尽きそうになる。
ノアはしゃがみ込んで九尾に魔力を補給するが、魔力を受け入れない。
「封印されてた時間が長かったから、受け取る能力がまだないんだ…」
ノアは立ち上がって勇者を見るが、勇者は静かに、首を横に振る。
「お姉ちゃん…?」
「ちょっと、眠くなってきちゃったな……ごめんね。お話、起きたら聞くから…」
九尾は目をゆっくりと閉じる。少しずつ消えていく。
「お姉ちゃん!目を開けて!…お姉ちゃん!」
九尾は何も言わず、目を閉じたまま消えてしまった。
「なんで、お姉ちゃんが…」
魔王は泣いている。
「勇者様…あの魔王は、昔に勇者様が育てていた狐です。」
「は?ど、どういうことだ?狐を育てたことなんて、ないぞ。」
「狐ではない動物なら、ありますか?」
「あ、ああ。犬だ。土で汚れていたが、洗うと綺麗な……白い毛で……」
勇者は魔王を見る。
「お前…本当に"アロー"なのか?」
「なんで、その名前を?記憶は消されたはず……あ!いや、そんな名は知らん!」
(なぜ?私を育てた記憶は、こいつの父が神聖魔術で消したはず…)
勇者は魔王の頭を持ち上げる。
「アローは…確か、犬では珍しい赤い目だった。お前も赤い目だ。」
勇者は魔王の頭を抱きしめて、泣き出す。
「ごめん……ずっと、探していたんだ。ある日急にいなくなって。」
(アローにこんな事(殺る)したのは自分自身…)
勇者は絶望した表情をする。すぐにノアに問いかける。
「ノア。アローは……死ぬしか、道はないのか?」
「えっと…」
「今更虫が良すぎるが、アローといたい。そして、助けたい。なぜ人間を恨むのかを聞いた。都合よく使い捨てられたと。」
「……」
ノアは俯いて、静かに頭を横に振る。
「…そうか。アロー…」
魔王を見ると、堪えていたであろう涙が溢れていた。
「うぅ……私は…気づいてたんだ。勇者が、育ててくれた人だと。でも、敵対関係だし、殺したくなかった…!」
勇者は、思い返してみる。確かに、命を奪う攻撃が勇者には来なかった。
「だから、せめて魔王のまま、勇者に討伐された悪者として終わろうと思ったんだ…最期に思い出してくれて、ありがとう。」
魔王は、涙を流しながら微笑む。
「ありがとう…"フィリア"。」
魔王の身体は、既に崩れ去っていた。頭もすぐに崩れていく。
「あ……待ってくれ…連れて行かないで…!神様…!」
フィリアはうずくまる。
「うぅ……うわぁぁぁ!」
子供のように泣き始める。
ノアはフィリアの背中を優しくさする。
(「記憶は消されたはず」と言っていた。なら、消したのは、勇者様の父だ。)
「テントに戻りましょう…」
「グスッ……ああ。」
2人はテントに戻る。
「……魔王は、討伐できた。皆、よく頑張ってくれた。ありがとう…」
フィリアは頑張って笑顔を作るが、声は落ち込んだままだった。
レイは、ノアを見るなり抱きしめた。
「ああ!良かった!大丈夫かい?怪我……は無い。良かった…!」
「あ…ありがとうございます……」
ノアがヘルプを求めるようにソフィアを見るが、ソフィアは涙を堪えるので手一杯だった。
そこへフィリアがやってくる。
「レイ…話があるんだ。ノアも…」
「?わかった。」
「はい…」
フィリアは、レイに詳細を説明した。
「な、なるほど。君が育てていた犬が、実は九尾で魔王だったと。育てた記憶は、ほぼ無いが魔王の言葉から意図的に消されたと思われる……と。」
「ああ。もう死んでしまったが、アローを助けたい。ただの魔王ではない。人間のせいで、魔王になるしかなかったんだ。」
「しかも、き…兄弟がいて、ふ…封印されてたと…」
レイは少し緊張しているようだった。
「はい。…レイさん、大丈夫ですか?」
「へっ?!…いや、大丈夫だよっ」
(バレてない…僕が魔法具の実験で狐を封印したのは、バレてない!)
「ふぅ…」
(落ち着け…)
レイは深呼吸をして、ノアに問う。
「ノアはどう思う?」
「私は……もし、そんな事をした人がいるとしたら、司教様の誰かだと思います。」
「そうだね。フィリアは心当たりある?」
「いえ…皆さんいい人たちだから……」
ノアは答えを知っているため、フィリアを誘導しようと問いかける。
「そ、そういえば勇者様のお父様は、司教だとか。何かお話を聞いたりとかないですか?」
「父は、大司教だ。」
「……へ?」
ノアは驚きを隠せない。
(あの優しそうなおじいちゃん司教が、そんな酷いことするわけ…)
ノアは考え、思い出す。
人は見かけによらないことを。
最後まで読んでいただきありがとうございます
24話お楽しみに




